第十話:出番ですよ幽霊さん
ミシ・・ミシ・・
こちらへと徐々に近づいてきている何者かの気配を感じながら、私は布団の中でこのような状況を作り出した張本人に悪態をついていた。
(晴明の馬鹿!いくら直接的な害はないとはいえ・・めちゃくちゃ怖いじゃんか!!)
しかし、いくら悪態をついたところで、もはやどうにもならない。私は、大きく息を吸い込むと、それが自分の目の前に来た瞬間を見計らって、毛布の中から飛び起きた・・!
―私がなぜこのようなことをしているのかというと、話は数分前にさかのぼる。幽霊を成仏させる方法として即興ライブの開催を決めた晴明は、なぜかやたら張り切ってライブの計画を立て始めていた。
「バンドの中で、彼女はボーカルだったんですね?貴女は何を担当していたんですか?」
「えっと、私はギターを・・・」
「ギターですか!いいですねえ。今ギターは持っていますか?」
「は、はい・・。一応部屋には自前のギターを置いています。でも、最近全然弾いていないから演奏するのはちょっと・・」
「何を言っているんですか女将さん。貴女は強制参加に決まったいるではないですか。貴女と一緒に演奏しなければ彼女の未練は晴れないのですから。さて、ボーカルとギターはいるとなると、あとはドラムか・・”ご隠居”、頼めるか?」
「ああ、任せておけ。」
”ご隠居”は簡単に頷いたが、どう考えても見た目が小学生くらいの”ご隠居”にドラムが叩けるとは思えない。
「ちょっと、”ご隠居”。あんなに簡単に引き受けちゃって大丈夫なの?いくら晴明の式神だからといっても、無理なものは無理って断らなきゃダメだよ?」
晴明に聞こえないように”ご隠居”の耳元に近づいてそっとそう囁いた私に、”ご隠居”は少し驚いたように目を見開いた後、ふっと得意気に笑ってみせた。
「心配してくれたのじゃな。ありがとう、カナウよ。じゃが、問題はない。儂はこう見えても、晴明と組んだ大学時代のバンドではドラム担当じゃった。晴明もそれを分かっておるから儂に頼んだんじゃ。」
・・なんで一緒に大学行っているんだよとかその見た目で大学卒業してるのかよとかそもそも人間じゃないだろとかツッコミたいことは多いけれどなんだか一つ一つ聞いていったらきりがなさそうだからやめておこう。
「私に、ライブをちゃんとすることなんてできるんでしょうか・・」
「自信を持ってください。これが、彼女を成仏させる一番いい方法なんです!」
隣では、未だライブを行うことに不安を抱いている女将さんを晴明が必死に説得していた。
「とりあえず、彼女がいつも現れる時刻になったら、部屋を一気にライブ会場へと変えて、そこにギターを持った貴女と”ご隠居”が突撃してください。前説は私が担当しましょう。うちの従業員が貴女の身代わりとして布団で寝れば、自然と彼女も姿を現すでしょう。」
サクサクッと話を進めていく晴明だったが、そのワードの中に聞き捨てならないものが混じっていた気がして、私は恐る恐る晴明に確認した。
「あの、晴明?今、『うちの従業員が身代わりになる』って聞こえた気がしたけれど・・?」
「ああ、言ったぞ。もちろん君のことだよ、鏡夜クン。もし幽霊が姿を現さなかったら計画はパーになるからな。この身代わりという仕事は非常に重要だ。」
「で、でも、身代わりってなんか危険なにおいがプンプンする役職なんですけど!?」
「大丈夫大丈夫!この霊は話を聞く限り直接的に危害を与える類ではないようだし。・・それに、君だけ何もしないで帰ろうなんて、そんな甘いこと考えていたわけではないよね?」
・・はい、おっしゃる通りでございます。晴明に雇われている立場の私としては、何も言い変えす言葉もなかった。落ち込む私を励ますように肩を叩く晴明を、女将さんが不思議そうな顔で見つめていた。
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そして、今。私は、何者かの気配を感じて布団から飛び起きていた。そんな私の目に飛び込んできたものは・・!
「・・なんだ。ただの気のせいか。何にもいないじゃない。」
何者かの気配を感じて飛び起きたのだが、目の前には毛布の中に入る前に見た女将の部屋の光景しかなかった。何もいなかったことに正直ほっとしつつ私が後ろを振り返った、その時だった。
―目の前に、あの紅白にもでた閣下を彷彿とさせる白塗りメイクの女性がいた。
目と目が合い、沈黙が続く中見つめあうこと数秒。
『Yeaaaaaaaaaaaaaaah!!!!!!!!!!!!!』
「ぎゃあああああああ!!!!!」
大きな声でシャウトする彼女と共に、私の悲鳴が真夜中の旅館に響き渡ったのだった。
次は、いよいよ最期のライブの始まりだぜベイベー!




