第九話:シャウト
だいぶ次回予告詐欺していました。今回はまだ幽霊は登場しません!
女将さんが話を終えたところで、部屋の中には何とも言えない空気が漂っていた。私は、話の後半でとうとう泣き出してしまった女将さんに、何もかける言葉が見つからずにいた。彼女が死んでしまったのはあくまでも事故であり、女将さんのせいではない。そう言ってしまうのは簡単だ。だが、人の心というものはそんな言葉一つで慰められるほど単純なものではない。現に女将さんは、今もこうして罪の意識にさいなまれている。そして、彼女が幽霊として女将さんの前に姿を現しているのは、彼女が女将さんを今でも恨んでいるように思えてしまい、余計につらいのだろう。私は、涙ぐむ女将さんを直視することができずに、思わず目をそらした。そして、そらした目線の先にあった晴明の顔を見て、茫然とする。
「ククク・・ハハハハハ!」
晴明は、笑っていたのだ。それも、目に涙を浮かべるほど爆笑していた。呆気にとられる私と女将さんの前で、晴明は接客モードの顔をぽいと投げ捨てて”ご隠居”に話しかけていた。
「おい、”ご隠居”!今までこんな幽霊の話を聞いたことがあるか?こいつは最高にクールだぜ!俺、早くその幽霊の彼女に会いたくなっちゃったよ!」
「これ晴明。客の前でいきなり笑うなど失礼にもほどがあるぞ。・・まあ、女将の話す幽霊が少し変わった奴じゃということは否定せぬが。」
勝手に盛り上がる二人についていけず、私は晴明の異様なテンションに若干引きつつその興奮の理由を尋ねた。
「あの、さっきから晴明の言っていることがよく分からないんですけど、これって笑える話じゃないですよね?女将さんの顔見てくださいよ。驚きを通り越して若干引きつってきてますよ?一体幽霊の何が分かったんですか?」
「何がって・・この幽霊の未練が何か分かったに決まっているじゃないか。てか、お前は逆にあそこまでヒントがあって気付かなかったのか?」
晴明のその言葉は私に向けたものだったが、自分が言われたと感じた女将さんが、少々むっとした顔で声明を睨み付けた。
「さっきから貴方は何を言っているんですか?あの子の未練なんて、恨みをもつ私に対する復讐に決まっているじゃないですか!」
晴明は、女将さんのその言葉に心底驚いたというように目を丸くしたあと、こんなことを言った。
「え?貴女のバンド仲間の幽霊は、貴女のことを恨んでなんかいませんよ。むしろ、その逆です。」
今度は、私と女将さんが目を丸くする番だった。
「そ、そんなわけないです!あの子は私を恨んでいるに決まっています。そうじゃないなら、なぜ今になって出てきて私を怖がらせたりするんですか!」
「鏡夜。お前、幽霊の五つの決まり、覚えているよな?」
女将さんの叫びを無視して、晴明は私の方を向きふいにそう尋ねてきた。晴明の黒い瞳と女将さんの訝し気な視線を受け、若干緊張しつつ私は五つの決まりを順番に唱えていった。
「えっと、一つ目は、『幽霊の声は生きているモノには聞こえない』・・・って、ああ!?」
そこで私は、晴明の言いたいことがようやくわかった。そんな私の様子を見て、満足そうにうなずきながら晴明は話し始める。
「そう、『幽霊の声は生きているモノには聞こえない』。この決まりは、俺たち陰陽師や霊感のある一部の人間を除いて、全てに当てはまる。それなのに、女将さんには、幽霊のシャウトする声が聞こえていた。これは一体どういうことなのか。」
そこで、一旦晴明は置いてあったお茶で喉を湿らすと、再び話し始める。
「ここで、もう一つの幽霊の決まりが関わってくる。それは、『幽霊は一つだけ特殊な現象を起こすことができる』という決まり。これは、幽霊が未練を晴らすために何か一つ現象を起こせるというもの。今回の現象は、ズバリ『声を出す』、つまり『シャウトする』こと。そして、『シャウトする』という行為が未練を晴らすための現象だとすれば、彼女の未練はおそらく・・貴女との初めての野外ライブを、最後まで行うことができなかったことです。女将さん。」
「え、それじゃあ・・」
「はい。彼女は、貴女を恨んでいたわけではありません。むしろ、死んで幽霊になった今でも、貴女とライブすることを望んでいたのですよ、彼女は。」
―なんということだろうか。女将さんの口から聞いたときは気味の悪い心霊現象としか思えなかった毎晩のうめき声。それが、晴明の口から語られた推理によって、一瞬にして仲間とのライブを望む魂のシャウトへと姿を変えた。感極まったように泣き出す女将の肩を、晴明は優しく叩きながらそっとその耳に口を寄せた。
「・・彼女の未練は、貴女と一緒にライブを最後までできなかったことです。その未練を晴らすためには、ライブを最後までやらせてあげればいい。」
晴明の言葉に、女将さんははっと顔を上げる。そんな女将さんに、晴明は不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「貴女の協力が必要です。プロデュースは任せてください。最高のライブで、彼女を天国に送り出してあげましょう!」
次回こそ、幽霊を登場させたいと思います。頑張れプロデューサー!




