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ぜろ

どっかに出そうと書いて、文字数が足りないっていう。

もったいないから投稿します。面白いか面白くないかは、個人的には面白くない。

体育の日は晴れの特異日だ、とかなんだとかお父さんは言うけど、そもそも特異日って何のことなんだろう。

嬉しそうに言うのは、晴れというくらいだから、どこかへ行こうとでも考えているのかな。散歩かな? それとも、旅行かな?

でも僕には関係のない話だった。僕は晴れてほしいわけじゃなかったから。実際今日体育の日は曇り空。一週間前から確認していた天気予報は、変わることなく的中していた。

近所にある丘が騒がしくなる前に、僕は仰向けで転がった。晴れの日は目が焼かれそうになるし、雨の日は濡れるのが嫌だから。だから僕は曇ってほしかった。


「よぉ少年」


流れていく雲の動きを見つめていると、空から声が降ってきた。


「やぁ青年」


降ってきた声は、頭の上に降り注がれる。頼るなら僕じゃなくて、同い年か上の人を頼ればいいのに。


「今日は見つかったか?」


「いや」


「よし、なら助けてくれ」


どんよりとした雲は青空を完璧に隠してしまっている。いくら風で雲が流されても、入ってくる光は微弱なものでしかない。


「んー?」


「ミスったんだよ、聞いてくれよ」


「んー」


空の向こう側には何があるんだろう。いつから気になったことだったか、はっきりとは思い出せない。答えもわかってる。空の先にあるのは宇宙空間。

広大に思える地球のすべてが、ごくごく矮小なものにすぎないと気付かせてしまうほど広い空間。でも僕は、そんな答えを求めているわけじゃなかったんだ。


「……ってわけなんだけどさ」


「あーそうなんだ」


「だからさ、一緒に来てくれよ」


「いいよ」


「ヒューッ! 助かるぜーっ!」


雲だけが映っていた目に、男の人の顔が紛れ込んできた。僕はあっくんって呼んでる人だけど、本当の名前は忘れてしまった。映ったあっくんの顔は、とても嬉しそうなものだった。


「よし行こうぜ」


「今から?」


「あぁ。ついでに食わせてくれるだろ、今なら」


何時だろう。飛び出した時間も見てなかったけど。あっくんは腕時計を突き出してくる。……あんまり、お腹は空いてないんだけど。

でもいいや。することなんて、空を見るくらいしか僕にはないんだから。


『ゆーちゃん? どうしたの?』


「今家の前にいるんだけど」


『あっ、ほんと? 待っててね、今行くから』


ピンポーンって押せたら楽だけど、ないんだよね、はねさんの家って。だから電話で呼び出した。ダンダンという階段を降りる音が外まで聞こえてくる。

爆発したのかって思う勢いで飛び出してきたのは、僕がはねさんって呼んでる女の人。いつもジャージを着ているその人は、今日もジャージを着ていた。


「ゆーちゃん、いらっしゃい」


「はねさん、こんにちは」


「どうしたの? 久しぶりじゃない、あたしの家に来るなんて」


にこやかに話しかけてくるはねさんは、僕を見つめている。僕は一人じゃなかったけど。僕の隣には、……いつの間にか後ろに回っていたあっくんは、口では言えないような顔をしていた。


「うん、あの……最近、あってなかったから」


「そうだねー、やっぱり、学校が違うからねー。寂しかった?」


「うん、あの……うん」


この人はここに何をしに来たんだろう。そればっかり考えていて、生返事しか返せなかった。僕はあっくんを見る。あっくんは固まっている。だから溶かそうと思って、肘で脇腹を突く。


「……よぉ」


「もう可愛いやつっ! ちょうどお昼準備してたところなの、一緒に食べましょ?」


「……あっ、えっ? うん」


「でもほんとに久しぶりね、ゆーちゃんと二人で遊ぶなんて」


「……」


「……」


「あの黒坂ってやつが邪魔だったからね、今まで」


黒坂……? 白坂なら知ってるけど……。白坂は、あっくんの苗字。でも黒坂は知らない。誰のことだろう。


「白坂だよ!!」


「今日は邪魔者なしで遊ぼうね~」


僕と同じことを考えていたあっくんは、はねさんに引っ張られる僕から離されていく。伸ばされた手と縋るような視線。僕はそれを、受け取らなかった。


「何しに来たんだ俺……」


ドアが閉まる直前に聞こえたような声は、ガチャガチャと鍵をかける音にかき消されてしまう。上から順番に三つかけて、チェーンも引っ掛ける。

そこまでやったはねさんはドアに倒れかかって、はぁはぁと息を荒げていた。


「今日は何やったの?」


あっくんが言ってたけど、僕は何も聞いていなかった。聞いていなかったし、あっくんから聞くよりも、はねさんから聞いた方がより正確だと思えたから聞かなかった。


「別に何も?」


だから今聞いてみた。でも、答えは僕が考えている範囲のものじゃなかった。


「嫌いになったの?」


「別に嫌いじゃないの。ただ、好きじゃないかもしれないってだけだから」


そう言われてから気付いた。この二人って、付き合ってたんだっけ? 改めて考えてみると、彼氏彼女という関係じゃなかったようにも思える。

でもそれは僕が入っていた時だけの話で、二人だけの時間は彼氏彼女の関係だったのかもしれない。邪魔だったのは僕。そうも考えられるよね。


「大丈夫っ」


声が聞こえる。……僕はどこを見てたんだろう。寝覚めのように覚醒した視界には、笑顔のはねさんが目前に迫っていた。


「何年一緒だと思ってるの? ゆーちゃんが生まれる前から、ずっとなんだからっ」


別に心配してるわけじゃないんだけどね。でもこれは僕を安心させるように言ってくれた言葉だから、額面通りに受け取ろうって思った。


「ゆーちゃんこそ、最近はどうなの?」


「何が?」


「見てるんでしょ」


「あぁ、うん。見えないね」


「そっか。見えるといいね」


いいのかな。そう思ったけど、口には出さなかった。これも考えてみたら僕は、見ようとしている。そう言っていただけだった。

それはきっと、見たいんだろうなって思われても仕方のないことなんだって思った。


「そうだね」


だから僕はそう答えることにした。ただこの場を凌ぐだけの言葉はきっと正解だった。はねさんは笑顔で頷いてくれたから。

でもそれはあくまでもこの場だけ。いつか来るその時に備えて、もっと上手い方法を考えないといけなかった。

あっくんとはねさんがそうなのかもしれないように、僕のせいでかけがえのない時間が失われないように。取り繕える言葉は、……あればいいんだけど。

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