第五十二話:覚悟の時
眠い~♪でも書いているとたっのしぃ~!
「さあな。少なくともお前の求めるものはここにはないぞ?」
そう言ってあからさまにとぼけてみせる晴明。すると、対する潔はどこか拍子抜けしたような表情を浮かべた。
「そ、そうなのか?疑って悪かったな。」
「そんなわけないでしょうご主人様!」
明らかに嘘だと分かる晴明の言葉にあっさりと騙される潔。しかし、そんな潔を叱咤する声が響く。先ほどドアの向こうから聞こえてきた女性の声と同じ声だ。しかしながら、その姿は見えない。その正体を探して私が視線を動かすと、青白い光を放っている箒が目に入った。
え?まさかあの箒が喋ってる?・・ないわ~。いくらなんでもそれはないでしょ。どこぞの魔法学校でも箒で空は飛ぶけれど喋ったりはしなかったし。
しかしながら、そのまさかであった。ふいに箒から放たれる光が強まったかと思うと、次の瞬間にはメイド服を纏った茶髪のロングヘアーが素敵な女の子が顕現していた。そして、その女の子は晴明に向かって優雅にお辞儀をする。
「お久しぶりです晴明様。できれば、純真無垢なご主人様をこれ以上からかわないでいただけないでしょうか。」
その丁寧な口調とは裏腹に、声色は非常に冷ややかなものであった。そんな女の子の態度に苦笑しながら、晴明は呆れた顔で潔に話しかける。
「・・相変わらずお前の相棒はよく分からないな。確か九十九神だったか?」
「ああ、『ホーキ』は俺の愛用している箒に魂が宿った九十九神だ。ただ、一つ言わせてもらえばホーキは俺の相棒ではなく妹だ。嫁もちゃんと俺の影の中にいる。」
潔が何を言っているのかはよく分からないが、とりあえずあの女の子の正体が本当に箒であることは分かった。そして、それと同時に晴明に明らかに敵意を抱いてる様子のホーキに対し、“ご隠居”が殺意のこもった目で彼女を睨み付けていた。その視線の鋭さに思わずドキッとしてしまったが、断じてロリコン魔女とは一緒にしないでほしい。
「九十九神が妹と嫁か・・。まあ、お前の特殊な性癖は置いといて、今日のところは帰ってくれないか?ほら、福岡銘菓の『ぴよこ』やるから。」
そう言いながら、晴明は後ろ手で“ご隠居”に合図を送る。その合図を受けた“ご隠居”は、殺気を解除し即座にその合図に従って行動し始めた。
「カナウ、舞。儂についてきて下に降りるのじゃ。もう奴の顔は見たじゃろ?ここから先は少々込み入った話になる故、お主たちには聞かせられぬ。」
確かに“ご隠居”の言う通り、これ以上ここにいる必要はないのだが、なぜ私達に聞かせられないのかが少々気になる。しかし、若干不満を抱いている私とは違い、舞は“ご隠居”のその言葉にすぐに従った。しかも、何故か真剣な表情で顔を引き締めている。
「・・分かった。なあカナウちゃん、ここは“ご隠居”ちゃんの言うことに従おうや。な?」
そんな私の気持ちを察したのか、舞が私の手をぎゅっと強く握りしめてそう言ってきた。そして、若干上目遣いで言われた美少女からのお願いを断ることなどできるはずもなく、私は“ご隠居”の言葉に従い階下へと向かったのだった。
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(あいつらは行ったか・・。これでこいつがボロを出しても問題ないな。)
“ご隠居”の気配が厨房から移動したことを感じ取り、晴明は心の中でほっとため息をついた。そんな晴明に、早速潔が突っかかってくる。
「おい!ホーキとゾーキンは俺の家族だ!特殊な性癖と言われる筋合いはない!そして、『ぴよこ』は福岡銘菓ではなくて東京銘菓だろ?」
晴明は、潔のその聞き捨てならない台詞に思わず怒りを爆発させた。
「はあ!?お前何を言ってるんだ!『ぴよこ』は福岡銘菓だ!東京銘菓じゃねえ!」
「落ち着いてください二人とも。別に『ぴよこ』の産地がどこであろうとどうでもいいでしょう。それよりも重要な話があるはずです。」
晴明は内心どうでもいい問題ではないのだが・・と思いつつも、確かにホーキの言う通りなのでここは気持ちを切り替えることにした。そして、同様に真面目な表情となった潔が早速本題を切り出してきた。
「ここには幽霊がいるはずだ。今すぐ俺が祓う。さっさと差し出せ。」
相変わらずの物言いにイラつきながらも晴明は返答した。
「そう言われて俺が差し出すと思っているのか?お前のその幽霊ならすぐ祓おうとする考えは治した方がいいと思うぞ?なぜ成仏させれば天国や地獄に逝ける幽霊を祓うんだ?」
その答えは、暗に晴明が店に幽霊がいることを認めたことを示していた。そのことを確認しつつ、潔もまた自分の主張をぶつける。
「お前の考えが甘すぎるだけだ。現世に留まるほどの情念を残した幽霊を放っておけば人間に被害が及ぶ危険が高い。既に死んだ命より、今を生きる命を優先するのは当然のこと。時間をかけて成仏させるくらいなら即座に祓った方が安全だ。」
「やれやれ。まあ、お互い信念はそう簡単に譲れないというわけか。勿論、俺もお前に言われたからと言って自分の信念を曲げるつもりはない。そして、アイツをお前に差し出すつもりも全くない。だから・・」
晴明は、そこまで言うと不意にしゃがみこんだ。そして、目の前の潔とホーキはあり得ない光景を目撃した。
あの、いつでも不遜な態度をとり、決して自分の弱みを他人に見せようとはしない晴明・・少なくとも潔たちはそう認識していたその人物が、目の前で土下座をしたのだった。
「頼む!俺にあと一週間だけ時間をくれ!その後はお前の仕事を止めることはしない!だから、今回だけ!俺の頼みを聞いてくれないか!」
潔は、自らのプライドを投げ捨ててまで信念の全く違う相手に頼みこむ晴明に対し、その必死の頼みを引き受けてやらないほど非情な男ではなかった。
結果として、晴明は一週間という貴重な時間をもぎ取ることに成功したのであった。
潔が訪ねてきたその日の夜、私は晴明に部屋に呼ばれていた。部屋の中には、既に晴明と“ご隠居”が待ち構えていた。何事かと身構える私に、晴明は真剣な顔でこう告げた。
「鏡夜・・お前がこの店で働き続けてもうすぐ一年になるな。」
晴明のその言葉で、私には次に晴明が何を言うのかが分かった。案の定、晴明はその言葉を私に告げた。
「・・明日、お前の依頼を解決しよう。そうすれば、お前のアルバイト期間も終了だ。」
予想通りの言葉だったため、思っていたよりも衝撃は少なかった。ただ、ようやくこの日が来たのか・・という感じだ。
覚悟は既にできている。私は、晴明と“ご隠居”に向かって力強く頷いてみせた。
次回は、鏡夜が店のメンバーとの別れの挨拶を済ませ、最後の依頼に向かいます。




