第四話:五つの決まり
土日は祖母の家に行ってきました!まだまだ元気そうで何よりです。
「『五つの決まり』・・・ですか。」
小学校の黒板に掲げられている決まりみたいなノリだろうかと思ってそう呟いてみる。すると、なぜか晴明は得意げに指折り数えながらその決まりとやらを説明してくれた。
「そう!幽霊に関しては、全ての幽霊に絶対当てはまる五つの決まりが存在するんです。一つ目は・・・『幽霊の声は生きている者には聞こえない』というものです。」
晴明の言ったその一つ目の決まりに対しある疑問を抱いた私は、早速尋ねてみることにした。晴明は既に二つ目の決まりについて話そうと人差し指を折り曲げている途中だったが、それは無視だ。私はまだ知り合って間もない相手に対して空気を読むほどお人よしではない。
「あの・・声が聞こえないって言いましたけど、よく心霊番組とかで声が聞こえてくる~とかありますよね?ああいうのってやらせってことなんですか?」
「それは今から説明する他の決まりと関係してくるから、しばらく黙っていてください。」
「あ、はい。」
・・どうやら、ちょっと怒らせちゃったみたいだね。ここはしばらく黙っておこう。
私が大人しく黙ると、晴明はこほんと一度咳ばらいをしてから再び話し始めた。
「次は、二つ目です。二つ目の決まりは、『幽霊は、何かを通すと見やすくなる』というもの。例えば・・・」
晴明はそう言って、ごそごそとカウンターの裏側に設置されていたらしい引き出しをあさり、そこから何の変哲もない眼鏡を取り出し、自分の顔にかけた。
「一番わかりやすいのは眼鏡ですね。眼鏡のレンズを通すことで、常人に比べて幽霊が見えやすくなります。他にも、窓ガラスや鏡なんかを通すことによっても見えやすくなります。まあ、私たち陰陽師のように元から霊感がある人には関係ないですが・・」
眼鏡をくいっと押し上げ、軽い自慢を入れつつ、晴明は三つめの決まりについても語りだした。
「三つめの決まりは、『幽霊は、生きているモノには触れない』というものです。まあ、これは説明しなくても分かりますね。」
そう言って目で問いかけてきた晴明に対し、私は無言で頷くことで答えた。ところどころ聞きたいことはあるが、今はまだ黙っておく。私は、空気が読める女だからね!
「次の四つ目・・これが、先ほどの貴方の問いに対する答えにもなるでしょう。四つ目の決まりは、『幽霊は一つだけ特殊な現象を起こすことができる』というものです。これは、少し難しいので詳しく説明しますね。」
その後晴明の口から語られた説明は、なるほどなかなかに小難しいもので、理解するのには少し時間がかかった。しかし、なんとか私が理解できた内容はこういうものだった。
晴明曰く、幽霊が起こすことができる『現象』というものは、その幽霊の『未練』に関係しているらしい。例えとして晴明が出してくれた話の中には、生まれてすぐ病気にかかり、母親の手で抱かれることなく死んでしまった赤ん坊。彼、もしくは彼女の未練は、『母親に抱いてもらえなかった』ことだった。そのため、その赤ん坊の幽霊は、毎晩母親の枕元に来ては、その背中にしがみついていた。赤ん坊は、『抱かれなかった』ことに対する未練があったため、本来なら触れることが出来ないはずの生者にしがみつくという『現象』を起こしたのである。その他にも、車に牽かれて死んだ幽霊が信号を勝手に変えるという『現象』を起こしたり、コンサート中に死んだ歌手が自分のCDに声を残すという『現象』を起こしたり、中にはパソコンにエロ画像を大量に残していたことに未練を抱いていた幽霊が画像を勝手に消去するウイルスを作ったという面白い『現象』もあった。最後の幽霊に関してはなんとなくその気持ちは分かるけれど、随分とはた迷惑な話である。とにかく、晴明の言うには、私が言った心霊番組の幽霊の声などは、偽物がほとんどであることは間違いないが、中には『現象』により声を残した幽霊の仕業もまぎれているらしい。
私が、妙なところでそういった決まりがしっかりあるんだなあなどと感心していると、最後の一つの決まりを言うときになって、晴明は微妙に声のトーンをさげた。
「最後の一つですが・・これが一番重要な決まりです。五つ目の決まり。それは・・『幽霊には、自らが幽霊であるという自覚がない』というものです。」
そう言ってこちらを見つめる晴明の目が、なぜか急に恐ろしく見えた。
次回は、「依頼人兼店員」です。






