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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
四章 あくどく布教編
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九十四話 業喰のゴブリンと戦いになりました

 ゴブリンの姿に俺が驚いていると、地下室の奥から新たな影が三つ現れた。

 目を凝らして見ると、二つは鉈のような武器を持ったゴブリンたちで、一つは首に枷をした奴隷風の男性だった。

 その男性が、俺たちに向かって言い放つ。


「その格好。オマエら、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの審問官か!?」


 違うと返答はせずに、俺は合計三匹のゴブリンたちに目を向ける。

 幸い、と言っていいかは分からないが、俺が知るゴブリンはいなさそうだ。

 もっとも、ゴブリンを見た目で完璧に区別することは、俺には無理なので、知らない感じがするって程度だけど。

 そうやって観察していると、奴隷風の男に、隣にいるゴブリンの一匹が蹴りを入れた。


「ギガガッ。アイツラ、タタカウ、タオス。ダガ、オマエ、イナクナル、コマル。サガレ」

「は、はい。下がらせてもらいます!!」


 ゴブリンの片言の言葉に従って、奴隷風の男は地下室の奥へと走っていった。

 どうやら上下関係は、ゴブリンの方が上のようだ。

 ということは、邪神を崇めているのは、このゴブリンたちということになりそうだ。

 つまりそれは、あることを意味していた。


「……トランジェさま。もしや」

「ええ。私が信徒化したゴブリンによって、あの者たちも信徒になり、恐らく神官職を得ているのでしょうね」


 エヴァレットの疑問に答えるように、俺は小声で返した。

 そして、俺はあのゴブリンたちが、何の神を崇めているかにも予想がついた。

 俺がゴブリンに伝えたのは、賎属の神、業喰の神、蛮種の神、そして自由の神だ。

 その中で、ゴブリンだけでなく信徒化した人間まで、人肉を好んで食べるような悪食は、業喰の神でしかあり得ないからだ。

 俺の予想を補強するように、三匹のゴブリンたちは床に撃ち捨てられていた人の死体に取り付く。

 そして武器で切り分けながら、食べ始めた。

 しかし、前線のマッビシューたちは、襲いかかってくる人たちの制圧を優先しているため、その行為を止めには入れない。

 バークリステたちも、その援護で無理だ。

 さらに後ろに入る俺では、動き回る人たちが邪魔で、魔法を放つための射線が取れない。

 そうして手をこまねいているうちに、ゴブリンたちは死体を食べ、血で汚れた口の周りを手で拭った。

 フェイスペイントのように、顔に赤い色が広がる。


「キガガガッ。チカラ、チカラ!!」

「カミヨ、チカラ、カンシャ!!」

「ニンゲン、ヒンジャク! コレデ、マケナイ!!」


 ゴブリンたちが言葉を発すると、その体が薄っすらと光りだした。

 チッ。業喰の神の信徒特有の、飲食による補助効果パフか。

 人肉なんて、フロイドワールド・オンラインのアイテムにはなかったから、どんな効果があるんだかわからないな。


「みんな、あのゴブリンたちを警戒してください。恐らくかなり手強いですよ!」


 俺は全員に注意を促しながら、こちらも仲間たちに補助効果をかけるべく、魔法の準備を始める。


「我が信奉する自由の神よ、我れと仲間たちの衣服に堅固さと俊敏さを与えたまえ」


 俺を中心に光の輪が足元に広がり、そこから出てきた光の粒が、全員の衣服に入り込む。

 みんなの防御力と素早さに補正が入った。

 これで、ゴブリンたちに遅れを取ることはなくなったはずだ。

 けど、邪神の信徒との戦いを任せるには心配なので、俺はマッビシューとラットラが立つ前線まで上がることにした。

 すると、全員に驚かれてしまった。


「トランジェさま、危険です。お下がりを!」

「そうだぜ。戦いなら、オレらに任せてくれればいいんだ」


 エヴァレットとマッビシューの言葉に、俺はうさんくさい笑顔を向けることにした。


「私の職は、戦司教ですよ。前線で戦うことも、本職の一つでもあるんですよ」


 俺は手の杖を構えると、襲い掛かってくる人間たちを打ち据える。

 ゲームキャラであるトランジェの強靭な肉体による力で、一気に襲撃者たちを吹っ飛ばし、壁に叩きつけて失神させた。

 当たり所が悪ければ死んだかもしれないけど、今はゴブリンたちに注意を向けるほうが優先だ。


「ギガガッ。ヤルナ、ニンゲン」

「ダガ、ソイツラヨリ、オレタチ、ツヨイ!」

「タオス、ソシテ、クウ!!」


 三匹のゴブリンたちは、片手に持った鉈のような刃物を肩に乗せると、もう片方の手を地面につける。

 そして、両足とその片手で床を走り、こちらに襲い掛かってきた。

 三匹とも狙いは、俺だ。


「「「ギギギガガガガガーー!!」」」


 一匹は俺の頭を、残り二匹は脚を狙うという、三位一体の攻撃だ。

 フロイドワールド・オンラインのゴブリンより、いい動きじゃないか!

 俺は少し驚きながら、頭を腕で防御しつつ、杖を足元にきた二匹に向かって振り回した。


「ギギガ――」「グギガ――」


 杖に衝撃が二度走り、足元のゴブリンたちが吹っ飛ぶ。

 しかしその間に、もう一匹のゴブリンが俺へ目掛けて、手の刃物を振り下ろしてきた。


「ギギガガガガー!!」

「――ぐッう」


 ガツッと音がして、防御した腕に痺れが走った。

 続いて焼けるような痛みもだ。

 俺は杖を振って、ゴブリンを追い散らす。

 そして、防御に使った腕に視線を向ける。

 今までは、どんな武器にも、補助効果をつけたローブは切られることはなかった。

 けどあのゴブリンに、業喰の神の信徒特有の、食事による補助がかかっていたからか、袖が斬られてしまっていた。

 そして、その下にあった俺の腕も、傷口から骨が少し見える程度まで傷つけられてしまっている。

 クソッ、予想に反して、結構な攻撃力だな。

 俺は心の中で悪態を吐きながら、怪我は治さずに、杖を両手で持ち直した。

 そして、俺の怪我に前に出ようとする、マッビッシューとラットラに声をかける。


「二人とも、注意してください。そして、一人一匹引き付けてくれれば、後は私が何とかします」

「怪我してるのになんとかって――まあ、いいさ。アンタのことだから、考えがあるんだろ」

「なんだか、今までに会った魔物よりも厄介そうだし、一匹だけ相手にすればいいなら気が楽になるなー」


 二人が返答をしている間に、三匹のゴブリンたちは体勢を整え終えていた。

 そして、再びこちらに襲い掛かってきた。

 怪我をしているからか、狙いはまたもや俺だ。


「「「ギギギガガガガガアー!」」」

「オレを、無視するなーー!!」

「うにぃあああああああああ!」


 しかし、事前に伝えていた通りに、マッビシューとラットラが突進して、一匹ずつ迎撃してくれた。

 これで、俺が相手にするのは、こちらに跳びかかりながら刃物を振り上げている一匹だけだ。


「自由の神よ、この剣に私を害しようとする他教徒を、排する力と速度を!」


 早口で呪文をまくし立てながら、俺は杖にある隠し刃を引き抜き始める。

 完成した魔法により、この抜刀は目にも止まらない速さを生む。

 そして、漫画の一シーンにあるような、高速の抜き打ちが、跳びかかってきたゴブリンに決まった。


「ギギガガ――」


 胴体の真ん中から上下に分かれたゴブリンは、細縄をかけて床に転がしていた人たちの上に落ちた。

 臓物や血が分かれた体から広がると、業喰の神の信徒と化した人たちが、理性を失った顔でそれらを食べ啜り始める。

 フロイドワールド・オンラインにあった設定通りとはいえ、目の当たりにしてしまうと、かなりドン引きなんだけど……。

 気持ちの悪い光景に目を逸らすように、俺はマッビッシューたちの戦いに目を向ける。

 すると、力持ちのマッビシューは大丈夫そうだけど、変態獣ライカンスロープのラットラが力負けして覆いかぶさられていた。


「いま助けに行きます!」

「早くして欲しいー」


 俺は杖で、ラットラを噛もうとしていたゴブリンの胴体を殴り飛ばす。

 そして体が離れたところを、抜いたままの隠し刃で斬り捨てた。


「ギギギガガガグ――」

「ギガ、ギガガ!!」


 最後の一匹になったゴブリンは、仲間が死んだのを知ると、マッビシューを蹴り剥がして、大きく飛び退いた。

 そして、俺たちに適わないと悟った顔で、手にある刃物を逆手に構える。

 切っ先は、ゴブリン自身の喉元に向けられていた。


「まずい、手がかりが!!」


 業喰の神の信徒となったゴブリンが、三匹だけのはずがない。

 そして、人間の領域にこうして入り込んでいるのを見ると、他の町にも業喰の神を祭るゴブリンが入り込んでいる可能性がある。

 その情報源が、自分から命を断とうとしているなんて!

 大慌てで止めに入ろうとするが、後少しというところで、ゴブリンは自分の喉を刃物で突き刺し終えていた。


「ギガガ――」


 焦る俺の表情を見て、ゴブリンは満足そうな顔で床に倒れこんだ。

 だが、喉を裂いただけなら、まだ回復魔法が間に合うかもしれない。


「自由の神よ、困難を戦い抜き、絶望することなく敢闘せし者に、最大級の癒しと身を蝕む物の除外をこいねがう」


 単体限定最上級回復魔法リミテッドグレイトヒールを、首から血を流すゴブリンにかける。

 現れた光る円から、光の粒が大量に立ち上る。

 しかし、ゴブリンの体や傷口に入ろうとして、弾き飛ばされてしまった。

 あ、そうだった。

 業喰の神の信徒は、飲食物で補助効果を得ている間は、回復魔法を受け付けないんだった。

 これじゃあ、このゴブリンを治す方法はない。

 俺が他の神の神官だったら、死体に甦生魔法をかけることが出来たかもしれないが、自由神の神官は甦生魔法は使えない。

 万策尽きて、手がかりを失うのを見ているしかなかった。


「ひ、ひいぃ! ま、まさか、ゴブリンさまが、やられるなんて!!」


 ――いや、手がかりは残っていたな。

 俺はうさんくさい微笑みを浮かべながら、地下室の奥から様子を身に戻ってきたらしき、あの奴隷風の男を見やったのだった。

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