第一話 天然お嬢様
俺は十歳の時にイギリスに渡り、そこの有名な執事養成学校に通った。
自分で言うのもなんだが俺は才能に溢れており、飛び級をして十五歳で首席卒業をした。卒業をする前に仕える家は決めるもので、今回俺は西園寺家の社長に雇われることになった。
実際仕えるのは社長令嬢の芹華さんメインで、教育係のようなものなのだが。
にしても西園寺家とはこれまたぶっ飛んだ家の執事になってしまった。
西園寺家は、由緒正しき皇親華族の血を引いており、更に昔からある大手企業の現社長、昭三さんの家そのものだ。
正式に執事になることを決めるとき、社長の昭三さんと面会したのだが、オーラと威厳が溢れるめっちゃダンディなおじさまだった。
そんな西園寺家は最近、芹華様の付き人を務めていた女性が何か不祥事をやらかしたとかで解雇されたのだそうだ。そしてその穴埋め且つ、丁度執事を雇おうとしてたらしいのでそこに俺が抜擢されたわけだ。
まあ天才的だからな。抜擢されてもおかしくはない。うん。
しかし前の人が起こした不祥事というものが気になるな。しかしそこについて詳しくは知れなかった。というかその話題になった途端に昭三さんのテンションがガタ落ちしたので聞くに聞けなかった。
そして迎えた初日。
今、俺の目には煌びやか三人衆が写っている。え? ネーミングセンスがないだと? ええいうるさい。
まず俺と同い年とは思えない程に半端ないオーラを纏った超絶クールな表情の超絶イケメン青年、行成様。
それから優し気で美しい、非の打ちどころがないような容姿を持った奥様、遙子様。
そして一番衝撃的だったのは、まだ十歳と幼く、身長も百四十センチ程の小さな少女だった。
少しウエーブがかった美しい茶髪に、奥様の面影があるがまだ幼い顔立ちのなんとも愛らしい少女、芹華様。天使かと思ったわ。
芹華様に笑いかけられて、鼻血が出そうになるのを堪えるのに必死になっていると、芹華様が学校に行くそうなのでお見送りをすることとなる。
芹華様が通っている学園は上流階級の家に生まれた人たち通うような私立の超名門学園、瑞宮学園だ。
瑞宮学園は初等科から高等科までエスカレーター式で進級できるようになっている。
更に瑞宮学園には瑞宮幼稚園があり、瑞宮学園初等科の生徒は大体その幼稚園から来た人たちだ。
たまにその名高さに憧れて庶民が受験をしてくることがある。しかし瑞宮学園は、外部生内部生問わず成績が少しでも芳しくないと厳重注意を受けたりと厳しいので、外部受験で受かるのは本当にごく一部だけなのだ。
ちなみに芹華様はそんな瑞宮学園初等科に通っており、全科合わせて二番目に階級の高い家柄のお嬢様だ。
そして一番目は、芹華様と同い年で常上華族の血を引いた、飛鳥井家の貴文さんらしい。
そんなお嬢様を見送った後は、執事としての仕事に専念する。
西園寺家の人々のスケジュールを把握。更には掃除などの雑務も手際よくこなしていく。
あまりの手際の良さに酔いしれていると、そろそろ芹華様が帰ってくる時間になったので無駄に広い玄関でお出迎えする。
「おかえりなさいませ。ご主人様」
ちなみに漫画とかによくある従者がズラーっと並んで「おかえりなさいませ」とかは無い。
西園寺家の従者は執事の俺、メイドが三人に専属のシェフが二人。後社長の秘書がいるが、社長の秘書は社長に付きっ切りだし、シェフも料理の仕込みなどがあるし、メイドは他の仕事も忙しいし、常に家にいるわけではない。
だから出迎えは執事である俺が一人で行う。
「ただいま帰りました」
芹華様がなんとも可愛らしい笑顔で挨拶を返した後、なんだか微妙な顔をした。
ん? 早速嫌われてるパティーンか?
と、そんな心配は杞憂で終わった。芹華様は破壊力抜群の上目遣いで
「呼び方、ご主人様だとなんだか違和感がありますの。私、前の執事にはお嬢様と呼ばれいたので」
と申し出た。
いやはや可愛すぎる。
「お嬢様と呼びましょうか」
と提案してみる。
すると嬉しそうな笑顔で納得の意を見せるお嬢様。
更にお嬢様の鞄を持ち、部屋のドアを率先して開けた俺のことを目を輝かせながら見てくる。
くっ。こんな純粋で天使のような子と一緒にいるなんて、平常心を保つので精一杯だ。
それからお嬢様とお話をする。やっぱり年に関係なく女ってお喋りが好きだよなぁ。
でも仕事でもあるのでしっかりと話を聞いておく。実際には右から左に流れているけど。
ていうか、お嬢様って意外と小悪魔なのか? 上目遣いおねだりをこの一日で二回もされてしまった。いや、可愛いんだけどさ。
すると家庭教師の方がやって来た。あー、このエデンタイムももう終わりか。
見ると、お嬢様は寂しそうな顔でこちらを見ている。
……。
「また、後でお話の続きをしましょう」
「! はい!」
……。
家庭教師と軽く挨拶を交わしてすれ違い、部屋の外に出る。
……にあれ。
なにあれえ!
くっそう頑張った俺! 頑張ったよ! ナデナデしたくって疼く右手をちゃんと抑えたよ!
あー、一年もしないうちに俺もそっち系の不祥事で追い出されそう。なーんてねっ☆
なんて考えながら廊下を歩いていると、すれ違い様に行成様にギロっという効果音がしそうな勢いで睨まれた。
え? 心読まれた?
いやいや、てかなんだあの鋭すぎる眼光。こわっ。