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第二十五話:座敷童の身の上話

さて、十中八九謎の泣き声の正体であろう座敷童(仮)も姿を現してくれたので、改めて舞の部屋に上がり、事情聴取の開始である。「お前がやったんだろ!かつ丼喰わせてやるからさっさと吐け!」「俺、親子丼の方が好みっす!」などという刑事ドラマでよくありそうなやり取りが始まりそうだ。しかし、客観的に見ると、床にビクビクと震えながら座っている少年を大人が数人がかりで取り囲んでいる様子は、いじめかカツアゲをしているようにしか見えなかった。

「俺たちが今日ここにやってきたのは、ここに居る彼女・・舞さんに依頼を受けたからなんだ。君は、もちろんこの女性のことを知っているよね?どうしてこの部屋に住んでいるのかな?」

舞に対しては既にさんざん素の顔を見せてしまってるからか、晴明は通常モードの口調で少年に話しかける。しかし、少年はぷいっと顔を横に向けてこう言った。

「も、黙秘権を行使するべ!」

「よし、分かった。ぬい、”ご隠居”、この生意気少年を心胆寒からしめてくれ。」

晴明からのゴーサインに真っ先に反応したのはぬいの方だった。ぬいは、指の関節をポキポキ鳴らしながら少年に近づいて行く。

「了解で~す☆実は、まだ怒りが十分に収まっていなかったのよね~。・・おら、クソガキ。てめえのケツの穴から手え突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせてやらあ!!」

どこの一昔前のヤンキーだよ!と思わず突っ込んでしまいたくなるようなセリフを言いながら迫りくるぬいは恐怖そのものでしかない。流石にこれには奥さんラブなごんさんもドン引きではないだろうかと思い、ごんの方を見てみると、何故か床に蹲り悶絶していた。

「・・ぐはっ!今のハニーの表情、最高に美しい・・!!そんな凶悪なハニーも最高にクールだ・・ぜ。」

「もう、そんなこと言って・・ダーリンったら♡」

お、お巡りさーん!!ここに手の付けられないバカップルがいます!!誰か彼らの目を覚まさせてあげて!勝手に二人だけの世界に行ってしまった二人は置いといて、仕事にとりかかろう。可愛そうな少年は、ぬいに脅されたせいでまたしても半泣き状態になってしまっていた。そして、

「わ、分かったべ!全部話す!おらがこの部屋に住み着いている理由も話す!だから、あのおっかない女を近づけないでほしいべ!」

ぬいに対する恐怖心からか、少年は自分から全てを話すことを約束してくれたのだった。


▼▼▼▼▼


「おらの名前は、”(そら)”って言うべ。今はこんな都会に染まったなりだから気付かねえかもしれねえけんども、おらは、元々東北のある老夫婦のお屋敷に住む座敷童だったんだべ。」

・・ごめん、東京出身でないことは皆知っていると思う。

「いや、うちは初めて見た時からなんやこいつ田舎臭いガキやなって思っとったで?」

そこは突っ込まないであげてよ舞さん!

「え?田舎臭い・・?・・ま、まあそのことは別にいいべ。ええっと・・おらには実は双子の姉がおるんだけんど、姉ちゃんの名前は”(はな)”言うべ。おらが東京に行こうと思ったのは、その姉ちゃんとの喧嘩が原因なんだべ。」

座敷童の少年―空が話してくれたことによると、なんでもこの空という座敷童は、昔から東京に憧れていたらしい。そして、座敷童は古風な恰好をしているものだという人間たちの決めつけも我慢できなかった。しかし、姉は自分とは対照的に、昔ながらの座敷童スタイルを崩そうとはせず、むしろ自分から進んで、おかっぱ頭に着物姿という座敷童スタイルを守り続けてきた。最近ではもんぺに衣装だけは路線変更したが、それでも古風なのは変わらない。そんな姉に対し、空が東京への憧れを口にすると、姉はそれを鼻で笑ってこう言ったそうだ。

「あんたなんかが東京出てやっていけるわけないでしょ?インターネットも使ったことないくせして。笑えるわね。せめてそのどぎつい方言を何とかしてからそんなことは言いなさいよ。」

その最初から決めつけるような物言いに、ついかっとなってしまった空は、半泣きになりながら

「う、うるさいべ!おらだって・・東京でやっていけるんだ!」

と叫んで、その勢いで屋敷を出ていってしまったらしい。

「でも、東京にどうやって行けばいいのかが分からなくて・・空港までは何とか行けたんだけんども、間違って大阪行きの飛行機に乗ってしまったんだべ。」

そして、大阪に着いて人の多さに恐怖し、東京へ行く方法を探して空港の中をビクビクしながら歩いている時に、大声で「よっしゃ!待ってろよ東京!!」と叫ぶ舞を見つけたらしい。

「あ、この人東京さ行くんだなと思って、おらこの女の荷物の中に忍び込んだだ。そして、無事東京でびゅーを果たしたんだべ!」

しかし、初めのころは初めての東京にワクワクしていた空も、次第に元いた家と姉のことが恋しくなってしまったという。

「座敷童は基本人間に見つかったらいけねえし、おらこの部屋にいても見つからないようにずっと隠れてたから、話し相手もいねえで、寂しくって寂しくって・・こんなことなら、東京なんか来るんじゃなかったべ!!」

話しているうちにまた悲しくなってしまったのかおーいおーいと大声で泣き出してしまう空。・・なんだろう。この子あれだ。典型的な『都会に憧れて東京にやってきたけど、なじめなくて故郷が恋しくなっている田舎少年』だ。そこはかとなく残念な子である。話の中に出てきたお姉さんの方は、標準語ぺらぺらでできる女オーラがしていた。

とりあえず、泣き出してしまった空を舞が慰めている間、私や晴明たちの間では、この子を元いた家に帰そうという方向で話はまとまったのであった。

さて、これで終わりじゃないですよ?まだ話は続きます。

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