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第二十八話:ドキドキの空中散歩

「俺・・この依頼が終わったら、結婚するんだ。」

いよいよ出発という時になって、そんな死亡フラグめいたセリフをぼそっと呟いた晴明に、私は「やめてくれ!」と心の中で叫んだ。そして、こういう時晴明に対する反応が速いのは”ご隠居”だ。

「そうか。一体誰と結婚するのじゃ?」

「もちろん、この世に存在する女子全員とさ!俺も一夫多妻制推奨派だからね!」

「ほう、それならば式場を用意しておかんとな。」

「お、流石”ご隠居”。気が利くな。」

「お主の葬式のな。・・つまらんことを言っておらんで、さっさと行くぞ。」

会話の中で見事死亡フラグを取り除いてみせた”ご隠居”に、私は立ち上がって拍手を送ろうとして、そして今自分がいる場所がぬいの背中だということに気付き慌ててそれをやめた。その代わりに、ぐっと親指を立てて「ナイス!」と言ってみせると、”ご隠居”は笑顔で「どういたしましてなのじゃ。」と返してくれた。

「・・ハニー。俺は一夫多妻制は反対だ。死んでもハニーだけを愛し続けるぞ。」

ごんがぼそっと呟いた言葉は、勝手に盛り上がる私たちの声にかき消され、肝心のぬいには届かなかったという。

「さあ、準備はいいかしら?それじゃあ、一番ぬい、いっきまーす!」

まず、私たちを乗せたぬいがそう言うと、猛スピードで走り始めた。そのすぐ後ろを、ごんが追いかけるようにしてついてくる。

「大丈夫か、カナウ!振り落とされないようにしっかりぬいの身体にしがみつくのじゃぞ!」

轟々と鳴り響く風の音に負けじと”ご隠居”が声を張り上げて私に忠告してくれた。私はその忠告通りに、自分の身体をぬいの背中にピタッと張り付けて、振り落とされないよう必死でしがみついた。そして、数秒後には目も開けられないほどスピードが高まり、最高速に達した瞬間、ぬいの身体がふわっと空に浮かび上がった。金色の美しい毛に包まれたたくましい足が大気を蹴り、空を翔け抜ける。

「もう目を開けても問題ないわよ。・・でも、手だけは放さないようにね。死んじゃうから♡」

しばらくたってぬいのそんな呼びかけが聞こえてきて、私は恐る恐る目を開いた。その瞬間、思わず

「わあ!」と歓声を上げる。

―まず私の目に飛び込んできたのは、一面の蒼。地上にいるときは淀んで見えた空も、ここからだとまるで海のように澄んでいて美しかった。私たちは今空を翔けているはずなのに、海の中を潜っているような錯覚に陥るほどだ。しかし、ここが海ではない証拠に、綿菓子のような雲が絨毯のように敷き詰められていた。そして、時折雲の隙間から除く街並みは、ミニチュアのように小さく見えて、自分という存在が大きくなったように感じられた。と、そう思ったとき長年抱いていた疑問が一つ解決した。なぜ王様のような偉い人は高いところに座りたがるのだろうと思っていたが、この気分を味わうためだったんだなと。

「うわあ!なんやこれ!超絶景やないか!」

「す、凄いべ!こんな光景今まで見たことないべ!」

後ろの方からも、私と同じような歓声が聞こえてくる。やっぱり、この珍しい体験に興奮しているのは私だけではなかったらしい。しかし、ふと横を見てみると、”ご隠居”はさほど興奮している様子は見られなかった。

「”ご隠居”はなんだかいつもと変わらないけれど・・こういう体験したことあるの?」

「うむ。儂は自分で飛ぶこともできるからのう。あまり珍しいことではないな。」

なんと、”ご隠居”は自分で飛ぶこともできるらしい。何この幼女。スペック高すぎない?

「え、それなら私、”ご隠居”が飛ぶところ見たいかも!」

私がそうおねだりすると、”ご隠居”は「しょうがないのう・・」と言いつつ飛ぶことを了承してくれた。ぬいの背中にしがみつきながら、期待に満ちたまなざしを向ける私の前で、”ご隠居”は不意に立ち上がった。

そして、「はっ!」という気合の入った声と共に、”ご隠居”を中心として風が巻き起こる。私は、その風に飛ばされないよう必死にぬいの背中にしがみつく。風がやんだ時、そこにはところどころ金色の髪が混じった姿の”ご隠居”が仁王立ちでぬいの背中に立っていた。私は、”ご隠居”の目を見て思わず「あっ!」と声を上げる。”ご隠居”の黒の瞳は、何と今の一瞬で左目だけ金色に変わっていた。

「これが儂の飛行形態じゃ!どれ、いっちょ飛んでみるか!」

”ご隠居”はそう言うと、ぬいの背中からぴょんと飛び降りる。そのまま空中でくるくると三回転した後、「そいやっ!」という掛け声と共に、”ご隠居”は着物の裾をはためかせ、空を飛び始めた。その姿は、蝶のようで実に美しい。

・・でも、掛け声の変更だけは希望します。正直そいや!はないよ。

「わはは!凄いわね”ご隠居”ちゃん!アタシその姿は初めて見たわ!」

「今まで見せる機会がなかったものでな!」

「やっぱり”ご隠居”ちゃんは凄いわね。・・ねえ、今度戦ってみない?」

「遠慮しておく。じゃが、お主が何かやらかしたら、その時は儂が全力で止めてやるわい!」

そうぬいと”ご隠居”はお互いに高速で飛翔しながら楽しそうに会話する。

あ、そういえば晴明はどうなのかというと、こちらもこういったことには慣れているのか大した反応は見せず、「キレイやな~。」と空からの景色にうっとりする舞に「貴女の方が綺麗ですよ?」などと言って華麗にスルーされていた。舞も晴明の扱いに慣れてきたようである。対照的に、舞の隣にいる空が対抗するように「お、おらも舞はきれいだと思うべ!」と言っていたのは微笑ましかった。

そんなこんなで私たちが初めての飛行体験を堪能しているうちに、目的地であるお屋敷へとあっという間に到着したのであった。

次回、屋敷に潜入します。

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