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プロローグ

ついになろうに作品を投稿してみました!これからも頑張っていきます!

薄暗い部屋の中で、男はベッドから起き上がった。そして、毎日そうしているようにリビングへと向かう。そこには既に温かい味噌汁が用意されており、そしてテーブルには男の同居人が既に座っていて、テレビを眺めていた。

―『先日、東京都の〇〇町で、道路を横断していた男女二人組が、車に轢かれるという事件が発生しました。 一人は意識不明の重体、もう一人は病院で死亡が確認されました。警察は現在、他殺の可能性も考えて捜 査を進めており・・・』―

そんなニュースがテレビから流れてくるのを聞きながら、男はテーブルに座り、「いただきます。」と手を合わせた。そこでようやく男が起きてきたことに気付いたらしい同居人が、着物の裾を翻しながらそのつぶらな瞳をこちらに向けてきた。

「お、ようやくお目覚めか。晴明(せいめい)。儂が折角作った味噌汁を冷ます前にさっさと食え。」

その幼い容姿には似合わぬ口調で、同居人である少女は晴明にそう言った。

「俺の生活リズムをお前に指図される所以はないね。お前は俺の母ちゃんか何かか?」

「儂はお主ら一族に代々仕えている式神じゃから母親同然のようなものじゃろ。つまらないことを言わんでさっさと食わぬかこの阿呆め。儂を怒らせる気か?」

そう言うと、少女はその漆黒の瞳を怪しく光らせる。晴明は慌てて箸を持ち朝食を食べ始めた。少女はそんな彼の様子を見て満足そうにうなずくと、自らも味噌汁をずずず・・と飲み始めた。

―ここは、東京でも都心から外れた田舎町に存在する喫茶店、その名も『狐狗(こっく)』。しかし、夜になると喫茶店はその姿を変え、この店の店長と同じく妙なうさん臭さを醸し出すBARへと一変する。BARの名前は『百鬼夜行』。店主は、十三代目安倍晴明。

この物語は、幽霊や妖怪といった魑魅魍魎の類と現世を生きる人間たちの間を取り持つ役目を負った男と、その仲間たちの物語である。


▼▼▼▼▼


私は、重い足をえっちらおっちら動かしながら思う。噂の店は客を呼ぶ気があるのか?と。少なくとも私の知る限りこんな田舎に店を構えている者などいない。

「ていうか、ここって本当に東京なのよね・・・」

東京も都心から離れれば割と田舎であることは知っていたが、実際に足を踏み入れたことはなかったため、今自分がいる場所が本当に東京なのかさえ疑わしくなってきた。

「そもそも、噂を聞いた時から怪しいとは思っていたのよ!」

慣れない土地にやってきた不安で、どんどん口からは文句がこぼれ出てくる。しかし、それを誰も咎めるものはいない。当たり前だ。先ほどから誰ともすれ違っていないし、この辺りにはろくに家もないようだから。

「まず、店長が陰陽師っていうのが胡散臭すぎでしょ。それに、あの安倍晴明の子孫だなんてネットには書かれていたし・・あんな噂どうせ誰かが面白がって書いた悪戯よね。」

口ではそう言いながらも、私は足を止めることはしなかった。先ほどから少しずつ坂になっているのか、さらにきつい。しかし、私は立ち止まるわけにはいかなかった。こんな胡散臭い噂でも、私にはどうしてもその噂にすがらなければならない理由があったのだ。

―数日前、私はネットの掲示板でこんな書き込みを見つけた。

『東京にあるとあるBARに、幽霊とか妖怪とかが関係する事件を解決してくれる自称「安倍晴明の子孫」がいるらしいw』

その書き込みにはすぐ、「何、そいつイタすぎw」とか、「そんな噂信じる奴いねえよ馬鹿!」などの返事が書かれていたが、私はその一文に目が釘付けになった。その書き込みに、私はどうしても期待せずにはいられない状況にあったのだ。

そう、何を隠そう、私は現在進行形で心霊現象に悩まされているのである。

「・・・ここか。」

しばらくえっちらおっちらしていたら、いつの間にか目的地である店の前へと到着していた。辺りはすっかり暗くなっているので、もうBAR『百鬼夜行』の看板が店の前には出ている。しかし、その文字はなぜか墨で書かれているため、この時刻だと非常に見えにくい。私も店の前に来てようやくここが目的の場所であることに気付いたのだ。それにしても、随分と殺風景な店である。装飾の類は何もつけていないし、真っ白な壁はシミ一つなくてそれが逆に不気味さを醸し出していた。私は、思わずごくりとのどを鳴らして、目の前にある入り口らしきドアを見つめる。なんとなく、このドアを開けたら冥界につながっていて、二度と現世に戻ることはできないのではないか・・・そんなことを思ってしまった。

「・・ええい!うじうじしてても仕方ない!ここまで来たんだ、開けるしかないじゃない!」

そう言うと私は、頬をパシパシと叩き、気合を入れなおし、ドアノブに手をかけた。そして、ゆっくりとそのドアを開く。

―あ、このドア内開きなんだ、家と一緒だ。

そんなことをとっさに思ってしまった私は、まだ、このドアを開けたことが人生のターニングポイントとなってしまうことに気付くはずもなかった。



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