第二十六話:姉からのSOS
舞姉さんが生き生きしています。
「いいか?とりあえずお前は元居た場所に帰れ。東京に来て、都会になじめないことは痛いほど実感しただろ?」
晴明の問いかけに、舞の腕の中で涙をぬぐいながらうんうんと頷く空。そんな空に、舞は穏やかな声でこう呼びかけた。
「さあ、お姉ちゃんにごめんなさい言うて、元居た場所に帰ろうや。お姉ちゃんの怒りが怖いんやったら、うちも一緒に謝ってやるさかい。」
「・・分かったべ。その・・ありがとうだべ。」
空は、こくりと大きく頷き、舞の顔を見上げてにへらあっと不器用に微笑んでみせた。そんな空に対し、舞もにっと笑い返す。
その二人の姿は、傍から見れば完全に年の離れた姉弟そのものだった。私がそんな二人の温かい雰囲気に癒されている間にも、晴明たちは準備を進めていく。
なんでも、座敷童同士ならどこにいてもお互い念話で会話することが出来るらしく、空は今からその念話を使い、一言謝ってから元居た屋敷に戻るつもりなのだ。そして、晴明・・というか”ご隠居”は、空の姉への謝罪がうまくいくかを確かめるためにその念話の波動をジャミングして会話の内容を聞き取るという込み入った妖術を使うらしく、その準備を進めているのだ。
「よし、準備完了なのじゃ!」
”ご隠居”の声がした方を見ると、なぜか”ご隠居”は眼鏡をかけて、さらにいつもの着物ではなく白衣を纏った姿になっていた。
「あの・・”ご隠居”、どうしたの、それ?こんな時にコスプレ?」
「ち、違うのじゃ!これは、こういう呪術を用いるのに適した格好なのじゃ!決してふざけておらぬぞ!」
うーん、よくわからないけれど、恰好から入るみたいなことなんだろうか?とりあえず珍しい格好なので写メ撮っておきます。
「わあ、”ご隠居”ちゃん可愛い~☆」
「こ、こら!写真を撮るでない!て、照れるであろう//」
・・ぬいさんがね!
さて、こちらの準備が終わったところで、空が早速念話を開始する。それと同時に、”ご隠居”も髪を逆立てて電波をジャミングし始める。その姿は、さしずめ某有名妖怪の妖怪アンテナのようであった。しかし、念話を始めて数秒たったところで、空が不可解そうに眉を顰める。
「・・おかしいべ。念話がうまくつながらない・・。誰かに邪魔されている?」
念話をジャミングしている”ご隠居”にも相手の音声は入ってきていないのか、先ほどから「ざざ・・ざざー」というノイズ音だけを口にしている。
「・・拾った念話の音声、口で喋るんやな。」
関西人は流石こういう時でもツッコミを忘れない。
しばらくの間、静寂の中に”ご隠居”の「ざざー」という声だけが響く中、焦りを浮かべ始めた空の元に、ようやく返事が返ってきた。
『・・空?聞こえる?』
「姉ちゃん!良かった!やっと繋がったべ!なんか念話がうまくいかないだけんど、今そっちどうなってるんだべ!?」
空の姉の花の音声を、”ご隠居”は本人の声で再生する。そして、ようやく念話が通じた空はほっとした表情を浮かべ、しかしまだ焦りの残る声で姉に話しかける。しかし、その後返ってきた姉からの返信で、この場にいた全員の顔が凍り付いた。
『・・助けて!』
短いがとてつもなく重いその言葉。その衝撃的な一言を最後に、”ご隠居”は再びノイズ音を紡ぎだし、その後空が何度念話を試みても、姉からの返信が返ってくることはなかったのだった。
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「・・とりあえず、状況を一旦整理しよう。まず、少なくともあちらで念話を受け取ることができないような事態が発生している。それは間違いないな。」
突然の事態に、私たちはは舞の部屋で作戦会議を開くこととなった。椅子の数が足りないので、床に輪になるようにして座っている。私の隣はごんさんと舞だ。舞の膝の上には、姉の身を案じて震えている空の姿もある。
「まあ、間違いないじゃろうな。しかし、情報が少なすぎる。いくらなんでもこちらから出向くには危険すぎるじゃろ。」
「ああ。だから・・ここから先は、貴女の決断次第です。舞さん。」
急に話を向けられた舞が、驚いたように自分の顔を指さす。
「え?うち?」
「はい。そもそも、今回の依頼は貴女の部屋に住む何者かの正体を突き止めること。そして、その依頼自体は既に達成しています。ですから、俺たちとしてはわざわざ危険を冒してまでそこの座敷童の姉を助けに行く必要はもうないんです。」
確かに、晴明の言った通り本来の依頼は既に達成されている。そのため、私たちはこのまま座敷童のことを放って帰っても何の問題もないわけだ。しかし・・それはあまりにも無責任すぎるのではないだろうか?
そう思っているのは晴明も同じだったのだろう。その後でこう続けた。
「しかし、ここまで関わって何もないことにして帰るのは正直こちらとしても気持ち悪い・・というわけで、貴女が座敷童を助けることを望むなら、引き続き依頼を引き受けましょう。」
晴明の言葉を受け、舞は自分の膝の上に座る空の頭をポンと叩くと、きっと顔を上げてはっきりとこう言った。
「そんなの決まっとるやないか!うちの部屋にこの子が来たのもきっと何かの縁や!こうなったら最後までとことん付き合ったるで!」
「舞・・。」
その頼もしい言葉に、感動したように舞を見上げる空。そんな空に、舞はにっと笑ってブイサインをしてみせた。
「ししし!うちはおせっかいを焼くことに関してだけは人一倍なんや!任せとき坊主!アンタの姉ちゃんは、きっと助けてみせるで!」
そう言った後でちゃんと、「晴明さんたちがな!」と付け加えるのも舞は忘れていなかった。
ぬいは普段は糸目で、怒ると目を見開くイメージ。ごんはいつも目力全開。ハニーだけ見てます。
次回、『もっふもふやないか!』です。




