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第七話 飛鳥井貴文

 

 僕には、好きな人がいる。

 それは同じクラスで幼馴染みの西園寺芹華だ。

 芹華は可愛くて、優しくて、頭もよくて。天然ボケなところもあるけどとても素敵な女の子だ。


 僕が芹華を意識するようになったのは最近の事だ。

 その最近というのは、僕と司と小百合で芹華の家にお邪魔したときの事だ。


 みんなで楽しくジェンガをしていると、小百合がお手洗いに行き、体が弱い司が疲れて眠ってしまった時の事だ。とても都合がいいことに僕たちは二人っきり(正確には司もいるが寝てるので除外)になったのだ。

 芹華が間違えて僕の紅茶を飲んでしまったのだ。昔から一緒にいるしそれ自体はそんなに気にならなかったのだが


「あ、今の関節キスになりますわね……」


 と言って芹華が上目遣いに、ちょっと恥ずかしそうな申し訳なさそうな顔で見てきた。


 か、可愛い……。


 前々から可愛いのは知ってたが、というか僕たち四人組が超絶美形なのは知ってたが、心も体も成長してきた僕に芹華のそれは破壊力が抜群だった。

 更に、芹華としてはちょっと気まずかったのか


「私もちょっとお手洗いに行ってきます」


 と言って立ち上がり、急に立ち上がったので少しふらついた。それを僕が慌てて受け止める。


 顔が近い。


 間近で見ると、芹華の顔はやばかった。うん。語彙力が十歳の僕にはヤバかったとしか言いようがない。

 長い睫毛に縁どられた瞳は潤んでて、ちょっと恥ずかし気に逸らされている。ついさっき紅茶を飲んだばかりの唇は湿っており、なんだかちょっぴりセクシーだ。柔らかそうな髪の毛からはシャンプーのいい香りがして、もうやばかった。なにしろやばかった。


 そのまま僕が動けずにいて、芹華が何かを言おうとしたとき、


「二人とも何してんの?」


 小百合が帰って来た。

 僕たちは我に返ってお互いにサッと距離をとる。

 この時点でもう僕の心臓はバックバクだったし、既に意識し始めていた。

 そこに更なる爆弾をしかけたのが


「ああ、小百合おかえり。僕見てたけどこの二人イチャイチャしてたよ」


 司! 起きてたのかよ!

 しかも「イチャイチャ」って! カップルのすることじゃないか! ぼ、僕たちはまだカップルじゃない! ま、まだ? 今後? なるのか? 芹華と?

 うあああああああ!


 顔から火が出そうになるのを必死に抑えてそんな思考を巡らせる。


 こうして僕は、芹華の事を意識するようになったのだった。



  それから数日経って、僕は西園寺家主催のパーティーに招かれたので出席することにした。


 べ、べべ別にせせ芹華に会いたいからじゃないからな!


 気を取り直して。

 パーティー会場はいつものパーティーよりかは人がいた。母さんも大事なパーティーだって言ってたし、だから人がいっぱいいるんだろうな。

 隣に立つ母さんが「西園寺様に挨拶しに行きましょう。主催者ですからね」と言った。芹華を探す。


「芹華」


 探すと、芹華はわりとあっさり見つかった。

 芹華の横には行成さんと芹華のお母さんがいた。


「西園寺様、本日はお招きいただきありがとうございます」

「ありがとうございます」


 母さんに合わせて僕もお辞儀をする。


「いえいえ、飛鳥井家の方をお呼びするのは当然のことですよ」


 芹華のお母さんが優し気に笑う。僕の母さんも「まあ、ありがとうございます」なんて言って笑ってる。

 僕はこういう社交的な会話はあまり好きじゃない。お互い本音を隠しながら友好を深めようとする感じ。

 僕はそんな二人を尻目に芹華に話しかける。


「芹華、今日のドレスはいつもと違ってちょっと大人っぽいね。似合ってるよ」


 本心からそういう。

 芹華は前まではお人形さんのようなフレアスカートなどのドレスが多かったが、今日はいつもより控えめのフレアスカートに、少し肩が出ている深い赤のドレスだった。

 更に髪型もいつもと違ってハーフツインテールからハーフアップにしている。

 ちょっと大人っぽい。いつもと違ってこれも魅力的だと思う。


 芹華は僕の誉め言葉に「ありがとうございます」と言って微笑んだ。隣で行成さんがこれでもかと自慢げな顔をしている。

 ……この人シスコンなんだよなぁ。

 もし僕が芹華の事好きって気づいたら何されるか分からん。まあ、飛鳥井家と西園寺家は仲が良いしそれはないか。


 なんて考えていると、芹華が会場を見回してひとつ、小さなため息を吐いた。


「どうしたの?」


 訊くと、芹華は少し間を置いてから


「こんな豪華で素敵なパーティー、吉岡さんにも来てほしかったです」


 と、俯きながら言った。

 心なしか行成さんの表情が不穏なものに変わった気がする。


「えーと、吉岡さんって誰だっけ?」

「私の執事ですわ。とっても優しくて素敵な方なんです」

「そ、そうなんだ」


 え、え、「素敵」? 「素敵」だと?

 芹華がその吉岡とやらに好意を抱いているのは明らかだ。

 でも執事なんだろ? 有り得ないじゃないか。


 いや、もしかしたら禁断の恋とか言って成り立ってしまったりなんかしちゃったりしちゃうんじゃないか!?

 吉岡め、芹華の家に行った時にも会ったあの執事だよな?

 僕のライバルめ!


 僕が密かに敵対心をもった相手について、芹華は語り出す。


「吉岡さんはね、ジェントルマ」

「芹華、あっちに美味しそうなマカロンがあるよ。食べに行こうか」


 すると行成さんがそれを凄い勢いで遮った。


 あ、うん。そっか。

 行成さんはシスコンだもんね。

 今まで自分だけを慕ってくれた妹が、急に来た執事なんかにその座を取られそうになったら敵対心も抱くよね。

 心なしか笑顔が引き攣っている……。


 なんか怖いから適当に挨拶をして退散する。

 本当は芹華と回りたかったけど仕方ない。母さんズは他の人とも交流始めちゃったし。僕もそれに混ざらなきゃ。

 芹華は主催者の娘だけあって、芹華のお母さんに色々連れ回されていた。行成さんはその度に話しかけている女性を躱すのに手を焼いているようだった。

 大変だなあ。

 きっと僕もそのうちああなるんだろうな。


 一通り挨拶を終えると、僕は無意識のうちに芹華の姿を探していた。

 遠くの方に、同じく挨拶を終えたっぽい西園寺家の三人が見えた。芹華のお母さんは談笑しているし、行成さんは色んな女性につかまっている。

 芹華は完全に蚊帳の外だ。


 芹華のもとへ行く。


「芹華」

「貴文さん。どうしたんですか?」

「いや、芹華が寂しそうだったから」

「まあ、ありがとうございます。でもお兄様がたくさんの女性に声をかけられるのは立場上、仕方がない事だって、前にお兄様が言ってましたの。だから割り切ってますわ」

「そうなんだ」


 割り切ってるとはいえ、芹華はまだちょっと淋しそうだった。

 吉岡と敵対しなくても、行成さんは十分芹華に好かれてるじゃないか。


 なんて考えてると、司や小百合というおなじみのメンバーがやって来たので、みんなでパーティーを適当に回ることにした。


 こうしてパーティーは平和に終わった。



 後日、僕は芹華の家へ向かう。

 今日はまた芹華の家に遊びに行くことになってる。僕から誘った。

 今回も司と小百合が付いてくるが、僕の目的は遊ぶことじゃなくて吉岡に会う事だ。


 吉岡に牽制することが今回の目的だ。


 いざ、出陣!




 

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