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第三十話:屋敷に住まう怪異

一瞬で目の前の光景が地下室に変わってしまったのも驚いたが、それよりも私を驚かせたのはここに来た瞬間頭上から漂ってきたただならぬ気配だった。

「な、なんやこの感じ!?ごっつ気味悪いんやけど!!うちの霊感センサーが全力で危険信号発しとるで!!」

どうやらこの不気味な気配を感じて居るのは舞も同じようで、隣で恐怖の声を上げているのが見えた。そして、霊感が強いなどというレベルを超えている陰陽師や妖怪たち、つまり晴明たちは、揃って深刻な表情を浮かべていた。

「これは・・予想以上にやばい気配を感じるな。」

「ふむ・・久々の大物の予感がするのう。」

「これは・・昔の私くらい禍々しいオーラ出しているわね~。」

「・・ハニーの方がもっと凄かった。」

妖夫婦の会話には聞き捨てならないものがあったが、それをツッコむ前に、私たちをこの地下室に呼び込んだ張本人が姿を現した。

「痛い痛い痛い!!姉ちゃん何するんだべ!」

「・・私が寝ている間に勝手に東京に行った馬鹿な弟にお仕置きしているのよ。あ、貴方たちがこの馬鹿を連れてきてくれたんでしょ?改めて礼を言わせてもらうわ。ありがとう。」

私たちの目の前には、空が語っていた通りもんぺ姿におかっぱ頭という古風な恰好でありながら、パソコンが置かれたデスクの前に座り、弟の頬を思いっきりつねっている空の姉、花の姿があった。

「これはこれは座敷童のお嬢さん。もんぺ姿がとてもよくお似合いですね。・・申し遅れました、私、十三代目安倍晴明。気軽に晴明と呼んでください。今度縁側で一緒にお茶でも飲みませんか?」

自他ともに認める女好きの晴明は、こんな時でもいつもの調子でお決まりの台詞を放つ。それにしても相変わらずのスピードである。まだお互いに顔を見てから数秒しかたっていないというのに。

しかし、今回の相手はなかなかに手ごわかった。

「・・え、何?いきなり口説いているわけ?アンタロリコン?キモイんだけど。死ね。」

クールにそう言い放つ花は、本当にあの空の姉なのかと疑いたくなるほど辛辣に晴明を罵った。

「ちょっと待て!ロリコンは心外だ!ロリコンは俺じゃなくてアリスだ!俺はただ女が好きなだけで・・」

「どっちも大して変わらん!それよりも早く本題に入らぬか!」

慌てて弁明し始めた晴明を、”ご隠居”がたしなめて軌道修正させる。そんな二人の様子を興味深げに見つめるのは花だ。

「・・なるほど。今ので大体アンタたちがどういう関係か分かったわ。この男よりそこの着物の彼女に話した方が話が進みそうね。」

「あら?貴女なかなか見所あるじゃな~い。概ね大正解よ♡このクズ男は万年女のことしか考えていない変態だから”ご隠居”ちゃんに任せた方がいろんなことが速く終わるわ♡」

「おい!それはどういうことだ!?”ご隠居”は俺のパートナーであって、店長は俺だ!なぜ俺に頼ろうとしない!?」

「黙れロリコン。さて、”ご隠居”さん・・と言うのかしら?今私が置かれている状況、なるべく詳しく説明するわね。」

「うむ、よろしく頼む。」

花とぬいの毒舌コンビに滅多打ちにされ、へこむ晴明のことはまるっきり無視して、花は”ご隠居”に説明を始める。対する”ご隠居”も、既に仕事モードで真面目な顔つきだ。

「なんていうか・・その・・ドンマイです。」

「まああれやな!こういう時もあるわ!気を落とさんで頑張りいな!」

晴明があまりにもかわいそうだったので、私と舞さんの二人で慰めてあげた。これで少しは立ち直ってくれるだろうか?

私たちが晴明を慰めている間に、花の説明は既に始められていた。その驚愕の内容は、少し離れた場所に居た私たちの耳にも十分聞こえてきた。

「まずね・・結論から言うと、ここに居たお爺ちゃんとお婆ちゃんは死んだわ。そして、今この屋敷には、彼らの霊が住んでいるのよ。」

「ええ!!?爺ちゃんと婆ちゃん死んじまったんだべか!?どうしてだべ!!あんなに元気だったのに!?」

花の言葉に真っ先に反応したのは空だ。屋敷の外でも心配していたくらいだ。この屋敷に住んでいたお爺さんとお婆さんが死んだという情報は彼にとってはかなりショックだったのだろう。しかし、話の冒頭で既に泣き出している空に、花は鋭い視線と共にさらに強い衝撃を押し付けた。

「・・アンタのせいよ。」

「え?」

思わず聞き返してしまう空。そんな空の態度が頭にきたのか、花はデスクをダンと力強く叩いて空をより一層強く睨み付けた。

「一か月前・・この家に強盗がやってきたのよ。その強盗に、お爺ちゃんとお婆ちゃんは二人とも殺された・・!でも、私は何もすることが出来なかったわ。だって、私が得意なのは『妖術結界』・・。刃物を持った強盗相手では私の能力は意味ないのよ!」

花のその言葉に、空の顔がさあっと青ざめていく。そんな弟の様子を見て、花はふんと鼻を鳴らした。

「ようやく気付いたわけ・・?アンタは本当馬鹿ね。そうよ。『物理結界』が得意なアンタがいなかったせいで、私にはどうすることも出来なかったわけ。私アンタに何回も言ったわよね?『座敷童は二人一組。絶対に勝手にどこかに行ったりするな』って。それを無視してアンタは勝手に東京に行った・・!そのツケがこのざまよ。」

「なるほど!じゃからあの時儂の術は全く防がれずに部屋に火を放つことができたのじゃな!自分の領域内では最強を誇る座敷童にしては妖術系の技に対する守りが弱いと思っておったのじゃ。」

花の言葉に、”ご隠居”が納得した様子で手をポンと叩く。どうやらあの時”ご隠居”は自分の術が上手くいくか半信半疑で舞の部屋に『百火繚乱』を使っていたらしい。そんな様子を全く感じさせなかった”ご隠居”の演技力はなかなかに凄いと思う。いや、幻術系の技を多用する”ご隠居”の演技力が凄いのはある意味当然か?

「そう・・。私たち座敷童は一人ではろくに敵の攻撃や侵入を防ぐことも出来ない。最新作でリストラされた某格闘ゲームの雪山登山家二人組のような存在なのよ・・。」

それってどこのアイス〇ライマー?

「とにかく・・その強盗のせいで、お爺ちゃんたちは殺された。そして、今怨霊となって屋敷をうろついている。私たち座敷童は家の主には手を出すことができないから、私では彼らをどうすることも出来ない。だから、怨霊となった彼らの力を利用して、あえて絶縁結界を張ったの。彼らを外に出さないために・・。それで、助けが来るのを待ってたのよ。・・元凶のアンタに助けを求めるのは癪だったけれど、他に方法もなかったしね。」

そう言うと、花はすっかり参った様子の空をもう一回睨み付けて、べえー!と舌を出してみせたのだった。


次回は、怨霊を成仏させるために晴明たちが奮闘します。少し長くなる予定なので、明日中に投稿できるかは正直不明です!

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