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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
四章 あくどく布教編
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九十九話 急転直下は、やめて欲しいのですけど

 業喰ゴブリンたちを倒し、奴隷商の始末を偉いっぽい聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官に任せ、事態は一段楽した――かに思えた。

 あれは、あの神官が装飾過多ゴブリンと奴隷商の店主を、聖都ジャイティスにある広場で、公開処刑したときだった。

 俺たちは聖都に旅の神官を装って潜伏し、その様子を見ていた。

 神官が、どういう理由で処刑を実行するかを、広場に集まった人たちに語る。

 聴衆のほとんどが、それなら仕方がないという風に納得した。

 その後、ゴブリンと店主の頭を、青龍刀みたいな断頭剣を持った、刑の執行人が切り落とそうとする。

 だがそのとき、刑の中止を求めるように、白いローブの十人ほどの集団が割って入ってきた。

 全員が目深にフードを被っている。

 先頭に立つ人は大人のようだが、大半はその背格好から十代前半の子供に違いない。

 なんだか、俺たちと似た集団だなって、ほんのちょっとだけ親近感が湧いた。

 けど、刑を進めようとした神官にとっては、邪魔者でしかない。


「なんの用だ。被り物をとり、顔を見せよ」


 神官が誰何すると、先頭の一人がフードを取り払う。

 俺が予想したように、二十代ぐらいの大人の男性だった。

 晒された顔に、俺の近くで驚きの声が上がる。

 目を向けると、それはバークリステだった。


「トランジェさま。あの人は、わたくしと同じ、邪神の残滓に囚われし子の年長者です。確か名前は、バラトニアス、だったかと」


 顔見知りなんだ――って、気楽に思っている場合じゃないや。

 バークリステと同じ境遇で、業喰のゴブリン神官の刑を止めたとなると……。

 これは、嫌な予感がしてきたな。

 俺はこっそりと身振りで、仲間たちに注意するように伝えた。

 この俺の動きに反応するように、フードを取った男――バラトニアスも手を振る。

 すると、彼の後ろにいる子供たちが、袖から何かを取り出す。

 神官も聴衆たちも、武器かと警戒したようだったが、出てきたのは果物だった。

 そのことに、安心半分、困惑半分な顔になる。

 けど、俺は嫌な予感が当たったと、うな垂れたくなった。

 この場面で食べ物を出すだなんて、これはもうあの人たちは、業喰の信徒になっているに違いないんだから。

 バークリステが俺に会って感化されたように、あの人たちは業喰ゴブリンに傾倒してしまったんだろうなぁ。

 そして俺は、これから始まるであろう混乱を予想して、仲間たちを引き連れて、この広場から脱出することにした。

 程なくして、バラトニアスが静かに語り始め、着き従っている子たちが、一斉に手の果物を食べ始める。


「そのゴブリンの神官を殺されると、こちらは困るんですよ」


 その行動に呆気に取られる、神官と聴衆たち。

 俺たちが聴衆の最外延部に辿りつくと、バラトニアスの宣言するような声が聞こえてきた。


「さあ、我が子たちよ、あのゴブリンをお助けするのだ」

「「「「あああああぁぁぁぁー!!」」」」


 子供特有の変声期前の大声が響いた。

 振り返ると、刑を執行しようとしている人たちに向かって、果物を食べ終えた子供たちが跳びかかっていく姿が見えた。

 その強襲に、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官は、素早く反応した。


「ええい、不心得ものたちめ。こいつらも背教者だ、捕らえろ!」

「「おうさ!」」


 神官の指示に、彼の護衛たちと断頭剣を持った執行人が、捕まえようとする。

 本来なら、大人と子供の力の差で、あっという間に事態は収束しただろう。

 けど、あの子供たちは、食べ物で体を強化できる、業喰の神の信徒だ。


「あああぁぁぁ!」

「ぐあああぁぁぁ――」


 大男が、半分も身長がない子供に殴られ、後方に吹っ飛んだ。

 そのことに、聴衆も神官側も、目を丸くした。

 だが、偉いだけあって、神官の立ち直りは早かった。


「そやつらの目的は、あのゴブリンだ。奪い返しにくるということは、背教者である。ならば、殺しても構わない」


 その指示に従い、護衛と執行人はそれぞれ剣を構えた。

 そして、襲い掛かってくるのに合わせて、子供たちを攻撃する。

 剣は白いローブを引き裂く。

 しかし、子供たちから血が噴出することはなかった。


「法衣の下に、革鎧だと!?」


 執行人から上がった驚きの声の通りに、切り裂かれたローブの下には、頑丈そうな革鎧が見えた。

 ああー、これでもう聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官側に、勝ち目はなくなっちゃったな。

 力で負けているのに、頼みの武器は革鎧で効果が薄くなっちゃっているんだものなぁ。

 聴衆たちも、子供たちの方が優勢と見て取ったのだろう、ちらほらと広場から逃げ始めている。

 これが洪水と化す前に、俺たちは広場のすぐ隣にある飲食店に入った。

 そして、他の客たちに混じりながら、二階席から安全に広間を観察する。

 もちろん、席代代わりに、食事の注文も忘れない。

 早々と出てきた料理を食べようとする頃には、広間の決着はつきそうになっていた。


「どうやら、バークリステの知るあの男が、神官ゴブリンを奪還し終えたみたいですね」


 そして神官側を殺さずに、子供たちと共に広間から脱出しようとしている。

 彼らの姿を見て、バークリステは複雑そうな顔をした。


「……彼も、昔のわたくしのように、邪神の残滓に囚われし子の将来を憂いていましたから」

「だからこそ、バークリステは我が神を選んだように、あの男は彼の神を信仰し。彼に世話をされた子たちもまた、その下に集ったわけですね」


 本当にバークリステと同じ境遇だなんて。

 これはまた、面倒な事態になったなぁ。

 だって、この世界は、人間を含めた善なる存在の世だ。

 なにかを企むなら、ゴブリンがするよりも、人間がした方が通りやすいんだから。

 異邦人であるはずの俺が、周囲にすんなりと受け入れられてしまうぐらいにはね。

 そして、業喰ゴブリンたちの隠し拠点は、各町にあって、それがまだ潰されていない。

 つまりそれは、潜伏先に困らないということでもある。

 このまま取り逃がしてしまったら、あっさりと業喰の神の一大勢力ができてしまいかねないなぁ。

 さて、どう対処しようかなと、頼んでいた果物のジュースを飲みながら考えるのだった。



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