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第四十話:ギャルと妖怪は紙一重

「とりあえず現場まではオイラが車で送るっス!」

という河村の言葉に甘え、私たちは河村の車に乗り問題の妖怪たちがたむろしているというトンネルへと向かった。

「そういえば、晴明って免許持ってるんですか?」

「あ?車の免許なんてとるだけ無駄だろ。まず駐車できる場所がないし。」

・・まあ、確かにそうだね。この際河村さんが「免許取ったんスよ!」と言った時少し悔しそうな顔をしていたのはスルーしてあげるよ。

途中車内で晴明とそんな会話をしつつ、また時折舞や“ご隠居”とも話しながら時間は過ぎていく。あ、ちなみにサトリや座敷童達はいつものように留守番である。というか、サトリは基本的に店の外には出れない事情があるらしいし、座敷童達には店に結界を張るという役目があるため連れていけないという方が正しいが。

そんなこんなで車に揺らされることおよそ三十分。私たちは目的地のトンネルの前へと到着していた。

「ここから先は車だと絶対に通れないっス。降りて妖怪たちとのタイマン勝負っスね。」

という河村の言葉に従い、私たちはぞろぞろと車を降りる。そして、車を降りた私たちの目の前には、既に噂の妖怪達が待ち構えていた。そして、リーダー格らしき妖怪が、私たちに早速話しかけてきた。しかし、事前に妖怪たちのリーダーはぬり壁であることを車内で教えてもらったにも関わらず、私はその目の前の妖怪とぬり壁を結び付けられずにいた。というのも・・

「ちょ、アンタら何しに来たノ?ここうち等のシマなんで、帰ってほしいんデスけど?」

喧嘩腰で睨みを効かせながらそんなことを言ってくるそのリーダーは、一昔前よく見たガングロギャルのメイクをしていたのだ。そして、今もこちらに話しかけながらそのただでさえ濃い化粧の上にさらになにやら塗りたくって・・

って、ぬり壁ってそういうこと!?いや、確かにこれでもかってくらい塗ってはいるけれど、なんか想像していたのと全然違うんだけど!?

そして、その後ろに控える妖怪達も皆どこか古臭いギャル風のメイクをしており、そんなギャル達が揃って目の前に立ち並んでいる光景は違う意味で妖怪感が漂っていた。

「あれ?リーダー、こいつこの前も来た警官じゃないっスか?」

そう言うのは、マスクをつけた口裂け女だ。そして、それに続くように、お歯黒もべったりしているがメイクもべったりなお歯黒べったりが言う。

「ホントだ!こいつあの時の警官だ!可愛い顔しててムカついたから覚えてるんスよ!でも、なんか変な奴ら連れてきてますね?」

最後に残ったぶるぶるだけは、メイクはやっぱり濃いが性格は大人しいというか臆病なのかただぶるぶると震えているだけだった。

「・・変な奴らというのは、儂らのことで間違いないじゃろうな。」

“ご隠居”が、誰に言うでもなくぼそっとそう呟く。河村は、自分が唯一相手に面識のある存在として、一番最初に彼女たちに話しかけた。

「こら!君たち前も言ったけれど、ここどいてもらえなきゃ困るんスよ!どうしてもどかないというなら、力づくでもどかしてやるっスよ!」

その河村の言葉に、リーダー格のぬり壁は指をポキポキと鳴らしながらこちらに近づいてきた。

「あァん!?うちらがどこで何しようが勝手っしょ!ポリ公に指図される所以はねえよ!・・てか、前も思ったんダケド視覚認識妨害結界を張ってるっつーのにうちらが見えるってことはアンタらも妖怪か何かッショ?何で人間のフリしてポリ公なんざやってるワケ!?うち、そういう奴らがいっちばんキライなんだよね!」

そう言って、どす黒い怒りのオーラを隠すことなく炸裂させるぬり壁。見た目に反して、かなりヤバそうである。

というか、私とか舞さんはマジで人間だから!あと警察は河村さんだけだし!晴明はもうほぼ妖怪的な何かだけど!

私同様怒りのオーラを放つぬり壁に危険を感じたのか、河村は晴明に助けを求めていた。

「せ、先輩!何か思ってたよりアイツヤバそうっス!オイラ陸上ではそんな強くないからさっきはあんなこと言ったっスけど力づくでアイツらどかせるのは無理っスよ!先輩のことだから何か策を用意しているんスよね!?」

そして、助けを求められた晴明は、何かを企んでいる時の悪い顔をしていた。その顔を見て、私は晴明が既に策を用意していることを悟り安堵すると同時に、落ち着きを取り戻した。

「・・晴明、何するつもりやろうな?」

私と同じように晴明が既に何か策を打っていることを悟った舞がこそっと耳打ちしてくる。だが、私にその答えは分からない。ただ・・

「さあ?ただ、何をするとしても晴明ならきっと上手くやってくれると思います。」

そう、私はただ信じるだけだ。あの不敵な笑みを浮かべる私の雇い主を。


▼▼▼▼▼


ポケットに左手を突っ込んだ状態で、晴明が未だに怒りのオーラを放ち続けるぬり壁の前に進み出る。その後ろには“ご隠居”がぴったりと寄り付いている。その動きに、ぬり壁が視線を河村から晴明へと移す。その瞬間、晴明は胡散臭いほど爽やかな営業スマイルでぬり壁に話しかけた。

「初めまして。個性的なお嬢さん。私は、陰陽師の安倍晴明と申します。以後お見知りおきを。そして、これが私の電話番号とラインIDです。」

「・・は?」

いきなり自己紹介された上に連絡先まで渡され、ぬり壁は困惑した表情を浮かべた。そのせいで先ほどまでの怒りが若干収まっている。すかさず晴明は畳みかけた。

「この度は私の後輩が貴女方に迷惑をかけてしまい申し訳ございませんでした。貴女方のような美しいレディーに場所を譲るのはジェントルメンたる我々の役目でもあります。貴女方が私たちの無礼な態度に怒るのはごもっともでございます。」

「う、美しいなんて・・そんな風に今まで褒められたことねえぞ、バカ//」

どうやらこの手の言葉には慣れていないのか、ぬり壁は顔を真っ赤にして照れてしまっていた。もう先ほどの怒りは完全に消え失せている。しかし、晴明はここで「ですが・・」とさらに言葉を続けた。

「ですが、我々人間としてもこの場所を譲っていただかなければ非常に困るのです。大変ご迷惑な話とは思いますが、ここは貴女方の広く美しい心をもって許していただけないでしょうか・・?」

私は、晴明のその話術に思わず唸ってしまった。最初の一言で相手の調子を崩した上に、相手を持ち上げるだけ持ち上げておいて、最後に自分たちの条件を通すため相手の良心に訴えかける。私だったらこんなことを言われればすぐにトンネルから立ち去ることを選ぶだろう。

しかし、流石リーダーを務めているだけはあって、ぬり壁はなかなか手ごわかった。

「そ、そんなことを言って騙そうたって無駄だかんネ!?うちらは絶対ここをどかねえから!」

少し迷った様子は見せたものの、晴明の説得もきっぱりと断ってみせた。すると、晴明はやれやれ・・というようにため息をつき、先ほどからポケットにつっこんだままだった左手からあるものを取り出した。それは、晴明が店を出る前何気なく弄んでいた古い銭のようなものだった。

「これは勿体ないからあまり使いたくなかったんだけどな・・まあでも、君たち相手に肉弾戦は“ご隠居”でも少しきつそうだから使わせてもらうとするよ。」

晴明はそう言うと、手に持っていた銭を天高く放り投げた。それを見た河村が、「あ、あれは!」と何やら瞳をキラキラさせて叫ぶ。そして、投げたその銭が地面に激突する直前、晴明もまた大きな声でこう叫んだ。

「さあ、開け!地獄の門よ!出張お願いします!閻魔大王!」

次回、新キャラ閻魔大王の登場です。

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