第二十一話:大阪から来た女
―『先日お伝えしたニュースの続報が入ってきました。当初事故かと思われていた東京都〇〇町の事件ですが、警察の捜査により、被害者の女性の双子の弟が容疑者として挙がってきました。しかし、警察が容疑者の自宅に踏み込んだところ・・・』―
リビングの前に差し掛かると、ちょうどテレビを見ていたのかそんなニュースが聞こえてきた。しかし、私の足音に気付いたのか、私がリビングに入った時には晴明はテレビを消してこちらをなぜだか不機嫌そうに眉をひそめて見つめていた。
「・・・なんか厄介ごとでも起こったか。」
「すごいですね!その通りですよ!さあ、早く店の方に上がってきてください!」
晴明のこういう時の状況把握能力の凄さは知っているので、私は特に驚くこともなく晴明を促した。しかし、晴明は頭をぽりぽりと掻き、全く動く気配がない。
「・・どうせ依頼人が昼にやってきてしまったんだろ?前も同じようなことがあって大変だったんだ。やだ。面倒くさい。行きたくない!」
「・・依頼人はなかなか可愛らしい女の子ですよ。」
「よし行こう。おい、鏡夜、何をぐずぐずしているんだ?早く行くぞ?」
言ったこちらが驚くほど効果覿面であった。私は、呆れた顔で晴明に言った。
「・・晴明は、本当に女性が好きなんですね。」
「当り前だろ?男としてこの世に生を受けたなら、女を愛するのは義務だ。義務は果たさなければならないからな。」
堂々とそう言い放つ晴明には、もはや尊敬の念すら抱いてしまう。確かに、晴明はその言葉通り私が見た限り出会った全ての女性に対して何らかのアプローチを行っていた。
ん?待てよ?
私は、その時とあることに気付いて、晴明に確認することにした。
「あの・・晴明、ちょっと聞いてもいいですか?」
「ん?なんだ?時間がないから歩きながらでいいか?」
私は、晴明の後ろについて上へと上がりながら、先ほど気付いたことを尋ねることにした。
「晴明って、のっぺらぼうのへのへのさんにはアプローチしていませんでしたよね?・・あと、私に会った時も。それはなんでですか?」
そう、私の覚えている限り、私が初めて晴明に会った時には何もそれらしいことは言われなかったし、へのへのさんにもそんなことを言っている様子はなかった。しかし、晴明はその問いに何でもないようにすぐ答えた。
「ああ、へのへのにはちゃんと言ったぞ?ほら、俺がへのへのの長話に付き合わされていた時間があっただろう?その時に、「今度君の顔にサインしてもいいかな?」ってな。まあ、予想通り却下されたが。今は歌にしか描いてほしくないらしい。」
「うわあ・・依頼人にそんなこと言ってたんですか?正直ドン引きです。」
「勝手に引いておけ。」
なんと、晴明はちゃっかりへのへのにもそれっぽいことを言っていたらしい。本当にぶれない男である。
あれ?そういえば肝心のことをまだ答えてなくない?
「・・で、私の時は何で言わなかったんですか?まだそれ答えてくれていませんよ?」
しかし、晴明は私のその問いには答えず、カウンターへと通じる扉に手をかけた。
「・・その話はまた後でな。今からはもう仕事だ。」
そして、こちらを見ることなくさっさとカウンターへと行ってしまう。なんだかはぐらかされた感じで不満は残るが、私は渋々晴明の後をついて扉を開けたのだった。
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「おお、カナウ、晴明!やっと来たか。今ぬいがあの客の相手をしておる。他の客はサトリとごんで帰らせておいたからこれでもう心配ないぞ!」
カウンターから厨房へと入った私たちに”ご隠居”がそう声をかけてきた。その言葉を受け、店の方を見てみると・・・
「・・それでね、ダーリンは私にこう言ったのよ。『ハニー。君のことは一生俺が守ってみせる。』・・ってね~♡」
「何それ!?ちょー羨ましいわー!うちもそんな素敵な台詞男子から言われてみたいわー!」
「あら。舞ちゃんなら絶対言われるわよ。だって、と~っても可愛いもん。」
「あっはー!!いや、ぬいさんは口がうまいな!うちそんなこと言われたの生まれて初めてやで!」
そこには、楽しそうに恋愛トークで盛り上がるあのピンク髪の客とぬいがいた。私がぽかーんと口を開けてその様子を眺めているところに、サトリが無い胸を張って心なしかドヤ顔でこう言った。
『「サトリは仕事をしたぞ。客たちの心を読んで、「やましいことをこの場でばらされたくなければ即刻店から出ろ。」と言ってやって客を追い出したのだ。」サトリはドヤ顔でそう言った!』
あ、やっぱり今のはドヤ顔だったんだ。相変わらず表情はないけれど、最近はなんとなくサトリの感情も読めるようになってきた。そして、「それって脅迫じゃね?」と思ったあなた!ご安心ください。店を追い出した客にはごんさんがきちんと謝罪+記憶の一部消去を施して家まで送り届けました!アフターサービスも完璧だね!
しかし、サトリたちがそこまで頑張ったのなら、私が急いで晴明を呼ぶ必要はなかったのではないか?そう思ってしまったのは仕方のないことである。
「さて・・関西弁が素敵なお嬢さん。私がこの店の店長の安倍晴明です。本日はどういったご用件でしょうか?あと、この後食事でも一緒にどうでしょうか?」
いつもの挨拶に加え、いきなりナンパまがいの台詞を吐く晴明。どうやら、見た目の時点でかなりの高得点だったようだ。そして、そんな挨拶を受けた女性は、まんざらでもない顔で頬を赤らめながら、自己紹介をした。
「うわ!めっちゃイケメンさんやん・・・。なんか照れてまうな。・・えー、うちは、道頓堀舞言います。百鬼夜行をください・・?でいいんやったけ?まあ、とりあえずこれからよろしくたのんます!」
彼女―道頓堀舞は、そう言ってにぱっと笑ってみせたのだった。
次回、舞が依頼内容を語ります。




