第四十二話:ディベートとはなんぞや?
本当に久しぶりの投稿となります。いやー、長かったですね。早速次回予告詐欺もやらかしてしまっています。ディベートの説明はやっぱり必要だなと思ったので。
晴明の勢いに呑まれ一時はポカンと間抜けな顔で口を開けていた妖怪達だったが、そのリーダーであるぬり壁は流石立ち直りも早くすぐ反論してきた。
「ハァ!?アンタ何勝手に決めてるワケ?うちらがそのディデートだっけ?に参加するとでも本当に思ってんノ?」
しかし、そう言ってガンをつけてきたぬり壁に、晴明は冷静に掌を向けてこう言った。
「このディベート、もし貴女達が勝ったら、その時は俺を含めたこちらのディベートに参加した者の命を賭けましょう。」
晴明のその言葉に、ぬり壁は眉をぴくっと動かして反応する。
「・・アンタ、その言葉本気なワケ?」
「本気だとも。もちろん、こっちが勝ったら貴女達にはここからどいてもらう。それで問題ないですか?」
晴明がそう尋ねると、ぬり壁はその厚化粧の顔ににんまりといやらしい笑みを浮かべてこう答えた。
「ああ、その条件なら喜んで呑んでやるよ。でも、後悔しても知んないかんね?うちには、口だけは達者なのが二人もいるんだからさ。」
こうして、妖怪側の承諾も得たことで、前代未聞のディベート対決が行われることとなったのであった。
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妖怪たちが四人なので、こちらも相手に合わせて四人がディベートに参加することとなる。ディベート開始まで一時間の準備時間が設けられたところで、晴明は早速チーム内での担当パートを発表した。
「じゃあ、立論パート担当は“ご隠居”、質疑パート担当は鏡夜、第一反駁には童児、そして第二反駁は俺が担当することとする。何か質問があるやつはいるか?」
「はい!」
「どうぞ、鏡夜君。」
晴明の言葉に手を挙げたのは私である。私にはそもそも聞いておきたいことがあった。
「ディベートって、そもそも何ですか?」
「・・・・・・・。」
私がその疑問を口に出した瞬間、舞以外の面々からは全員に信じられないというような驚きの顔をされた。いや、そんな顔されても知らないもんは知らないんですから、しょうがないじゃないですか。
というわけで、“ご隠居”が一人で立論を考えている間、私は晴明から簡単なディベートの説明を受けることとなった。今回メンバーに選ばれなかった舞も、興味があったらしく一緒に話を聞いている。
「えー、時間がないからぱぱっと説明していくぞ。まず、ディベートっていうのは、決められた論題について肯定側否定側で分かれ、それぞれの立場からジャッジを説得する競技だ。」
「えーっと、それって所謂口喧嘩みたいなもんか?お互いの主張言いあって勝敗を決めるんやろ?」
舞の指摘に対し、晴明はちっちっと指を振ってそれを否定した。
「単なる口喧嘩とディベートは全然違う。ディベートは、あくまで第三者であるジャッジを説得することが目的であり、相手を言い負かせばいい口喧嘩とは大きく違うものだ。」
「第三者って、どこぞの東京都知事みたいに弁護士とかですか?」
「茶化すな鏡夜。」
あ、はい。すいません。
「今回のジャッジは閻魔様だ。閻魔様は見た目はあんなんでも、普段から死者達を公正に裁いているから、最もジャッジに相応しい人とも言える。実際、これまでもジャッジを頼んだことがあったんだが、実に公正なジャッジをしてくれた。」
晴明は、そう言うと残り二枚となった六文銭を見つめた。晴明が地面に投げ、閻魔様を呼び出したこの六文銭。これは晴明が昔ある事件がきっかけで閻魔様の仕事を手伝った時に褒美として貰ったらしい。これまでも三度閻魔様を呼び出しており、今回は四回目だとか。ちなみに、晴明がなぜ地獄にいるはずの閻魔様の仕事を手伝うことが出来たのかはツッコんでも教えてくれなかった。私の雇用主はケチである。
「まあ、ディベートとは何ぞやという話はここまでにして、次は各パートについて詳しく説明していこうと思う。まず、今回“ご隠居”が担当する『立論』。これは自分たちの主張をジャッジに伝えるパートだ。ディベートの核となる、重要なパートだ。これがしっかりしていなければそもそもディベートが成り立たない。」
確かに、自分たちの主張もろくに言えないようでは試合をすることすらできないだろう。私たちのチームでこのパートを担当するのは“ご隠居”。しっかり者の彼女なら心配はなさそうだ。
さて、次は問題の『質疑』パートだ。ここは、私が担当することとなったパート。私はこれまで以上に集中して耳を傾けた。
「次は、鏡夜の担当する『質疑』パートだ。このパートはその名の通り相手の立論に対して質問をするパートだ。一見一番簡単そうだが、実際はそうではない。ディベートの中で唯一相手と直接対話をするパートであるし、質疑で相手の立論をどれだけ切り崩せるかで勝敗が決まることもある。初めてでよくわからないだろうが、そこら辺は俺達がサポートするから全力でいけ。」
「分かりました。」
「よし。じゃあ、次、『第一反駁』についての説明だ。このパートでは、相手の立論に対し反論を行うパートだ。相手の立論の不備を突くことで、こちらの立論の優位性を示す。肯定側は否定側が行った反駁に対する再反駁も行わなければならない。忙しいパートだが、ここら辺からがディベートの醍醐味とも呼べるところだろうな。今回は童児がこのパートの担当だ。そして・・」
晴明は、「そして・・」と言って最後のパートの説明を始めた。
「そして、俺の担当する『第二反駁』は、俺に言わせればディベートの花形とも呼べるパートだ。これまでの議論の流れをまとめ、最終的にどちらの立論が勝っているかを主張する。最後のパートだから、ジャッジに与える印象も一番大きい。このパート一つで勝敗が決まることも珍しくない。パートについての説明はこれぐらいだな。今回は公式大会とかではないから反則行為とかの説明は別にいいだろう。さあ、最後に何か質問がある奴はいるか?」
晴明のその最後の言葉に即座に反応したのは、これまで頬を膨らませて晴明の話を体操座りで聞いていた河村だった。彼は、その水色の髪をいじりつつ晴明に文句を述べた。
「晴明先輩!なんでオイラが第一反駁なんスか!?オイラ今まで質疑しかやったことないっスよ!」
「第一反駁は素人の鏡夜がいきなりやるには少し難しすぎるだろう?それに今回はアリスがいないんだから仕方ないじゃないか。」
いきなり出てきたアリスの名前に、私は半ば確信を得つつも質問してみることにした。
「・・もしかして、心霊サークルメンバーはディベート何回もやったことがあるんですか?」
「ああ。自慢じゃないが大学のディベートサークルの連中にも勝ったことがある。これまでディベートで負けたことはないから、安心しておけ。」
ディベートサークルもうちょっと頑張れよ!・・とも思ったが、心霊サークルの面々を考えると、頭のいい“ご隠居”、エネルギーは人一倍あるアリス、そして口の上手い晴明だ。河村のことはあまりよくわからないが、このメンバー相手に戦って負けたディベートサークルの面々が少し可哀想な感じがする。
しかし、安心しておけ、などと言われるとなんか不安になる。晴明がぬり壁達に提示した条件は命と言っていたが、まさか本当に負けたら命を奪われるのだろうか?
「いや、晴明の言っておったのはそういうことではない。あれは、負けたら一生奴隷として奴らの言うことを聞くという条件じゃ。死ぬことはないから、そのことは安心してよいぞ。」
「いやいやいや!“ご隠居”!それ全く安心できない!私不安!もう帰りたい!」
全く安心できない“ご隠居”のフォローに動揺する私の耳に、無駄に明るい閻魔様の声が響いてきた。
「あと五分で試合開始の時間であるぞ!余の前でせいぜい面白い試合をするがよい!ウワッハッハ!!」
のー!!?これぞまさしく悪魔の声だ!もう五分しかないとか心の準備が・・!!
しかし、動揺する私を尻目に時間は淡々と過ぎていき・・
ついに、ディベートの開始時刻になってしまった。
次こそ、ディベート開始です!




