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第二十九話:座敷童による座敷童のためのシンクロじゃんけん

「それにしても、えらくでっかい屋敷やな~。ホンマにここに老夫婦二人だけで住んどるんか?」

舞の疑問は、おそらくここにいた全員が抱いていたものであろう。私たちが到着した目的地でもある屋敷は、この前依頼で行ったあの旅館と負けず劣らず巨大な日本建築のお屋敷であった。とても老夫婦二人だけで住んでいるとは思えない。すると、皆の疑問に満ちた目を受けて、この屋敷に住んでいた座敷童である空は誇らしげに胸を張ってみせた。

「それは、おら達が居たからだべ!おら達座敷童は、住んでいる家に富を呼び込む力があるんだべ。この家も元々は小さかったんだけんども、埋蔵金が見つかったり宝くじが当たったりでいつの間にかこんな立派なお屋敷になっただ。じいちゃんたちだけでは掃除の手が行き届かねえから、おら達がこっそり掃除したりもしたんだべ!」

しかし、そんな誇らしげな空に、ぬいが笑顔でこう言った。

「あれ~?それならアンタが東京に行ったせいでアンタのお姉ちゃんとかここのお爺ちゃんお婆ちゃんってすっごい大変な思いしたんじゃない?無責任な子供ってこれだから嫌ね♡」

ぬいからの鋭い指摘を受けて固まってしまう空。そんな空は無視して、ぬいは隣に立つごんに話しかける。

「ねえダーリン。この屋敷、そこはかとなくいい感じじゃない?きっと雷神坊の爺様にあげたら気に入ると思うのだけれど・・・。」

「・・俺もそう思う。」

ぬいとごんの会話の中に聞きなれない人物の名前を見つけて、私はつい気になったので尋ねてみることにした。

「ぬいさん、雷神坊の爺様って誰ですか?」

「雷神坊の爺様は、烏山に住む烏天狗の主よ。東京に住む妖怪達を統べる頭領でもあって、アタシたちの育ての親なの。もし機会があれば会わせてあげるわ♡」

へえ・・。ぬいさんやごんさんにも育ての親と呼べるような人、いや、妖がいたのか。それにしても狗神と九尾の育ての親が烏天狗とは、なかなかに面白い話である。

「おい、さっさと中にいる姉と連絡を取らぬか。儂はもう準備できておるぞ。」

どうやら、私たちが無駄話をしている間にもできる女”ご隠居”は仕事に取り掛かっていたらしい。ぬいに自分の過失を指摘され茫然としていた空の頭を叩き、念話に取り掛からせる。ちなみに、”ご隠居”はまたしても白衣を纏った盗聴モードである。能力により姿が変わるのは、”ご隠居”を作ったという初代安倍晴明の趣味だろうか?

・・あの今ここにいる晴明のことを考えると、その可能性も強いかもしれない。

ともかく、”ご隠居”にせかされてようやく空も念話に取り掛かった。先ほどは途絶えてしまった念話だったが、やはり現地まで来たせいか今度は比較的スムーズにつながった。

「この反応は・・空、アンタすぐ近くまで来ているのね!?」

「うん!そうだべ姉ちゃん!今屋敷の前にいるだ!」

空の姉の声をそのまま再生する”ご隠居”の声に答えるように、空が叫ぶ。実際は空は”ご隠居”の声に答えたわけではなく、念話で自分の頭に届いた姉の声に返事をしたのだが、傍から見ている私たちにはそのように見えた。

「じゃあ、助けに来てくれたのね。良かったわ・・。私ひとりじゃ今どうにもならない事態になっているの。」

「姉ちゃん!一体屋敷の中で何が起こってるんだべ!?あの爺ちゃんと婆ちゃんは無事なんだべか!?」

空のその問いかけには少し返事をためらうように間を開けた後、”ご隠居”の口で空の姉の花が話す。

「・・そうね。空、そのことを話す前に、そこから屋敷の中に入れるかどうか試してみてくれない?」

「え?どういうことだべか?」

空が聞き返す前に、花の声を聞いた晴明が屋敷の入り口に足を踏み入れてみた。その瞬間、バチッという音がして晴明は入り口からはじき出される。

「これは・・結界だ。しかも、この感じは・・外からの侵入と中からの脱出を防ぐ『絶縁結界』・・。」

晴明の呟きを聞き、顔色を変えたのは空だった。

「『絶縁結界』!?姉ちゃん、なんでそんなものが屋敷に張られているんだべ!?」

「アンタよくこれが『絶縁結界』だって分かったわね!?・・そっか、アンタ今誰かと一緒にいるのね。その人にここまで送ってもらったんでしょう。」

弟との少ない会話の中で正しい答えを導き出した花に、私は思わず「おおっ!」と声を上げてしまった。そして、晴明は「姉の方は頭が回るらしいな。」と冷静に評価を下している。

「待ってて。アンタたちをこっちへ送れないか試してみるわ。今屋敷は『絶縁結界』が張られているせいで侵入することも出ることもできないけれど、私が今いる地下だけなら完全に私の支配領域にある。ここになら、私の力でアンタ達を送ることが出来るかもしれない!」

「おお!姉ちゃん頼もしいべ!」

どうやら、泣き虫な弟とは対照的にこの姉は”ご隠居”と同様にできる女らしい。数秒後には、「よし!」という声と共にどうやら地下に送ることが出来るらしいことを伝えてくれた。

「こっちに送るためにはアンタとのリンクを最大限に強める必要があるわ!アンタと意識を合わせるのは不本意だけど、非常事態だから仕方ないわ!」

「もう、こんな時にそんなこと言わないでほしいべ!」

そして、双子の座敷童は転送の術を使うため、お互いの意識を同調し始める・・!

「いくわよ・・!最初はグー!じゃんけん・・」

「「パー!」」

「あいこで・・」

「「チョキ!」」

「あいこで・・」

「「グー!」」

なんと、意識を同調させるための方法は、じゃんけんで連続あいこ二十回というとてもかわいらしいものだった。っていうかさっきまでの少し緊迫した空気返せよ!なんでこんな緩い方法で意識同調させるんだよ!

「はあ・・なんかめっちゃ見ていて癒されるわ。花ちゃんも向こうで空と同じように必死でじゃんけんやっとるんかと思うとなんか和まへん?」

「いや、私は何やってるのこの子たち馬鹿なの?って思ったけど♡」

「ぬい姐さん厳しー!!」

こちらがそんなことを言っている間に、なんと座敷童たちは二十回連続であいこを出してみせた。そして、それと同時に花の声が響く。

「さあ、今からアンタ達をこっちに送るわ!しっかり気合いれてよね!」

その声が聞こえたと思ったと同時に、身体が急にふわっと持ち上がり、一瞬目の前が真っ白になった。そして・・再び目を開けた時、そこは湿っぽい地下室になっていた。

次回、空の姉の花の口から屋敷に何が起こっているのかを説明されます。

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