第七話:女将さんの依頼
―飛行機を降りると、そこは雪国でした。
私は、つい先ほど生まれて初めて乗る飛行機で生まれて初めて北海道に行くという快挙を成し遂げたばかりである。そんな私が飛行機を降りてすぐ抱いた感想がこれだ。流石に冬の北海道は格が違った。本当にここは日本?とつい疑いたくなるくらい見渡す限り白一色である。
「すごい・・・。」
思わず感嘆のため息を漏らし、目の前の景色に魅了されていた私を、空気を読まない晴明の声が現実に引き戻す。
「おーい、鏡夜!何ぼさっと突っ立っているんだ?早くこっちに来い!もうすぐ出発するぞ!」
・・・こいつには景色を楽しもうとする心はないのか。てか、今朝から思っていたけれど、私が客の時と全然口調が変わっているんですが。
そんな内心のツッコミを抑えつつ、私は一足先にタクシーを呼び留めていた晴明たちの元へ向かったのだった。
▼▼▼▼▼
タクシーで移動することおよそ三十分。私たちは、今回の依頼主がいるという場所へと到着していた。
「・・って、依頼主がいる場所ってここですか!?てことは、依頼主って・・」
「ああ、お前が想像しているとおり、今回の依頼主は・・」
そう言って、晴明は目の前の建物を見上げる。その建物は、この北海道の雪景色にマッチした、晴明の店の何十倍の大きさはあろうかという、日本建築の旅館だった。
「・・この旅館の女将だ。」
見るからに高級そうなその旅館の見た目にビクビクしている私とは対照的に、晴明と”ご隠居”は全く動じることなく自分の部屋に入るかのようにその旅館の戸を開けた。
「いらっしゃいませ。本日は、この旅館にお越しいただき、誠にありがとうございます。」
扉を開けた瞬間、目の前には着物を着た女性が膝をつき丁寧に私たちを迎え入れてくれる。そんな女性に対し、晴明は視線を合わせるように膝をつき一言。
「こんにちは。着物が素敵なお嬢さん。よかったら、今度私と一緒にお茶でも・・ぐはっ!?」
「お主は何いきなり口説いておるんじゃ!その女子を見ればすぐに口説こうとする癖、いい加減に治さんか!」
出会って数秒で口説き文句を言い始めた晴明の頭を、”ご隠居”がすかさず平手打ちする。しかし、叩かれた晴明は、なぜか得意気に胸を張るとこんなことを言った。
「俺にとっては生きとし生ける全ての女性が美しく思えるんだ。そんな女性に対し口説き文句の一つも言えないようでは男として失格だろう?だから、俺はどんな女性でも必ず口説くようにしている。これだけはお前に言われてもやめるつもりはない!」
・・えーっと、得意げに胸を張っているところ悪いんですけど、そろそろ旅館の人のことを考えてあげて?さっきから突然の事態に目を白黒させちゃっているから。
「本日はすみません。わざわざこんな遠いところまでお越しくださって・・・。」
「いえ、貴女のような美しい人のためなら、どこへだって駆けつけますよ。」
先ほど私たちを出迎えてくれた女性。どうやら彼女がこの旅館の女将で、今回の依頼をした張本人だったらしい。あの後、晴明の差し出した名刺を見た女将さんが、私たちが件の店の者であることを知り、この部屋まで案内してくれた。
「堅苦しい挨拶はいい。早速じゃが、依頼内容を話してはくれぬか?」
歯の浮くようなセリフを吐く晴明は無視して、できる女”ご隠居”が、自分の手元にある先ほど女将さんが淹れてきてくれたお茶を、私の方へ差し出しながら早速尋ねた。
”ご隠居”の言葉を受けた女将さんは、一度手元に視線を落とし、再び顔を上げた。その時には、晴明も仕事モードに切り替わっており、真剣な表情を浮かべていた。私も慌てて、内心の緊張を隠しながら真剣な表情を浮かべる。女将さんは、晴明と”ご隠居”の顔を少しためらいがちに眺めた後、意を決したかのように語り始めた。
「私の依頼は・・この旅館に住む女性の霊を成仏させることです。私がここで霊の存在を初めて感じたのは、数か月前のことでした。」
次回は、霊の現象を検証していきます。