第十六話:恋はのっぺらぼうの如く
パソコンが使えないので、解約済みの携帯をWi-Fiに繋げ無理やり投稿しました。そのため文字数は少なめだと思いますがご了承ください。
「愛する人を助けてほしい…ですか。」
その本来この店には相応しくないような依頼内容に、晴明も少し当惑気味に喜多川歌を見つめる。しかし、その視線の意味を勘違いしたらしい歌が「ふひっ」と卑屈気味な笑みを浮かべてこう呟いた。
「あ、あなたの言いたいことは分かりますよ、です。私みたいな暗くて地味な女が喜多川歌でがっかりしているんですよね?わ、私でもそう思いますよ?歌なんて可愛らしい名前似合わない、豚の方がお似合いだって。その上、こんな私に愛する人がいるなんて、馬鹿みたいって思っているんですよね?」
「いえいえ、そんなこと思ってませんよ!それに、貴女は充分魅力的ですよ。」
「フヒヒ…フヒッ!気を使わなくていい、です。どうせ私なんて胸が大きいだけの女、なんです。貴方みたいな台詞を吐く男性は皆身体目当てでした、です。でも、私は気にしない、です。それで、貴方が私に対する怒りを鎮められるなら…それが一番いいですから。」
「…………。」
…ヤバい!この人想像以上になんか色々抱えてる感じだ。あの女性に対しては百戦錬磨の晴明が声もかけられずにいるよ。
「と、とりあえずじゃ。その話は後にしよう。お主の依頼内容をもう少し細かく教えてくれぬか?今のところ、幽霊や妖怪は関わってないような気がするのじゃが。」
凍りつくような重い空気を振り払うように、“ご隠居”が歌にそう尋ねた。
(ナイス!流石“ご隠居”!)
(女関係はお主の仕事じゃろうが!全く世話をかけよって…)
晴明と“ご隠居”の間で、視線だけのそんな会話が繰り広げられるのを見た気がした。そして、依頼した張本人である歌は、ようやくその驚きの事実を私達に明かす。
「はい…あの、ですね。私の愛する人は…のっぺらぼう、なんです。」
その衝撃告白に絶句する私達をおどおどと見回して、歌は「…フヒヒッ。」と今度は少し照れくさそうに笑ってみせたのだった。
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「家は近くにあるので、案内します、です。」
という歌の提案を受け、私達は歌の住むアパートまでやってきていた。
「それにしても、のっぺらぼうが恋人なんてびっくりしました。こういうのってよくあることなんですか?」
私は、隣に立つ晴明にそう尋ねる。
「いや、人間と妖怪が恋人になった事例は聞いたことがない。大体、妖怪には人間を嫌うモノが多いからぬいたちのように人間の前にどうどうと姿を現す奴らもまれだ。正直、予想ができない分不安だな…。」
なんと、晴明でも初めて聞く事例だったらしい。晴明の口から出た「不安だ」という言葉に、こちらまで不安になりながら、私達は歌に案内されるまま、歌の住む部屋の前までたどり着いた。
「へ、へのへの…帰ってきたよ。きょ、今日は陰陽師さんも連れてきたの。これでへのへのの病気も、きっと治るよ…!」
歌が若干顔を上気させながらそう言ってドアを開けるのを聞き、私達は思わず顔を見合わせた。
どうやら、例ののっぺらぼうは病気にかかっているらしい。あと、名前はへのへのというようだ。へのへのもへじからとった名前だろうか。
「病気か…。それなら、あいつの手を借りることになりそうだな。」
ぼそっと呟いた晴明の声を聞き、“ご隠居”が何故かあからさまに顔をしかめた。
「あいつか…できれば儂は、あいつには会いたくないのじゃが…。」
そんな応酬をしているうちにドアは開かれ、ついに件ののっぺらぼうが姿を現した。
そして、最初に思った感想…女かよ!
へのへのと呼ばれた歌の恋人は、のっぺらぼうの名に相応しく顔はなかったが、身体には微かな膨らみがあり、その身体つきから女であることが分かった。しかし、そののっぺらぼうの特徴とも言うべき顔は、何故かほっぺたの箇所が真っ赤に膨れ上がっていて、恐らくこれが依頼内容の彼女の病気であると思われた。
「み、皆さん、改めて紹介します、です。私の愛する人…のっぺらぼうのへのへの、です。」
『よろしく!』
口も当然ないのっぺらぼうのへのへのは、プラカードを掲げ私達にそう挨拶をしてくれたのだった。
次回は、薬屋の登場です。薬屋は美人な魔女さんですよ。期待していてください、です。




