第四十九話:“絶”
ちょっと長くなりました。すいません!
「『“正義の弾丸”、サマエル・ショット』!」
カワちゃんがそう叫ぶと、頭上に巨大な水の塊がいくつも出現する。
何!?水のないところでこのレベルの水遁を!?・・まさかこの台詞を現実で使うことになるとは思わなかったよ。ちょっと感動。
私がそんなアホな感想を抱いている間に、カワちゃんは頭上の水の塊をものすごいスピードでアリス目掛けて発射した。傍目から見てもかなりの威力があるに違いないその水の塊を、しかしながらアリスは避ける様子もなく仁王立ちで待ち構えていた。
「『マジカル☆パーンチ!』」
そして、なんと驚くべきことに飛んできた水の塊をパンチ一つで吹き飛ばしてみせた。ただ流石に少し負傷したらしい腕に回復薬を振りかけつつ、アリスはカワちゃんを挑発する。
「あら?派手な技のわりに威力は弱っちいわね!そんなんじゃロリのポロリも狙えないわよ!」
そしてアリスは挑発と同時に別の薬を自分に振りかけていた。その途端、急激に伸び出すアリスの金色の髪の毛。アリスはその髪の毛をまるで意志を持っているかの如く操り、カワちゃんに襲い掛かった。
「なんスかその技!キモ!」
「キモくて結構!これはロリショタを捕獲するために編み出した私の薬と格闘術の混合技!名付けて『“愚者の舞”、フール・ダンス!』本来触手プレイ専用だからアンタに使いたくはなかったけど!」
技の用途を聞いた“ご隠居”が私の隣で顔を引きつらせる。その後ろで座敷童達も不安そうな声を上げていた。
「ね、姉ちゃん、触手プレイってなんだべ?おらなんか悪い予感しかしねえべ!」
「触手プレイっていうのは薄い本とかでよく見る奴よ。ただ、あれを受ける対象が私達っていうなら私なら首を括って死ぬわね。」
「は、花ちゃんそんなことよう知っとるな・・。薄い本とかどこでそんな知識手に入れたんや?」
「そこで眠っているサトリによ。」
花の声に思わず後ろを振り向くと、そこには何故か寝袋にくるまって眠っているサトリの姿があった。
え、ちょ、なんでこの状況で眠っていられるわけ?流石にフリーダムすぎやしませんかアンタ。
と、先ほどまでポップコーンを食べていた私がそんなことを思っていると、またしても厨房の外の二人に動きがあった。
「流石にそれに捕まったらまずそうっス。というわけで・・『“節制の刃”、ガブリエル・スラッシュ』!」
先ほど出現させていた霧を利用し、カワちゃんは霧状の水の刃でアリスの髪を切断していく。霧の全てが水の刃物に変わったため、当然霧に包まれていたアリスの身体にも斬撃が襲い掛かる。
「ギャー!私のローブが!ちょっとオカマ河童!このローブ結構高いんだから後で弁償しなさいよ!」
とっさにローブで身体を守ったアリスであったが、物理反射の魔方陣も霧状の刃物には通用せず、ところどころ破れてしまった。そして、その隙を逃さずカワちゃんがアリスに殴り掛かる。
「もらったっスよ!喰らえ、『“正義の拳”、サマエル・スマッシュ』!!」
「自らフラグ建てとはありがたいわね!私は逃げも隠れもしないわよ!」
カワちゃんの拳が届く寸前、アリスは徐にそれまで着ていたローブを脱ぎ捨てた。そして、その下に現れたのは・・全裸のアリスの姿。
「ぶっはあ!」
ショックで思わず吹き出してしまうカワちゃん。そして、厨房では反射的にガッツポーズをしてしまった晴明の目にチョップを食らわせた“ご隠居”が、“絶”へとその姿を変化させようとしていた。
「いかん!このままでは猥褻物陳列罪の対象じゃ!早く隠さねば!」
などという若干意味不明な言葉と共に、“ご隠居”は光に包まれその姿を変えた。長い黒髪は森のような緑にその色を変え、そして凛々しく後ろで一つに纏めていた。服装も、これまでの華やかな柄から侍を思わせる質素な和服に変わっている。腰に長十手をさした“ご隠居”・・いや、“絶”はその青い瞳を輝かせ厨房の外へと駆け出して行った。
そして、思わず動きを止めてしまったカワちゃんに懐から見るからにヤバそうな髑髏マークのフラスコを投げつけようとしたアリスの前に立ちふさがり、十手の先を地面に突き立て叫んだ。
「『“絶界”』!」
その瞬間、透明な膜のようなものが張られ、そこにフラスコが激突する。
―ボゴォォォン!!
と轟音を鳴らすフラスコ。そのあまりの威力に厨房の私達からは「えーーーー!!!?」という声が上がる。そして、その間に“絶”はターゲットを変更したアリスと再びアリスに向かおうとするカワちゃんをそれぞれ十手で一突きすると同時に、透明な球体の中に二人を閉じ込めた。勿論、アリスを入れている方は若干濁っていて裸体を隠しきっている。
「流石“ご隠居”先輩っス!こんな完全な球体上の結界張れる奴なんて先輩以外にいないっスよ!」
「ああああ!!!その姿は“絶”よね!?久しぶりに見るけど凛々しくてベリーキュート!!でもペロペロしようにも“絶”たん結界張ってるから近づけないし匂いも完全にシャットアウトって何この拷問!?でもこれもまたご褒美よーーー!!!」
結界の中に閉じ込められたにも関わらず何故か興奮している変態二人に、思わずため息を漏らす“絶”。
・・何はともあれ、どうやら二人の戦いは一応決着がついたようであった。
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結界の中から変態二人を出した後、何故か酒を飲んでの宴会が始まってしまった。先ほどまで割とガチで殺しあっていたアリスとカワちゃんも、何故か同じテーブルを囲んで酒を飲んでいた。晴明の話によれば、アリスとカワちゃんがこのように喧嘩をするのは大学時代からで、また喧嘩が終わればしばらく休戦状態になるのもいつものことだったらしい。
「え、それじゃあ晴明たちがあんなに慌ててたのってどうしてですか?」
「いや、普通に店の設備が壊されそうになったら焦るだろ?実際結構壊れたし。」
晴明の言う通り、今こうして皆で囲んでいるテーブル二つ以外は全部先ほどの戦闘によって破壊されていた。そう考えると、確かに晴明のあの対応も間違ってはいなかったのだろう。
「それにしてもー、アリスちゃん強すぎない?てか、魔法って本当に使えるんだね~。アタシビックリしちゃったわ。」
先ほどアリスに瞬殺されたぬいは、悔しさを隠そうとせずアリスに絡む。ちなみに、カワちゃんやぬいやごんの妖怪組はかなりの蟒蛇だ。先ほどから湯水のように酒を飲み干している。アリスもそんな妖怪たちに全く負けない飲みっぷりだ。あと、意外なことに“ご隠居”も先ほどからかなりの量の酒を飲んでいる。というか、このメンツで一番飲んでいるのが“ご隠居”であった。しかし、見た目からしてどうしても違和感を感じずにはいられない。
だって、幼女がグビグビお酒飲んでるんですぜ?そりゃ困惑するわ。
ちなみに、一人だけ未成年の舞や、酒が弱い私はジュースを飲んでいる。座敷童たちとサトリもジュースだった。そして、決して酒は弱くないのかもしれないが酒豪たちのペースに合わせ飲んでいた晴明は既にダウン寸前だった。
「まあ、私って天才魔女だから!私の持つ欲求は、性欲と知識欲の二つに絞られるわ。そんでもって、性欲は、ロリショタにガン振りしてるわけだけど、知識欲は見境なし!得たい知識は何でも取り入れてきたわ!東洋の呪術から格闘術、薬学から錬金術まで、ありとあらゆる知識がこの天才の脳の中には詰まってるの!その中でも、私が一番苦労して手に入れたのが魔法の知識よ!魔女の谷においても既に失われたその知識を、私はありとあらゆる文献を探って自ら手に入れたの!」
アリスは、酒の影響からかそんな自分の過去を赤裸々に語ってくれた。私の隣の舞が、そんなアリスに感心の目を向ける。
「へえ・・アンタただの変態かと思っとったけど結構凄かったんやな。」
「変態舐めるんじゃないわよ!平凡な一般人よりぶっ飛んだ変態の方が何倍も人生楽しいに決まってるじゃない!少なくとも、私はこんな自分が大好きよ!」
そう誇らしげに言うアリスの姿は何故かとても説得力があった。そして、そのまま話は妖怪達+魔女による人生観へと話が変わっていった。
「第一、最近は自分のことをキライだとか平凡がいいって言う奴が多すぎるのよ!夢は公務員?ふざけるんじゃないわよ!ロリショタのころ抱いていたヒーローになりたいとか魔法少女になりたいとかっていう夢はどうしたわけ!?私なんて魔法少女地でいってるわよ!」
「この変態はともかくとして、オイラも同意見っスね。最近の学生は昔に比べて活気が足りない気がするっス。人間にはもっと自分たちの可能性を信じて輝いてほしいっス!」
「やっぱり変態二人の意見は違うわね~♡てか、アンタたち案外気が合うんじゃない?」
「こやつらは自分の信念をとことん貫いているからのう・・。ある意味似たモノ同士とも呼べるな。」
『「確かに、こいつらの心はうんざりするほど自分の信念に忠実だな。どっちもドがつく変態だ。特に魔女は今も私に性対象認定してきているから正直ドン引きだ。」サトリは、ゴミを見る目で変態を見つめた。』
「はう!むしろご褒美よぉぉぉ!!・・とにかく、私が言いたいのは、自分はどうあがいても自分で他の何物にもなれはしないんだから、自分を好きになるしかないってことよ。私はこの性癖ごと自分を愛しているから、別に何と言われようと気にしないわ!」
そんなことを言うアリスの目線は、何故か私の方をじっと見ていた。
「・・もしかして、それ私に言ってるんですか?」
「そうよ!だってこの中で貴女が一番自分を好きじゃないように見えたんだもの。」
アリスはそんなことを言ってくるが、正直私はピンとこない。いや、こんなんでも私自分のこと結構好きだよ?まあ、胸とかもうちょっと大きかったらいいなあとか思うことはあるけどね。
「まあ、気付いていないんなら別にいいわ!いつか分かる時も来るでしょうし!とりあえず今日は飲ませてもらうわよ!酒の肴には“ご隠居”たんをペロペロしましょう!」
「あ、それいいわね~♡じゃあ、アタシもいっただっきまーす☆」
「こら、止めるのじゃこの酔っ払いどもが!」
「先輩から離れるっスこの変態ども!」
「・・ハニー、酒の肴なら俺が作るぞ。」
「ワッハッハ!いや、妖怪って本当に愉快な奴らやな!ほな、うちらも盛り上がっていこうで!」
「お、おらも盛り上がるべ!」
「じゃあ、空、アンタは腹踊りね。」
『「それは愉しそうだな。」サトリは期待を込めた目で田舎っぺを見つめた。』
「く・・もう飲めねえ・・。」
妖怪人間の垣根を超え、二つのテーブルで私たちは大いに盛り上がった。宴会は一日中続き、翌日になってべろんべろんになったアリスとカワちゃんの二人は仲が悪いのが嘘のように肩を組んで歌いながら帰って行った。ぬいとごんも完全につぶれている中、一人だけ全く平気そうな“ご隠居”が後片付けを終わらせていた。私と舞は、そんな“ご隠居”を手伝って片付け中だ。そんな中、舞が隣でぼそっとこんなことを呟いた。
「・・こんな楽しい時間が、いつまでも続けばええなあ。」
私は、無言で舞のその言葉に頷いた。しかし、内心は少し複雑な思いだった。
私のバイト終了期間まで、残り四か月を切っていた。
次回、新キャラ登場。第一章の最終パートに入ります。




