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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
四章 あくどく布教編
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九十七話 奴隷商会の地下に、邪神教の行いを見た!

ショッキングな内容が含まれます。ご注意下さい。



 見つけた地下への階段を下りていく。

 ここまでくると、階下からゴブリンらしき声と、女性のものらしき啜り泣きが、俺の耳にも聞こえてくる。

 ちらりと周囲の様子を確認すると、甲冑で顔は見えないけど、ほとんどの人たちから気炎が上がっているように見えた。

 これは俺の出番はなさそうだなと、こっそりと隊列の後ろに移動する。

 階段を折りきると、目の前に広がったのは、鉄格子だらけの空間――つまり牢屋だった。

 真ん中に二人が並んで歩ける程度の通路が一直線にあり、道の左右に一定間隔に壁で区切られた牢屋が続いている。

 牢屋の鍵は開け放たれていて、中に手足を鎖でつながれた裸の女性が、二人から三人ずつ入れられているようだ。

 ゴブリンたちも中にいて、お腹が膨らんでいるいないに関わらず、女性たちにのしかかって腰を振っている。

 そんな痛ましい光景を目にして、バークリステを始めとする、元・聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス組の人たちの行動は素早かった。

 手近な牢屋に数人ずつ入ると、手に持った武器で、女性に夢中なゴブリンたちの後頭部を叩き割っていく。

 そして、死体と化したゴブリンを蹴り飛ばし、女性たちを助け起こす。

 俺たちの格好が聖大神教兵団のものだからか、助けられた人たちは地獄に仏を見たように、感極まった泣き顔になっている。


「ありがとうございます。ありがとうございます」


 口々にお礼を言いはじめるが、バークリステたちは黙って助けた女性のお腹を撫でていく。

 なにをしているのかと見ていると、バークリステがとある女性に尋ねる声が聞こえてきた。


「貴女は、ゴブリンの子を、妊娠しているようです。堕胎を望みますか?」

「はい、おねがします! もう、ゴブリンなんて、産みたくない!!」


 悲痛な叫び声にバークリステは頷くと、お腹に手を当てながら呪文を唱え始めた。


「我が信じる神よ。この者の病を、体外へと取り除きたまえ」


 病気を癒す呪文が完成し、光の円が足元に広がった。

 すると、妊娠しているとバークリステが判断した女性が、急に苦しみだす。


「いうぐぐっ。あああ゛ーーーー!!」


 大きな悲鳴の後で、大きく開いた股から、縄がついた毛のないヒヨコみたいなものが、三匹出てきた。

 いや、たぶんあれ、未成熟なゴブリンの胎児と、臍の緒だろうな。

 というか、病気を癒す魔法を妊婦に使うと、なんで堕胎できるんだ?

 もしかして、この世界だと胎児は、病原菌――というか寄生生物の扱いなのか?

 理由を考えている間に、バークリステは臍の緒をきつく縛って先への血流を止めて、ゴブリンの未熟児を踏み潰していた。

 うわっ、容赦ないな。

 引き気味な俺とは違い、バークリステと同じことを、子供たちも行っていく。

 随分と手馴れているし、汚れ仕事を任せられていたと言っていたし、似たようなことをやったことがあるのかな。

 そんな俺の疑念は余所に、ゴブリンに孕まされた女性たちは、その行いに感謝して涙する。


「この境遇に落とされて、神を呪ったのに、こうして助けてくださるなんて」

「ああ。これで、悪夢が終わるのね……」


 やっぱり俺達のことを、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒と勘違いしているや。

 でも、訂正はしない。

 今後、この奴隷商を糾弾するのに、その勘違いが利用できるしね。

 とりあえず、階段近くの牢にいたゴブリンは殺し、女性は助け終えた。

 次に向かおうとすると、騒ぎを聞きつけたらしきゴブリンたちが、通路で待ち構えていた。

 生まれたばかりに見える、幼なそうな個体も含めて、おおよそ三十匹いる。

 通路の奥からまだまだやってくるのを見ると、最終的に五十匹を超えて、百匹ぐらい出てきそうな感じだ。

 しかし、義憤に燃えるバークリステたちは、ゴブリンたちの姿を見ると、一層の気炎を体から立ち上らせた。

 俺が戦闘指示するより先に、バークリステが言葉を発する。


「マゥタクワ、突進して蹴散らしなさい。次にマッビシューとラットラは斬り込んでいきなさい。他の人は打ち漏らしを片付けつつ、牢につながれた人たちを保護しますよ」

「「「はい!」」」


 子供たちが元気よく返事をして、集まったゴブリンたちを蹴散らしていく。

 大剣で斬り潰し、大斧で頭をかち割り、片手剣で胸を抉る。

 倒れたゴブリンは、息があるのもないのも含めて、駄目押しで何度も刃で刺し貫く。

 ……うん。やる気になっているのはいいことだよね。

 危なげなく圧倒しているし、俺が戦う出番はなさそうだなぁ。

 なので、バークリステ立ちに補助魔法をかけることにした。


「我が信奉する神よ、我れと従者たちの鎧により多くの堅固さを与えたまえ」


 味方がきている鎧の防御力を、より増す範囲魔法を発動。

 足元に広がった光る円から出てきた光の粒子が、バークリステの鎧に入り込み、ほんのりとした光を鎧が発し始める。

 これで、ゴブリンの歯や爪程度なら、鎧に傷一つつけられなくなった。

 安心して暢気に構えていると、通路の最奥に強そうなゴブリンが集まっているのが見えた。

 数は十五匹ほど。

 あの町の地下室で倒したゴブリンと同じように、刃物で武装しているゴブリンが大半を占めている。

 けど、三匹ほど曲がった木の杖を持った個体がいる。

 その中の一匹は他のゴブリンより位が高いのか、羽や歯、そして人の頭蓋骨を加工した装飾を、身につけていた。

 きっと、あの装飾過多なゴブリンは、司祭チャプレンに位階を上げた神官だろう。

 あの個体をはじめとした、強そうなゴブリンたちの存在を、戦っているバークリステたちが気がついているのかと見回す。

 どうやら心配は杞憂だったようで、ちゃんと注意を払いながら、幼いゴブリンたちを斬り伏せていく。

 装飾過剰なゴブリンはそれを見て、援護する気なのか、手の杖を振り上げる。

 すると、ゴブリン側の足元に黒い円が生まれる。

 どんな魔法か警戒すると、俺の隣にいるエヴァレットが、自慢の耳の良さを生かして、どんな呪文を唱えていたか教えてくれた。


「爪や刃を鋭くする、という文言が聞こえました」

「ということは、どうやら身体の攻撃力を上げる魔法ですね。そして補助魔法がかかるということは、バークリステたちが戦っている個体は、業喰の神の加護である食べ物による強化は得ていないということになりますね」


 こちら側を弱体化させるものじゃないと知り、安堵する。

 けど、その判断は少し間違っていた。

 よく見てみると、黒い円から出てきた黒い粒は、幼いゴブリンたちの大半に入り込めていない。

 その上、重ねがけは出来ない仕様なのに、装飾過多ゴブリンは何度も何度も、同じ補助魔法を展開する。

 どうやら、補助魔法の仕組みを、あのゴブリンは理解していないようだ。

 それは、仕組みを知らないだけなのか、それとも理解する知能がないからなのだろうか。

 どちらにせよ、直接戦闘しなきゃいけない相手の頭が悪いのは、こちらにとってはいい材料だ。

 俺がそうして、強そうなゴブリンたちの力量を推し量っていると、バークリステと子供たちは幼ゴブリンの群れを倒し終えたようだ。

 子供を殺されて怒るかと思いきや、奥に控えていたゴブリンたちは、ゆっくりと身構え始めた。


「ギヘギガガー」

「ギヒギヒガガ」


 退屈な観戦が終わって、ようやく自分たちの出番になった、そう言いたげにニヤニヤと笑っている。

 その仲間の死に痛痒を感じていない態度に、バークリステから鎧を超えるほどの怒気が出てきたように見えた。

 生まれてから聖なる神の下で暮らしてきたから、正義を信じて義憤に燃えるのは分かる。

 けど、怒りに任せて戦っていいような、楽な相手じゃないはずだ。

 なんていったって、バークリステよりも、あのゴブリンたちの方が職業位階が高い可能性があるんだしね。

 なので、俺は彼女の肩を掴んで揺すり、正気を取り戻させる。


「……失礼しました。冷静さを欠いていたようです」

「構いませんよ。けど、怪我なく着実に倒すよう、心がけましょうね」


 ここからはバトンタッチして、俺が戦いを主導することにしよう。

 前に出るのは、ここまで戦い控えて体力が有り余っている、俺とエヴァレット、そしてスカリシアだ。

 バークリステと子供たちは、義憤に駆られて戦っていたからか、多少疲れている様子。

 だから、牢の中にいる女性を助けるのに専念してもらうことにした。

 俺はいつもの通りに、隠し刃のある杖を構える。

 エヴァレットは大振りのナイフを抜き、スカリシアは俺が渡したフロイドワールド・オンラインの店売り刺突剣レイピアを構える。

 俺達の武器が、杖、ナイフ、細身の剣だからか、鉈に近い刃物を持つゴブリンたちから失笑が漏れた。


「ギャガガガッ。リッパ、ヨロイダケ。ブキ、ヨワイ!」


 舐めきった態度で、ゴブリンの一人がこちらに走り寄ってきた。

 刃物を肩に乗せ、片腕と両足を使う、業喰ゴブリン独特の走り方だ。

 けど、その動きはあの町の地下室で見た。

 俺を含め、エヴァレットとスカリシアは冷静に、兜越しにその動きを目で追っていく。

 それを対応し切れていないと勘違いしたのか、近寄ってきたゴブリンが勝ち誇った鳴き声と共に武器を振り下ろしてきた。


「ギャガガガッ!!」

「――はあっ!」


 しかし、目で追いきっていたスカリシアが先に、刺突剣をゴブリンの肩口に刺し入れていた。


「ギィ――グギガ!!」


 ゴブリンは驚いたように、慌てて後ろに跳び退く。

 けど、肩の斬り傷が大した怪我でないと知ると、見せ付けるかのように出血を手で拭い、舌で自分の血を舐め取って見せてきた。


「ギヒ、ヒギガ――ガッガガガガッガガ!!」


 けど、余裕ぶった態度は、いきなり始まった全身の痙攣で消え去る。

 肩を怪我したゴブリンは、わけが分からないといった表情のまま、口から泡を吹いて倒れた。

 地面に倒れても痙攣しっぱなしのその姿に、他の刃物や杖を持つゴブリンたちが警戒する。

 でも、ゴブリンが卒倒した理由を知っているため、俺たちは平然としたままだ。

 だって、エヴァレットとスカリシアの武器の刃には、フィマル草の暗殺軟膏をたっぷりと塗ってあるんだから。

 暗殺軟膏の効能は、いまさっき披露した通り。どこにでも当たれば、一撃で致死量に達して戦闘不能になる。

 どうせ生かしておくのは、話が聞けそうな、一番偉そうな装飾ゴブリンだけだ。

 その他のゴブリンは殺してしまっていい。

 なら、より安全で楽な方法を取るのは、当然だよな。

 しかしながら、こんな戦闘が楽になる毒薬が、フロイドワールド・オンラインにもあって欲しかったな。

 まあ、バランスブレーカーにもほどがあるから、実用されるはずがないに決まっているけどね。

 それはさておき、先ほどの余裕はどこへ行ったのか、ゴブリンたちは恐怖で固まっているようだ。

 なら、こちらから行動しないといけないだろう。

 そう。魔法で防御力を上げた金属鎧をつけ、一撃致死の武器を手にしている、俺たちから襲いかかろう。

 刃を防げる防具を着ずに、武器だけ持っているゴブリンたちは、一撃で致死に達する毒の刃に、どう対処するんだろうな。

 ふふふっ。

 さあ、業喰の神を信じるゴブリンたちよ、無理ゲーという概念を、この地下牢で味わうがいい。


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[一言] なので、バークリステ立ちに補助魔法をかけることにした。 立ち>達
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