第五十話:逝く年来る年
ごめんなさい!完全に予告詐欺です!新キャラ登場までいきませんでした!!
いや、なんか色々と書きたくなって・・。
光陰矢の如し。季節は流れるように過ぎていき、あっという間に十二月になった。十二月は、別名師走。師走は師匠が走るほど忙しいということから名付けられたという説もあるが、確かに年末年始は店も非常に忙しかった。
「まあ、うちでは師匠じゃなくて走るのは“ご隠居”だけどな。」
「儂を走らせるほどこき使っている張本人にだけは言われたくないがのう・・。」
年末年始の仕事ラッシュ、一番最初の少し大きな仕事はクリスマスだった。依頼主は日本に滞在中のアメリカ人女性。恒例の依頼台詞が「百鬼夜行、プリーズ!」だったのには思わず吹き出してしまった。
そして、依頼内容は「息子がクリスマスにサンタと間違えてサタンを呼んでしまい、サタンに魂を乗っ取られので払ってほしい。」というものだった。
「なんでサンタとサタン間違えるねん!全く正反対の奴やないかアホなんか!?」
「ストップストップ!気持ちは分かるけれど落ち着きましょう舞!」
その依頼内容は本来受けるべき仕事とは若干異なる感じもしたが、依頼主である金髪美女が晴明のタイプであったことから、クリスマス特別キャンペーンとして依頼を受けることになった。
あれ?私の時と対応全然違くない?
しかしながら、その依頼は所謂悪魔祓いの類であり、陰陽師である晴明にとっては管轄外のものであった。
「そこで、今回は助っ人に来てもらいました。」
「ロリが私を呼んでいる・・!アリス・ペトロルィィィィナァ!!呼ばれて飛び出て参☆上!!“ご隠居”たーん!!私が来たからには安心してペロペロされていいわよ!」
「悪魔じゃ!悪魔が来た!」
相手が悪魔ということで、そういう知識も豊富なアリスに助っ人に来てもらった。現れていきなり“ご隠居”の着物に潜り込んで匂いを嗅ぎ始めたアリスには依頼主もドン引きであったが、アリスは新製したローブから取り出した謎の聖水を悪魔が憑いてしまったという息子に振りかけ、あっという間に悪魔を払ってしまった。
「せ、センキュー!デモ、こんな聖水を持ってるなんてアナタは一体・・?」
驚きと感謝の混じった顔でアリスを見る依頼主に対し、アリスはただ一言こう言った。
「私は、ただロリショタを愛する者・・。そして、“ご隠居”たんの可愛さは神・・。それだけ覚えておきなさい!」
「おい、なんか変なの混じっておらんかったか?」
―その後、アリスによって聖水をぶっかけられたこの少年は、何故か聖なるパワーを手に入れ、後に“ご隠居”の可愛さを伝える『ご隠教』という宗教の教祖となるのだが、それはまた別のお話である。
次に、大晦日にはあの女将さんが店に訪れた。事前に連絡を受けていたため、食事などの準備もばっちりである。
「“ご隠居”、なんで『夢幻郷』使ってるんですか?」
大晦日当日、何故かBAR仕様へと店の内装をお得意の幻術で変えている“ご隠居”に私がそう尋ねると、“ご隠居”は可愛らしくウインクをしてこう言った。
「えーっと・・内緒じゃ!」
これをしたのが晴明なら顔面に一発パンチをお見舞いしていたかもしれないが、“ご隠居”は可愛いので許した。
そして、ついに女将さんが店にやってきた。
「皆さんお久しぶりです。今日は旅館の女将としてではなく『VIORET』のメンバーの一人として感謝を言いに来ました。皆さんのおかげで私達・・この度CDデビューが決まりました!」
女将さんのその言葉に、女将さんの事件に関わった私を含めた三人は祝いの言葉を贈った。
「おめでとうございます女将さん!先日頂いたCD凄く良かったですよ!感想をもっとじっくり言いたいので今度お食事でもいかがですか?」
「お主たちなら必ず成功すると思っておったぞ。また機会があれば一緒に演奏しようではないか。」
「おめでとうございます!ヘビメタは正直そこまで興味ないけれどCDデビューできて良かったですね!」
女将さんは、晴明の言葉には笑顔で中指を立て、“ご隠居”の言葉には優しく微笑み、そして何故か私の方を見て驚いたように口を両手で抑えていた。しかも、これまた何故か舞までぎょっとした表情でこちらを見ている。
「カナウちゃん・・あ、あんた、めっちゃいい声やな。」
舞の口から出たその言葉に、私は思わずあきれ顔になる。
「はあ?今更何を言っているんですか?私の声なんて散々聴きなれているでしょうに。」
「そ、それもそうやな!なんや、本物の歌手さんに会うの初めてやから緊張しとったみたいや!あの、サインくれませんか?」
舞は、あたふたしながら女将さんにサインを求めに行った。その要望に笑顔で答え、ざっと色紙にカッコよくペンを走らせる女将さん。よく見ると、以前は少しぽっちゃりしていた体型も、かなり引き締ったものになっていて、それが女将さんの歌手としての本気度をうかがわせた。これからもますます活躍の場を広げていくに違いあるまい。女将さんが帰って行った後、リビングで皆でこたつを囲みながら年越しそばを食べている時に、来年は女将さんがここに映っているかもしれないなーと、そんなことを考えたのであった。
年末年始の中規模依頼、最後は年明けいきなりだった。依頼主は、秋田在住の本物のなまはげ。私と舞はそれだけでかなりテンションが上がったが、そんな私たちのテンションに反してなまはげたちの依頼はかなり切実で深刻なものだった。というのも、
「近頃の若者たちは、なまはげを怖がってくれない!」
というのである。なまはげは、子供たちを「悪い子はいねがー!」と吠えて怖がらせることが仕事である。その目的は、『悪いことをしたらなまはげに襲われるぞ』と子供たちが悪事を働かない抑止力となることだ。しかしながら、最近はネット化などの原因からなまはげを見ても怖がる子供が減ってきているという。このままではなまはげの存在意義がなくなってしまう!と危惧したなまはげたちが遠路はるばるこの店までやってきたのだった。そして、そんな彼らに対する晴明の答えは実に簡単なものだった。
「それならば、現代風の怖さにリニューアルすればいいんですよ!」
「・・というわけで、小生たちが呼ばれて来たのだ!」
「ふ、ふひひ・・。み、みなさん、久しぶり、です・・。」
なまはげからの依頼を受けて晴明が呼んだのは、女将さんと同じく過去の依頼主である天才絵師の喜多川歌と彼女の恋人ののっぺらぼう(女)のへのへのだった。
「・・へのへのさん、前会った時と随分感じ変わりましたね。」
「あの時は小生は口しか描いてもらっていなかったからね!今日はばっちりフルメイク!ウィッグもつけてパーフェクトへのへのちゃんだ!」
そう言って決めポーズをとるへのへのは、舞と同じ紫色の髪をツインテールに纏めた現代風の女の子の恰好をしていた。勿論、顔もかなりの美少女に描かれている。
「ふ、ふひひ・・。へのへのには、いつも可愛くいてもらいたいから、私も・・頑張った。」
そう言って小さくガッツポーズをとる歌に抱き着くへのへの。晴明は、そんな彼女たちの絡みを満足そうに眺めた後、歌になまはげへのメイクを依頼した。
「某有名ゾンビゲームに出てくるキャラクターみたいに、かなり怖い感じで頼みます。」
「ふひひ・・。い、いいんですか?やるからには私、本気で、やりますよ?」
晴明の言葉にスイッチが入った歌は、それはそれは見事になまはげを何倍も怖く変身させてみせた。それは、メイクしたなまはげを見た舞が泡を吹いて倒れ、鏡を見たなまはげもまた卒倒したことからも分かるだろう。
・・ちなみに、私もかなり怖かった。それはもう、夜中に“ご隠居”に一緒にトイレについてきてくれるよう頼むくらいには。
その時、何故か晴明と舞も一緒だったが、そのことは気にしないでおこう。
まあ、このようにいろいろなことがありながらも、年末年始はあわただしく過ぎていき・・
そして、とうとう私のバイト終了期間一か月を切ったある日、その事件は起こったのだった。
次回こそ新キャラ登場!
タイトルは『謎の掃除屋』です。




