第二十七話:モッフモフやないか!
こういう変身描写って難しいですね。
「さあ、そうと決まれば早速出発しよう。善は急げって言うしな。」
そう言って立ち上がった晴明にストップをかけたのは”ご隠居”だった。
「ちょっと待つのじゃ晴明!お主はどうやって東北に行くつもりなのじゃ?」
「どうやってって・・もちろん飛行機で・・って、あ!?」
”ご隠居”の呆れたような視線を受け、晴明は気まずそうに頭を掻く。
「・・そういえば、飛行機の予約取ってねえや・・。ハハハ・・流石に今から予約取っていたら遅いよな。あっちも緊急事態っぽいし。」
というわけで、再び作戦会議である。ちなみに、私としては何もすることがないので話の成り行きについて行くだけだ。依頼人である舞と同じくらい手持無沙汰なのが我ながら少し情けない。と、ここでそれまで会話に混じって来なかったぬいが口を開いた。
「・・ねえ、アタシ達が乗せていってあげようか~?それなら数分で目的地につけると思うわよ?」
ぬいのその提案に、晴明たちは「おお、それはいいな!」とか「それは名案じゃ!」とか言っているけれど、私としてはぬいが言っていることがよくわからない。
・・だって、東京から東北に数分で着けるってどういうこと?それに、ぬいさんたちに乗るっていう言葉の意味が分からないんですけれど・・。
「あの、すんません。盛り上がっているとこ悪いんやけど、ぬい姐さんたちに乗るってどういうことなん?」
私の抱いていた疑問を、舞が代わりに口に出して聞いてくれた・・って、このパターン結構多いな。今度からは自分から聞くようにしなくちゃ。
そして、舞の疑問を受けたぬいは、ふふふ・・と何やら怪しげな笑みを浮かべてこう言った。
「あら?言葉通りの意味よ?舞ちゃんたち、アタシが狗神で、ダーリンが九尾だってこと忘れてなーい?私たちが変身を解除して元の姿に戻れば、貴方たちを乗せて東北までマッハで飛ぶことくらい、お茶の子さいさい☆ってことよ。」
え、何それ凄い!
要するにあれか。よくアニメとかで見る龍の背中にまたがって飛ぶ少年とかと同じような体験ができるってことですか!?それって・・
「なんやそれ!めちゃくちゃ面白そうやんけ!早く行こうや!」
むむむ。またしてもリアクションを舞に取られてしまったよ。次こそは負けないからな!私は、スキップで部屋を出ようとする舞に対し謎の対抗心を抱きながら、その後に続いて部屋を出たのだった。
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さて、全員が舞の住むマンションから出たところで、私たちは人目の少ない空地へと向かった。もちろん、そこからぬいたちの背中に乗ってフライアウェイ!するわけである。
「ううう・・本当にこんなことして大丈夫なんだべ?もし途中で落ちたりなんてしたら・・。」
当然私たちと一緒に東北へと向かう空が、舞と手をつなぎながらそんな愚痴をこぼす。その愚痴を聞き、私もなんだか少し不安になってきた。確かに、途中で落ちたりなんてしたら間違いなく死亡確定である。そのため、私はぬいに確認を入れることにする。
「あの・・ぬいさん、一応聞いておくんですけれど、これまで背中に人を乗せたことは・・?」
「ないわよ♡」
「・・えっと、じゃあ、落ちたりする心配はないんですか?」
「ああ、しっかり掴まっていないと落ちて死んじゃうわよ♡ワオ!スリル満点~☆」
やばいよー!!安全性が全く確保されていないよー!!!こんなリスクがある乗り物乗りたくないよー!!!!!
「・・あの、やっぱり飛行機に変更しませんか?」
「何言ってるんだ?事態は一刻を争うんだ。たとえ危険性があるとしても、ぬい達に乗るしか方法はないだろ。」
恐らく無理だろうと思いながらも晴明に計画変更の希望を伝えると、冷静な分析により却下された。そんな風に言われると、私としてはもう言い返す言葉がない。
「・・それに、こんな体験なかなかできないんだ。興奮してくるだろ?」
て、てめえ!それが本音だな!?確かに私も少し前までは興奮していたけれど、今は興奮よりも死への恐怖の方が勝っているよ!!誰か助けてー!!
そんな私の心の叫びも空しく、空き地に到着してしまった。一足先に空地へと着いたぬいは、私たちを振り返り、その金色の瞳をすうっと細めて、普段とは異なる口調でこう囁いた。
「それでは、我ら二人、そなたたちのために力を貸すとしよう。我が名はぬい。狗神一族の誇りにかけて、そなたたちを陸奥へと送り届けよう。」
その瞬間、ぬいの目が怪しげに光る。そして、ゆっくりと、ぬいが本来の姿を露にしていく。
―雷鳴と共に、爪が鋭く伸び始め、体中を金色の毛が覆っていく。それと同時に、耳の位置が頭の上の方へとずれ、その先端が尖る。それは、まさしく犬の耳そのものであった。そして、身体もまた、人間の姿の時の十倍以上になり、着ていた服はただの布切れへとなり果ててしまった。こうして顕現したその姿は、まさしく狗の神の名にふさわしい、堂々とした美しい姿であった。
こうして、完全に狗神の姿へと変身したぬいは、その口をゆっくりと開く。
「じゃじゃーん☆どうどう?恰好良かったでしょー!変身の演出は特に気を配っているのよね☆」
その姿と口調とのギャップに、思わずずっこけそうになる。・・ああ、さっきちょっと「やばい!マジカッコいい!」と思った私の感動を返してよ!!
「お主は演出に凝りすぎじゃ。ごんのように一瞬で変身することもできるのじゃろう?」
”ご隠居”のその声に横を見ると、いつの間にかごんさんも立派な九尾へと変身していた。確かにカッコいい姿だが、ぬいが派手な変身をしていたせいで全く気が付かなかったみたいだ。なんか・・ごめんなさい。
「えー!こっちの方が派手でカッコいいじゃない!”ご隠居”ちゃんにはロマンってものがないの?」
「儂はただ合理的なだけじゃ。早く変身できるのならそっちの方がいいに決まっておるじゃろう。」
「おい、無駄話はもういいから、さっさと乗せてくれ。」
晴明はそう言うとぬいの背中にまたがろうとする。しかし、ぬいは獣の顔でも分かるほどはっきりと嫌な顔をした。
「えー!晴明私の背中に乗るのー?・・なんか嫌だから、ダーリンの方に乗ってちょうだい。」
ぬいがごねたので、晴明は渋々ごんの方に乗る。「どうせ乗るなら女の上に乗りたかった・・。」などと呟いているが、無視だ無視。そして、残るメンバーがどちらの背中に乗るかという話になったが、ここでも問題が発生した。
「お、おらはあの女の背中には絶対に乗りたくないべ!!」
先ほど脅されたのがよっぽどトラウマなのか、空は青ざめた顔でそう主張した。そして、「乗るなら舞と一緒がいいべ。」と言ったため、舞さんも空と一緒にごんの背中に乗ることになった。
というわけで、ぬいの背中に乗るのは私と”ご隠居”だ。
「よろしくね、”ご隠居”ちゃん♡イケメンちゃん♡」
ぬいからの歓迎の台詞に苦笑いしながら、私はそっとぬいの背中にまたがる。こ、この感触は・・!!
その時、私と一緒のタイミングでごんの背中に乗った舞が大きな歓声を上げた。
「な、なんやこれ・・!!モッフモフ・・モッフモフやないか!!超気持ちいいーー!!!!!!」
見た目からは想像もできないその毛の柔らかさは、まるで雲に乗っているかのような心地にさせ、私はしばらくこの後死と隣り合わせの空中飛行が待っていることを忘れていたのだった。
次回、お屋敷に到着します。




