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第三話:依頼してみる

「実は・・・最近、私の家で妙な現象が起こっているんです。それも、絶対に人間ではありえないような現象が・・!」

「ほう・・詳しくお聞かせください。」

そう言って、晴明はカウンターから身を乗り出しさらに顔を近づけてくる。

ち、近い・・!彼氏いない歴=年齢の私にこの距離はきっついから!しかも相手がイケメンならなおさら!

私は、そんな内心の動揺を表に出さないようにしながら、最近自分の身で起きている不可解な現象について話し始めた。その最中も、晴明は心なしか若干目を輝かせて私の話を食い入るように聞いてくる。その目線に耐えきれなくなり何度か視線をそらすと、呆れたようにため息をつきながら首を振る”ご隠居”と目が合った。・・その目から察するに、これはいつものことのようだ。

私は、時々詰まりながらも、その度に晴明からフォローをいれられ、なんとか自らの現状を話すことが出来た。話している最中、私の脳裏にはあの日の出来事がはっきりと浮かんでいた。

―そう、あの日。私が、自分の身に起こる不可解な現象が人間の仕業ではないと確信した日・・・。

私は、あの日いつも通り家に帰ろうとしていた。しかし、玄関を開けたところでまず最初の違和感に気付いた。玄関に、私の物ではない男用の革靴が置かれていたのだ。

(もしかして、泥棒!?)

そう思った私は、息を殺してひっそりとリビングへと向かった。―そこで見た光景の衝撃は、今でも忘れられない。

私がこれまで一人暮らしを始めてから毎日のように眺めてきたリビング。それがすっかり別のモノになってしまっていた。可愛らしい小物類は全部失われ、フローリングの床は畳に変わり、そして・・ソファが置いてあったはずの場所にはなぜか立派な仏壇が鎮座しており、その前に、決して存在するはずのない人物が座っていた。私は、恐怖に震える声でその人物の名前を呼んだ。

「きょ、響也(きょうや)・・!?貴方がなぜここに?だって貴方は・・・」

彼は、しかしそんな私の声など聞こえていないかのように何の反応も見せず仏壇に手を合わせていた。いや、実際に私の声など聞こえていなかったのかもしれない。

―彼の名前は烏丸(からずま)響也・・・つい先日、事故で死亡したはずの私の幼馴染で、そして・・・

私の、初恋の相手でもあった。

「私は、そこで急に怖くなってしまって、慌てて家を飛び出したんです。」

「それ以来家には?」

「・・響也があの家にいると思うと怖くて・・・今日までずっとホテルに泊まっていました。」

「まあ、それが妥当な判断じゃろうな。誰だって霊がおるかもしれぬ場所になど戻りたくはなかろうて。」

”ご隠居”のその言葉に、私は弱弱しくうなずいた。そんな私に対し、晴明は厳しく眼を細めてこう言った。

「で、貴方は私にその彼をどうしてほしいんですか?」

その問いに対し、私もしっかりと晴明の目を正面から見据え、はっきりとこう答えた。

「彼を・・・響也を今すぐ成仏させてください!死んでいるのに、私の家にとらわれたままなんて、響也が可愛そうで・・」

私は、ホテルに滞在している時にこの店の存在を知った。というのも、最初は霊能力者に相談しようかとも考えたものの、ネットで見つけたそれらの霊能力者の情報はどれも胡散臭く、また料金も激高で私にはとても払えそうになかった。その点、この店は胡散臭さではトップだったが、その代わりに妙に評判だけは高く、その上料金もコーヒー一杯とほとんど変わらないと聞いた。

―あの日以来、私の頭からは響也の姿が焼き付いて離れない。あの時見た響也は、今まで見たどんな響也よりも、悲しそうな顔をしていた。だから、そんな彼を早く助けたい!私は、その思いを目の前の晴明にぶつけた。しかし、

「残念ですが、それは出来ません。」

晴明には、そう即答されてしまった。その澄ました表情に、ついカッとなって私はカウンターを思いっきり叩いた。

「ふ、ふざけないで!アンタ、安倍晴明の子孫なんでしょ!それとも何?やっぱり陰陽師だなんて嘘八百だったわけ!?」

バンッ!と私がカウンターを叩いた音が響き渡り、一瞬店を静寂が走る。しかし、激高する私を目の前にしても、カウンター席の向こう側にいる晴明と”ご隠居”はいたって冷静だった。”ご隠居”がすっと私の前に水を差しだし、その水を指さしながら晴明は言った。

「まあ、そう怒らないでください。水でも飲んで落ち着いて・・私が出来ないと言ったのは、『成仏させる』という言葉に対してではなく、『今すぐ』という言葉に対してです。今すぐでなく、ただ成仏させればいいのならその依頼を引き受けますよ。」

「え・・?そ、そうなんですね・・・。でも、なんで今すぐは無理なんですか?」

水を飲んで、晴明の言葉を聞き怒りも静まった私は、そう言って首を傾げた。すると、晴明は手をパーの形に開き、私の前に差し出してきた。

「それを説明するためには、幽霊に関する五つの決まりについて話す必要があります。・・少し長くなりますので、メモをするならどうぞ。」


土日の休みを挟んで、月曜日には『幽霊に関する五つの決まり』を晴明の口から語ってもらいます!

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