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第三十九話:心霊サークルにはロクな奴がいない

“ご隠居”が術を解いたところで、厨房から出てきた私たちは改めてその性別のよく分からない警官姿の人物から自己紹介を受けていた。

「あ、お二人は始めましてっスね?オイラは河童の河村童児っていうっス!晴明先輩と“ご隠居”先輩とは大学時代『心霊サークル』で一緒だったんス!今は警視庁で巡査として働いているっス!以後よろしくお願いします!」

そう言って、元気よく敬礼をしてみせる河村。一方、自己紹介を受けた側の私たちはあまりの情報の多さに混乱していた。

え、だって河童ってあの河童!?いやいや、河童ってもっとヌメヌメしていて気持ち悪いやつでしょ!こんな可愛い女の子?男の子?・・よく分からないけれど、こんな子が河童なわけないでしょ!?

「アンタ、河童って、頭の皿どうしたん!?割ってしもうたんか!?」

舞さん、なんかツッコむとこずれてね?

「いや、皿は体内に収納してるっス!オイラみたいに可愛い河童だとそんな凄いことも出来ちゃうんスよ!」

そう言って得意気に胸を張る河村だが、正直あまり理由にはなっていない気がするのは、私だけだろうか。舞は、しかしながら最初からあまりマトモな答えは期待していなかったのか、素早く次の質問に移った。

「ところで、『心霊サークル』って何なん?うちにはアンタが晴明や“ご隠居”ちゃんと同じ大学に通っとったって聞こえたんやけど、気のせいやよな?」

そういえば、舞は『心霊サークル』のことは知らなかった。確かに、晴明や“ご隠居”が大学に通っていたというところから既に信じられないような話だろう。私は、河村が質問に答える前に舞にそのことを教えてあげた。

「舞さん、聞き間違いとかじゃないんです。晴明と“ご隠居”は本当に同じ大学に通っていたらしいんですよ。その時所属していたのが『心霊サークル』で、確か・・アリスさんもそのサークルに入っていたはずです。」

「はあ!?あの変体姉ちゃんとこの性別不明河童ちゃんと晴明と“ご隠居”ちゃんが同じ大学に通っとってしかも同じサークルに居た!?どんなサークルやそれ!心霊サークルロクな奴おらんやないか!」

衝撃のその事実に、目を丸くして叫ぶ舞。説明している方の私も途中で少し恐怖を感じていた。・・確かに、このメンツはヤバい。こんなサークル私だったら絶対に入りたくない。一方河村は、私の口から出た『アリス』という単語に思いっきり嫌な顔をしていた。

「あ~、そういえばあの女もいたっスね。最近見ないからどっかでのたれ死んだかと思ってたけど、その口ぶりじゃまだしぶとく生きているんスね。最悪っス。」

その口ぶりと表情から察するに、どうやら河村は相当アリスを嫌っているらしい。後で晴明に聞いた話によると、河村が、“ご隠居”に対するアリスのあまりの変態行為に一方的に嫌悪感を抱いて毛嫌いしていて、アリスは別に河村のことは何とも思ってないとの話であった。

「ちなみに、心霊サークルにはもう一人メンバーがいるぞ。まあ、アイツは幽霊部員だったが。」

まだいるのかよ!どうせその幽霊部員とやらも変人に決まっている。どんな人か少し興味はあったが、疲れそうだったのでそれ以上尋ねるのは止めたのであった。

「さて、自己紹介はそれぐらいにしてそろそろ本題に入ってくれ。あの言葉を口にしたってことは今日は依頼をしに来たんだろ?」

完全に脱線していた話を晴明が一言で元の方向に戻した。晴明は仕事モードに入ったことを察したのか、河村も心なしか先ほどよりも真面目な顔で依頼内容を語り始めた。

「はい。実は、トンネルの前に妖怪がたむろしていて困ってるんス。あそこは普段はあまり車は通らないんスけど、いかんせん今度の調査ではあのトンネルを通って隣町まで行く必要があって・・。」

「む?普通の妖怪ならばお主なら簡単に追い払えるじゃろ。そんなに相手は厄介な妖怪なのか?」

その“ご隠居”の問いに、河村は大きく頷いて答える。

「はい、そうなんス!本当厄介なんスよ!相手は、『ぬり壁』と『口裂け女』と『お歯黒べったり』と『ぶるぶる』なんス!特に『ぬり壁』!こいつのガードが固いのなんの!『口裂け女』と『お歯黒べったり』は大したことないんスけど、流石のオイラも『ぬり壁』と『ぶるぶる』がいるとキツイっスよぉ!」

その河村の答えに、晴明と“ご隠居”の二人は揃って難しい顔をした。

「『ぬり壁』がいるのか・・。そいつは厄介だな。」

「それよりも問題は『ぶるぶる』じゃろ。放っておくと死人が出るかもしれぬぞ?」

相変わらず話についていけていないのは、私と舞の二人である。私は、手を挙げて晴明に説明を求めた。

「・・何だね。アシスタント君。聞きたいことがあるなら手短に頼むよ。」

「はい、晴明先生!『ぬり壁』とか『口裂け女』とか全く分からないので説明お願いします!」

私がそう言うと、晴明は面倒くさそうにため息をつきながらも、丁寧に教えてくれた。

「さっき童児が言ったのは全部妖怪の名前だ。まず、『ぬり壁』。こいつは、道をふさいで通せんぼしたりして人間に悪戯する妖怪だ。“壁”という名前だけあってこいつの張る結界は非常に強固だ。こいつが本気で結界を張ったら破壊するのは“ご隠居”でも難しい。そして、『口裂け女』。こいつは普段マスクをつけていて、「私綺麗?」と言って人間の前でマスクを剥がし裂けた口を見せるという若干痛い女だ。『お歯黒べったり』はその名の通りお歯黒をべったりと塗っている妖怪だ。ちなみに、こいつはのっぺらぼうの仲間とも言われている。口だけで目とかがないからな。最後に『ぶるぶる』。こいつはその名前に反してかなり凶悪な妖怪で、普通はただ人間に恐怖心を感じさせて背中をぶるっと震わせるだけなんだが、体内に潜りこむことでその人間の体温を下げて凍死させることもある妖怪だ。最も、ぶるぶるは自分もビビりな奴が多いから積極的に人間に危害を加えるようなことはしないが・・。」

晴明の口から語られる様々な妖怪の姿。正直口裂け女などは何がしたいんだお前?って感じだが確かにぬり壁とかは手ごわそうだ。今回の依頼もなかなか大変そうだと気を引き締める私の前で、晴明は何やら掌の上でいつの間にか出した銭のようなものを二つ弄んでいたのだった。


次回、トンネルに出発します。果たして、晴明は妖怪相手にどんな策をとるのか?

ちなみに、ぶるぶるの設定は水木しげる大先生のものを参考にさせて頂きました。大変ありがとうございます。

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