表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/34

第八話 素直って素晴らしい


 今日もまた、お嬢様のお友達が遊びにくるようだ。

 いやはや、仲が良いとはいいことですなぁ。


 お出迎えの準備をする。

 程なくして、ドアがいたので前回のようにお出迎えをする。

 した。のだが、なんか貴文様の様子がおかしい。

 あれ、俺もしかして睨まれてる?


 なんでやねん。

 あれ~? 睨まれるようなことしたっけな。

 なんかこの感じ行成様の時を思い出すな。

 そういえば、前に来た時に貴文様はお嬢様を見て頬を赤らめてたっけ。

 あー、もしかしなくても、俺の事ライバルだと思ってる?


 な、なんでだ。

 お嬢様に恋愛感情はないぞ?

 俺が好きなのはさ、さ、桜山さんだけだ。


 取り敢えず睨んでくるだけで今のところ特にアクションを起こしてこないので、お嬢様の部屋へと案内する。

 何事も無く案内完了。

 その事実に少しホッとして執事業を続行する。


 廊下の掃除がてら頭の中でお嬢様のスケジュール管理をしていると、貴文さんに声をかけられた。


「あの」

「はい、なんですか?」


 睨んでくる視線を宥める様に優しく問いかける。

 

「吉岡お前、芹華に随分と慕われているんだな」


 お、おお?

 そんな嫉妬心全開で言われても反応に困ります。


「光栄なことにそのようです」

「思い上がるなよ。お前が芹華に好かれていようと、芹華の事いくら好きでいようと結ばれることはないんだからな!」


 あっちゃー。

 この坊ちゃん、何か勘違いしているな?

 俺とお嬢様の間に恋愛が発生していると。そう思っているんだろうな。

 ここはキッパリ否定しておこう。


「貴文様、私とお嬢様の間には主従関係しかないですから、安心して下さい。恋愛に発展することはないですよ」


 貴文様は俺の言葉に少しホッとしたような顔をした。

 行成様と違って素直で純粋だから助かる。いや、別に行成様を貶してるわけじゃないぞ?

 

「それは本当なのか?」


 貴文様が確認をしてくる。


「はい。貴文様はお嬢様の事がお好きなんですね」


 しっかり頷いた後、ちょっと俺の方からも確認してみる。

 すると、貴文様の顔が見る見るうちに赤く染まっていく。

 その様子は可愛らしかった。純粋か、っての。


「んなっ!? なななんで知ってるんだそんなこと! さては貴様、エスパーだな? あいや、べべ別に僕は芹華のことなんてこれっぽっちも好きじゃないぞ!?」


 動揺しすぎて矛盾しまくった事を言う貴文様。

 安心してください。弁解なんぞしてももうバレてるぞ。


「貴文様、私は貴文様の恋路を邪魔することはありません」

「だ、だから別に僕は好きじゃない!」

「それに、私は私で他に好きな女性がいますからね」

「へっ? そ、そうなのか?」

「はい」


 俺の言葉に、貴文様が興味を示す。

 敵対心より、同じ片想い同士仲間意識をもとうという算段だ。


「それは、誰なんだ?」

「社長秘書の桜山さんという方です」

「そうなのか……」

「はい。私たちは片想い同士ですね」

「だから別に……」

「隠さなくていいんですよ? 私も好きな人が誰か言ったんですし」

「う、そ、そうだな。僕は……せ、芹華の事が、すすす、好きだ」


 いちいち微笑ましい坊ちゃんだなぁ。

 しかし名家の御曹司として、将来的にもう少し表情を抑えた方がいいと思うぞ。社交的な場でも嫌いな相手が目の前にいたら思いっ切りしかめっ面してそう。

 というか、してたか。

 俺めっちゃ睨まれてたし。


 ふと、貴文様がこっちを見つめてきた。


「吉岡、僕は吉岡の事を勘違いしていた。ごめんなさい」


 まさか、謝られるとは思ってなかったので面食らった。


「いえ、貴文様が謝るような事はございませんよ」

「そうかな? よかった」


 貴文様は安心したように笑い、俺の方に向き直って


「頑張ろうな、師匠!」

「へ? 師匠とは?」


 急になんで師匠なんだ?

 と思っていると、貴文様が言った。


「だって、吉岡は僕の好きな人を見破っていたじゃないか。その才能、僕も見習いたいんだ! エスパーみたいでかっこいいじゃないか!」

「は、はあ……」


 目をキラキラさせて俺を見る貴文様。

 いや、俺がエスパーなんじゃなくて、君が分かりやすいだけだよ。

 でもいっか、言わなくて。

 こんなキラキラ素直な目で見られたら否定する気持ちがどこかへ消えていってしまった。


 俺は軽く貴文様の頭を撫でて


「さあ、そろそろお嬢様たちのもとへ戻ってはいかがですか?」

「ん? ああ。そうだな、師匠!」


 笑顔で去っていく貴文様を見送る。


 素直って素晴らしい。





 休憩室へ入ると、桜山さんが深刻そうな顔で座っていた。


「どうしたんですか?」


 と訊いてみるが、桜山さんは静かに首を横に振るだけ。

 仕事で失敗でもしたのだろうか。


 元気づけなければ。

 俺はそっと桜山さんの前に紅茶を出して言う。


「話したくないなら聞きませんが、遠慮せず吐き出してもいいんですよ?」


 すると桜山さんは静かにこっちを見た。

 今にも泣きそうな顔だった。


 そして、たっぷり間をおいてから桜山さんは口を開いた。


「こんなこと言われても困るかもしれないけど……」

「なんですか?」

「彼氏とね、喧嘩しちゃって別れそうなの」


 ……はて?


 カレシとは?

 カレシ。彼氏。うん。


 はい。彼氏いたんですね……。








 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ