第四十四話:第一次ディベート大戦②
「じゃ、否定側質疑始めるっしょ!まず始めに聞きたいんだけど~、アンタたち本当に妖怪と人間が共存できると思ってるわけ?そのプランは実現可能性低いんじゃね?」
開始の合図を受け、口裂け女が早速先制のジャブを放ってきた。しかし、"ご隠居"はそれを眉ひとつ動かさず冷静に返す。
「もちろん可能じゃ。実際に過去はできたこと。それを今できぬ理由がなかろうて。」
「はぁ?アンタ頭沸いてんじゃね?昔と今じゃ全然す違うっつーの!このデジタル社会で誰が妖怪なんてオカルトチックな存在信じて共存するんだよ!」
「儂の立論でも言ったが、今でも妖怪や神の類いを信じ敬う者は存在しておる。そういう輩を無視してプランの実現可能性を否定するのはおかしいと思うがの。」
「ふん!まあ納得はできねーけどさ。時間もないから次の質問いくかんね。アンタは妖怪と人間が共存できれば利益が産まれるとか言ってたけど、ホントに利益しかないとかあまっちょろいこと思ってるワケ?ウチならそんなこと口が裂けても言えないね!」
「…お主、もう口裂けておるじゃろ。」
「揚げ足とんなし!兎に角、そこんとこどーなワケ?」
「もちろん、利益だけとは考えてはおらぬ。ただ、総合的に見たら妖怪と人間が共存する利益が不利益よりも多いということじゃ。」
「…ふーん。そうかい。じゃ、そろそろ時間だったっけ?否定側質疑終わりまーす。あざしたー。」
「ありがとうなのじゃ。」
口裂け女と"ご隠居"、それぞれが礼を述べたところで、閻魔様の「終了である!次の否定側立論担当ぶるぶる!前に出るように!」という声が響いた。私は、つい先ほど激しい戦い(口論)を終えた"ご隠居"に労いの言葉をかけた。
「"ご隠居"、お疲れ様です。凄かったですよ!」
「流石"ご隠居"先輩っス!見事なディベートだったっス!」
私とカワちゃんからの称賛の嵐を受けた"ご隠居"は、しかしながらあまり嬉しそうではなかった。それどころか、試合前よりも表情を引き締めている。
「いや…相手もふざけているようでなかなか核心をついたことを聞いてきよった。これは油断できぬ戦いになるぞ。カナウの出番は次なのじゃから集中しておくのじゃ。」
"ご隠居"からのアドバイスを受け、私は真剣な表情でこくりと頷いた。この戦いには比喩でも何でもなく私たちの命がかかっている。私も全力で頑張らなければならないだろう。
「否定側立論、時間は四分間、始めるのだ!」
フローシートの準備を整えた私の前で、否定側立論が読み始められた。
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「い、今から否定側立論をは、始めます…。ぶるぶるぶる…。で、デメリットは、『争いの勃発』です。まず、げ、今も数多くの妖怪が人と関わるのをやめているし…。そんな彼らの中には、ただ今の人間たちに馴染めねー者もいるけど、中には過去の出来事で人間を恨んでいるものも少なくねーのです。そ、そんな妖怪達が、人間と共存して上手くいくでしょうか…?いや、上手くいくはずがねーです。彼らは人間を襲います。すると、襲われた方の人間も黙ってされるがままなわけもねーですので、やりかえす。すると、そこには争いの負のスパイラルが起こるとゆーわけです。それに、たとえ妖怪が人間に危害を加えようとしてねー場合でも、マッドサイエンティスティックな人間共は妖怪たちを捕まえて実験台にしよーとかゆー輩も、お、おると思うわけなんです。そんな人間と妖怪達が共存できるはずもなし。結果争いしか産まないこのプランは導入すべきでねーです。お、終わりです。」
否定側立論を読んだぶるぶるは、時折り声を震わせながらも、最後まで立論を読んでみせた。その姿は、敵ながら天晴れと言うしかない。
ただ、ここで一つ深刻な問題が発生した。
…私、なに質疑したらいいんだろう?
「さあ、次は肯定側質疑である!担当の者は早く前に出るのだ!」
はわわ!まだ何も思い付いてないのに私の出番来ちゃったよ!お、落ち着け!こういう時は素数を数えるんだ!
「2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37…」
「数えすぎだボケ。そんなので時間食ってる暇があったら少しは質疑の内容を考えろ!」
テンパる私の頭を、晴明がどこからか取り出したハリセンでスパァン!と叩く。予想以上の威力で思わず「ぐわぁ!」という呻き声が漏れたが、おかげで少し落ち着いた気もする。そんな私の様子を見た晴明は全く緊張を感じさせない表情でにっと笑ってみせた。
「緊張するくらいなら笑っとけ!大丈夫、お前ならきっと多分メイビーできる!信じてるぜ!遺骨は拾うから安心して逝ってこい!」
「ちょ!晴明は私のこと励まそうとしているのか馬鹿にしてるのかどっちなんですか!?」
「勿論両方だな。」
このクソ店主がぁぁ!!
しかし、晴明がそんなふざけたことを言ってくれたおかげか、緊張は完璧に解れた。私は、"ご隠居"とカワちゃんにグーサインを向け、晴明にはぺっと唾をはいてお立ち台へと向かった。そして、隣に立つぶるぶるの顔をちらりと見る。その化粧は濃いが青白い顔は、ひたすら震えていて、敵であるはずなのに思わず「大丈夫ですか?」と聞きたくなるほどだった。
「肯定側質疑、時間は二分間、始めるのだ!」
その閻魔様の合図で、私ははっと我に返った。そして、ぶるぶるに質問をぶつけようとした瞬間…
私は強烈な寒気に襲われ、その口を開くことが出来なかった。
次回、鏡夜の肯定側質疑と、反駁いくつかです。




