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第十五話:天才絵師からの依頼

喫茶店の厨房係もすることになった私は、それからというもの毎日忙しい日々を送っていた。何しろ、サトリがやってきた客の心を読み、最も食べたいと思っているモノを注文される前に提供するというスタイルなので、作る料理の数は数え切れないほど多種多様だった。中には、名前も聞いたことのない外国の料理なんかもあったりして、そんな時は心の中で「お前なんでそんな料理が今食べたいんだよぉぉ!」と叫びながらほとんどの料理の調理法を知っている”ご隠居”のアシスタントに回る。そのおかげで、料理の腕は前と比べ物にならないくらい上達し、レパートリーも大幅に増えた。

一方、喫茶店ではなく夜のBARの方には、女将さんの依頼以降一向に客が訪れる気配すらなかった。

そして、本来の仕事は全くせず、喫茶店で料理ばかり作り続け、なんと二か月が経過した。私が初めてこの店を訪れたのは肌寒い冬のことだったが、季節はとうに桜が見ごろの春へと変わっていた。ここ数日、私は、時折”ご隠居”やぬい達と一緒に花見に行ったりして喫茶店の店員としての生活を楽しんでいる。正直、最近では朝と夜の二回の食事の時にしか晴明には会っていない。自分が、陰陽師のもとで働いていることなど半分忘れかけていた、そんなある日のことだった。

「・・・百鬼夜行、ください。」

その台詞を厨房の中で聞いた瞬間、私は思わず「キター!!」と叫びそうになっていた。

いや、ほんっとうに久しぶりにBARの方に客が来たから、もしかしたらそうじゃないかな?って期待して厨房の方まで来たんだけどね。でも、生でこの台詞を聞いたのは初めてだからちょっとドキドキしたよ。

私は、久しぶりの依頼・・そして私にとっては初めて見るBARにやってきた依頼人に少し興奮しながら、厨房からその依頼人の姿を眺めた。なお、今は”ご隠居”お得意の『夢幻郷』という技でこの厨房は依頼人から見えていないためこうやって客をじろじろ見ていても問題ない。

BARにやってきたその客は、紫色に染めた髪を無造作に伸ばしており、前髪は長すぎて目が隠れてしまっていた。その上、灰色の猫耳付きパーカーを深々とかぶっているため、顔は暗くてほとんど見えない。しかし、少しだぼっとしたパーカーを着ていてもやけに目立つ胸の膨らみから、その客が女性であることは分かった。私は、一目見てこの客に興味を持った。灰色のパーカーとジャージという地味な恰好の割には、髪の色は派手で、そして顔の見えないミステリアスな美女!(仮)否が応でもいろんな妄想が引き立てられる存在だった。

「おい、晴明!久々の客じゃ!早く上がって来ぬか!」

”ご隠居”が指をパチンと鳴らして幻の光景を解除しても、その客は全く動揺した様子を見せない。私は、ますます興味を持ってその客を眺め・・っておっと。『夢幻郷』解除したから厨房の様子は丸見えだった。危ない危ない。

私は、こっそりと頭だけのぞかせることにして、この客の様子を眺めることにした。

「やあ、私がこの店の店長の十三代目安倍晴明です。・・・ミステリアスなお嬢さん、そのフードを脱いで顔を見せてくれませんか?あと名前と住所と電話番号も教えてください。」

ミステリアスな雰囲気を漂わせる女性は、女好きの晴明の琴線にも触れたようだ。早速ナンパのような文言を並べたてる晴明に、その女性はゆっくりとフードを脱いで答えた。

「わ、私は・・・喜多川歌(きたがわうた)、です。一応、巷では、天才絵師・・なんて呼ばれて、ます。スリーサイズは、上から、93、60、89、です。これから何卒、よろしくお願いします、です。・・フヒヒ。」

喜多川歌・・?それってまさか・・!?

「え、喜多川歌!?それってあのイラストの即売会があったら十万人が行列を作ったことで伝説になったあの天才絵師、喜多川歌!?」

あの晴明ですら驚いて接客モードの口調を崩してしまっているが、私も厨房で絶句していた。喜多川歌といえば、アニメキャラクターだけではなく様々なキャラクターの絵を描き、その絵のあまりの美しさから一部信者のような熱狂的なファンまで生まれている伝説の絵師だ。しかし、その正体は公表されておらず、男か女かさえも分からない謎の絵師としても有名だった。その喜多川歌が、この目の前の女性!?

あまりの驚きに絶句する私たちのことなど気にせず、喜多川歌は袖で少し隠れた手をその大きな胸の前でもじもじさせながら、依頼内容を告げた。

「えっと、ですね。今日ここに来たのは・・・私の最愛の人を助けてほしいから、なのです。」

喜多川歌はそう言うと、前髪で隠れた顔を晴明の方に上げ、「・・フヒヒ。」と少し不気味に笑ってみせたのだった。

二日ほど休むので、次の投稿は土曜日にしようと思います。

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