第十九話:思い出のキャンパス・ライフ
「久しぶりに会ったんだし、もう少し話していきましょうよ。」
歌たちの後に続いて店へと帰ろうとしていた私たちは、アリスにそう言われ引き止められた。
・・まあ、本当はそう言われても帰ろうとしていたのだが、「・・話していかないと、店まで付いていくわよ。」とアリスが言ったことで”ご隠居”が顔を青くして慌てて踵を返したのだが。
アリスは、店の中に再び足を踏み入れた私たちに紅茶を淹れてくれた。その、少し独特な風味の紅茶をすすりながら、晴明がめんどくさそうに尋ねる。
「・・で、お前は俺たちに何を話してほしいんだ?」
「それはもちろん、ここ数ヶ月の”ご隠居”たんの華麗なる活躍譚についてに決まっているじゃない!それ以外に価値のある話が何があるのよ!!」
「お、お主は本当にぶれないのう・・。うがあ!?」
晴明は、青い瞳を輝かせて椅子の上に体操座りし、胸に先ほどさらった”ご隠居”を抱きかかえ話を聞く万全の体勢を整えるアリスに呆れたようにため息をつきながらも、ここ数ヶ月の自分たちの様子をアリスに話して聞かせた。その中には、二ヶ月前私が初めて体験した依頼である女将さんの話も出てきた。
「へえ!”ご隠居”たんドラムやったの!?うわあああ!!なんで録画してくれなかったのよ晴明!!!久しぶりに”ご隠居”たんのドラム見るチャンスだったのにぃぃぃ!!」
「そこまで気を回せるかよボケ。こっちは仕事でやってるんだぞ?」
「仕事でも適当にうまいこと言って録画すればよかったのよ!あんたそういうの得意でしょうが!・・てか、あんたも一緒に歌えばよかったじゃない。あんたの数少ない利点は、そのずる賢さと歌唱力なんだから。それがなかったら、あんたただの女好きのクズよ?」
「さらっとディスってるんじゃねえよ!それに、歌は・・人間の前では歌わないって決めているんだよ。」
「えー、つまらないの。大学時代は一緒にバンド組んで歌ってたじゃない。・・まあ、あんたの言いたいことも分かるけどさ。」
私は、晴明とアリスの間で交わされる会話に全くついていけないでいた。というか、何かところどころ変な言葉が聞こえたような・・・
私は、二人の会話の間におずおずと手を上げて割って入った。
「あの、すみません。私には二人が大学時代の同級生、と聞こえた気がしたんですが・・」
すると、二人は、一方は苦々しそうな顔で、そして一方は満面の笑みでこちらを振り返ってこう言った。
「ああ、そうだ。残念ながらな。」
「ちなみに、”ご隠居”たんも大学時代の同級生よ!私たちは大学時代『心霊研究サークル』に入っていたの!」
「えええ!?ちょっと待ってください!!なんか色々な情報が一気に入ってきて軽くパニックに!?」
私は、混乱する頭を落ち着かせるため、もう一度三人にその事実を確認した。
「え、じゃ、じゃあ、晴明と”ご隠居”とアリスさんは大学時代の同級生で、同じサークルに入っていた・・ってことでいいんですよね!?」
「そうだって言っただろう?何回も言わせるなよ。」
「フフフ・・あれは、儂の長い人生の中でも最も波乱に満ちた日々じゃった・・主にこの女のせいでな。」
「ほんっとう、最高の四年間だったわ!私はあの時『心霊研究サークル』の扉を開けた時のことを今でも鮮明に覚えているわよ!私にとっての運命の女神、”ご隠居”たんに会えた日なんだもの!」
「・・儂も今でも覚えておるぞ。出会って数秒で奇声を上げながら抱きついて来られたのは初めての経験じゃったからな。儂にとっては最悪の日じゃ。」
「え!?じゃあ、私が”ご隠居”たんの初めて奪っちゃったわけ!?キャーーーーーー!!!!!」
「お前はとりあえず一回黙れ!」
目の前で繰り広げられるとてつもなく濃いキャンパス・ライフの思い出話に、私は頭が回りそうになる。
こ、この個性の塊みたいな三人が、同じ大学にいて、同じサークルに・・!?どんな大学だよそこ!!ってか、そもそも”ご隠居”にいたっては大学にどうやって入ったかも不明だし!だってあの人見た目小学生だよ!?
「ああ、それなら儂得意の幻術で違和感を持たせなくしたのじゃ。入学手続きも儂の作った偽造書でやったしな。」
「ああ、そういえばあの時はサンキューな”ご隠居”。俺も家飛び出してるから親に援助とかしてもらえなかったし大学行けただけでも奇跡に近かったもんな。」
「ま、まあ、そなたの頼みじゃったからな。それに、儂の手にかかれば身分偽装などたやすいことじゃしな。」
「つまり、そんな奇跡の巡り会わせで出会った私たちはまさしく運命の赤い糸で結ばれているということだと思うのよ!というわけで、結婚しましょう、”ご隠居”たん!!!!!」
「・・頼むからお前はもう一生黙ってろ。」
-その後、元同級生同士による思い出話は夜まで続き・・ほとんどアリスが勝手にしゃべっているだけだったが・・・
いつの間にか眠ってしまっていた私は、晴明にたたき起こされ、すっかり暗くなった空の下、千切れんばかりに激しく手を振るアリスに見送られ、店へと帰っていったのだった。
「”ご隠居”たーん!!また来てねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!今度会うときは白無垢用意してあげるから!」
「いいから、お前はさっさと帰れぇぇぇぇ!!!!!」
次回は、特殊視点での閑話です。




