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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
四章 あくどく布教編
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九十三話 怪しげな場所を見てみましょう

 残酷描写があります。

 気分が悪くなる人もいるかもしれないので、注意してください。


 建物の中に入ると、なにか変な臭いがしてきた。

 古くなった肉の塊が腐りかけて臭ってきたあんな感じを、もっと濃密にした感じだ。

 なんの臭いなのかと考えていると、リットフィリアから小声がきた。


「これ、大量の生肉の臭い。けど、あまり美味しそうじゃない」


 生肉ってことは、この建物は肉屋の肉置き場か何かなのか?

 そんな疑問はありながらも、俺たちは建物の中を進んでいく。

 大して部屋数はないので、あっさりと一階部分を調べ終わる。

 この建物は住居ではいみたいで、ベッドどころか台所もなかった。

 そして不思議なことに、入るのに物音を立てたのに、誰も来る気配はない。

 邪神教の教徒たちがきたら、一撃加えて捕縛することで、こっちを優位にしようという目論見だったのになあ。

 さて、一階の端の部屋に地下へ続く怪しげな階段を発見したけど、先に二階を見回って、誰かいないかを確認することにした。

 二階は寝泊りする場所のようで、いくつかある部屋の中には毛布や、食べ物の残骸などが散乱している。

 けど、ここにも誰もいない。

 ならと、一階に戻り、地下への階段を下りていく。

 進むにつれて、リットフィリアが生肉の臭いと称した臭いが、さらに濃くなってきた。

 階段を降りきる前に、一度進みを止める。

 そして、エヴァレットとスカリシアの聴力で、この先がどうなっているのかを聞いてもらうことにした。


「……なにかを食べているようです。しかし、煮炊きする音はありません」

「咀嚼音から、生のまま食べているようですね」


 生のままと聞いて、思わずリットフィリアに目を向けてしまう。

 彼女は先祖帰りで、生肉を好む種族である半不死人デミデッドになっている。

 もしかしたら、リットフィリアと同族が、この地下に隠れ住んでいるのかもしれない。

 けど、リットフィリアの様子を見ると、なにやら嫌悪するかのような顔を、階段の先に向けている。


「どうかしましたか?」


 そう尋ねると、リットフィリアは嫌そうな顔のままで答えてくれた。


「この先にいるの、人食いみたい。それと、大姉さまに感じる意識は、この先には感じない」

「それは臭いで、分かったんですか?」

「うん。酷く不味そうな肉の臭いがするの。これを好んで食べているから、きっと半不死人と違う種族」


 俺が考えていたことを否定する言葉に、この先にいる種族はなんなのかと首を傾げる。

 ……いや、ここまできたら、考えるよりも確かめるほうが早いな。

 俺は身振りで指示して、全員で階段を静かに下りていく。

 階段の先にある扉のない部屋。その中が少し見えてきたところで、先頭のマッビシューとラットラに突撃の合図を出した。


「でええああああああああ!」

「んなあああああああああ!」


 二人は雄叫びを上げながら、階段を駆け下り、部屋に入っていった。

 俺たちはそれを追いかけ、階段を降りきった先で隊列を整える。

 俺は状況確認も含めて、この中を見回す。

 どうやら、赤煉瓦で作られた地下室のようだ。

 壁にある油が入った小皿に、火が灯っているが、薄暗い。

 天井の高さは二メートルあるかないか。

 広さは体育館ほどで、地上にある建物の面積より広い。たぶん隣の建物の下まで、この地下室は食い込んでいるな。

 マッビシューとラットラが杖に似せた鉄棒で殴っている相手は、首に奴隷の枷をつけた人間の十人ほどの男女。


「ぐあああああああ!」

「ぎいええええええ!」


 彼らは正気を失った表情で、マッビシューとラットラに襲い掛かってくる。

 俺はアーラィに二人の救援を、バークリステとリットフィリアに魔法援護の支持をする。


「いきます!」

「自由の神よ、わたくしの目前にいる敵を打つ力を」

「自由の神、目前にいる敵を打ちたい」


 三人が攻撃に加わったことで、一気に形勢はこっちに傾いた。

 これで心配はないと安心する。

 そして、奴隷らしき男女の口元が、真っ赤になっていることに気がつく。

 何を食べていたのかと、彼らがいた場所の地面に、視線を向ける。

 そこには、屠殺された豚のように腹を開かれ、内臓を外に出され、手足の肉に歯形がついた、人の死体。

 殺したばかりなのか、裂かれた腹から湯気が立っているのようにすら見える。

 リットフィリアが人食いと称していたように、確かにここにいる人たちは、人を食っていたようだ。

 食われかけた死体を見て、俺は怒りも悲しみも湧いてこなかった。

 代わりに、少しの気持ち悪さを感じた。

 きっとこれは、理解しがたい物を見たときに感じる類の、気持ち悪さだ。

 そのことに、この世界に染まってきたなと、自分自身を笑ってしまう。

 さてさて、戦いはどうなっているのかなと顔を向ける。

 マッビシューとラットラが打ち倒した人たちを、アーラィがローブの内側から取り出したらしき細縄で拘束していく。

 そうやって、大半を既に制圧している。

 けど、残っている人たちの戦闘意欲は衰えていない。

 バークリステとリットフィリアの誅打の魔法に、自分から当たりに来ながら、マッビシューかラットラのどちらかに襲い掛かっていく。


「がああああああああ!」

「でえあああああああ!」


 マッビシューは鉄杖を振るって打ち倒し、アーラィがすかさず拘束していく。

 けど、マッビシューの攻撃で腕が折れているのに、その人は暴れることをやめない。

 明らかに、正気を失った狂戦士バーサク状態だ。

 こんな様子になるからには、やっぱりこの地下室の中に、本物の邪神を祭る神官がいるに違いない。

 でも、目の前にいる正気を失った男女は、神官とは違うはずだ。

 ならどこにいるのかと、地下室の先に視線を向けると、こちらに素早く走り寄ってくる影が見えた。

 その影は、争っているマッビシューたちを飛び越え、後衛の俺たちに襲いかかろうとしてくる


「我が神よ、目前の敵を打て!」

 

 咄嗟に早口で呪文をまくし立て、誅打の魔法を発動し、その影に光る球を撃ち当てる。

 光の球に刎ね飛ばされたその影は、空中で一回転すると、足から地面に着地した。


「ギギャギギィ!!」


 人間とは違った声に、俺はハッとしながら、壁の行灯の光に浮かび上がるその影の正体を見つめる。

 手に大振りな包丁を持つ、子供のような背丈の二本足で立つ生き物。

 緑色の肌、低い鼻、先が尖った歯、少し大きい耳、そして猫背。

 見た事のあるその姿に、思わず声が出た。


「ゴブリン!?」


 そう。いま俺の目の前にいるのは、前に森で会ったゴブリンと、同じ姿をしていた。

 

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