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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
四章 あくどく布教編
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九十二話 どうやら見つけてしまったようです

 エヴァレットとスカリシアの聴力を生かしての、邪神教のあぶり出しを昼過ぎから始めることにした。

 人が動くこの時間帯に、奴隷が消える事が多いためだ。

 事前に話してあったとおりに、全員で二台の馬車に分乗して、この町の中を巡っていく。

 ちなみに、いま俺と一緒の馬車に乗っているのは、エヴァレットだ。

 彼女は、書類上で俺の奴隷なので、別々よりも一緒にいる方がいいという判断をした。

 俺と同乗を希望していたスカリシアにそう説明すると、少し不満そうだったけど、納得はしてくれた。


 なにはともあれ、馬車に乗って町の中をゆっくりと巡っていく。

 頼りはエヴァレットとスカリシアの耳なので、同乗する俺たちは無駄なお喋りは控えて、周囲の観察をする。

 というか、それ以外にやることがない。

 でも、そうやってゆっくりと町中を観察していくと、なんとなく聖都ジャイティスと似た町並みだと気がついた。

 都市への憧れから、町並みを似せた可能性があるかもしれないな。

 けど、聖都ジャイティスと建物は似ていても、歩いている人たちの見た目は大きく違っている。

 多くの人は郊外での農作業がしやすそうな服を着ているし、やけに奴隷を表す首輪をつけた人物が多い。

 奴隷商は、孤児や浮浪者を捕まえて奴隷にすることもあると聞いている。

 となると、聖都ジャイティスにあるであろう貧民街で捕まえられ、奴隷に落とされた人たちなんだろう。

 そして、距離が近くて奴隷の数が入ってくるだろうから、どんな家庭の人たちでも買って使うのかもしれないな。

 この町は世界の仕組みの悪しき一端を表しているのかも、なんて愁傷なことを考えてみたりする。

 ま、奴隷の人たちの表情を見ると、虐げられている風ではないので、俺が『悪しき』なんて断罪するのはおかしいのだけどね。

 そんな事をつらつらと考えて、奴隷が消える事件が起きるまでの暇つぶしを続ける。

 

 二時間ほどが経過したが、なんの手がかりもない。

 というのも、奴隷が消える事件がまだ発生していないようなのだ。

 今日は、邪神教の人たちの犯行はないかな。

 そんな諦める気持ちでいたところ、急にエヴァレットの耳がピクピクと動き始めた。


「奴隷が消える事件が起きましたか?」


 思わずそう尋ねると、エヴァレットは首を横に振った。


「いえ、人や家畜の足音とは違う音が聞こえただけです。ですが、少し変ではあります」

「変とは、何がですか?」

「それが、その足音の横に、人間の足音が続いています。つまり、人と何かが一緒に行動しているようなのです」


 エヴァレットの報告に、俺は額を押さえた。

 人間が犯人だと決め付けていたけど、人が獣を使っての犯行という線もあったか。

 けど、奴隷が忽然と消えるからには、ひと飲みにできるような獣を使う必要がある。

 それほど大きな獣を持つ人がこの町にいたら、真っ先に疑われるはずだ。

 だけどそんな話、噂でも聞いたことがない。

 どういうことだろうと思っていると、エヴァレットの新たな報告がきた。


「どうやら、先ほどの足音の人の方が、一人で歩いていた奴隷に接触したようです。声を潜めているので聞き取り難いですが、奴隷から開放される決心がついたかと聞いているようです」


 さっきの予想とは、まるっきり違った展開に驚いた。


「人間の方? もう一つの足音は?」

「どうやら、物陰に潜んでいるようですね。先ほどの人と奴隷が、その物陰の方に歩いていきます」

「……疑問は残りますが、折角掴んだ手がかりです。その方向へ行きましょう」


 馬車を動かし直して、エヴァレットが指示する方向へと走らせていく。

 町中なので、あまり高速移動は出来ないため、すぐには到着できない。

 だから、エヴァレットに状況を逐一教えるように頼んだ。


「いま、どうなっていますか?」

「物陰に隠してあった箱か樽に、奴隷の人が入ったようです。それを持って、移動を始めました」


 なるほど。

 あらかじめ奴隷に話を通しておいた上に、町の中に消えるように見える仕込みを、あらかじめしていたわけか。

 しかし、空き箱や空き樽に人を隠して、それを持って運ぶなんて、想像してなかった。

 人が入った樽の総重量は、最低でも五十キログラムはあるだろう。

 それを抱えて運ぶ腕力がある人がいるなんて、俺は想像もしなかった。

 けどこれは、元の世界の常識に目を曇らせていたためだと、遅まきながらに気がついた。

 そしてフロイドワールド・オンラインでの、町にある設置物は固定されているものが多いという、変な先入観をこちらの世界に適応していたことも。

 いま冷静になって考えれば、力持ちのマッビシューなら、五十キロぐらいの荷物なんて楽に運搬できそうだと分かる。

 それに神の力が使えるのなら、腕力を向上させる魔法を使えばいいしね。

 まだまだ思考の仕方に抜けがあるなと反省しつつ、そのことに気がついたのが決定的な場面でないことに安堵もする。

 

「それで、奴隷を隠した箱だか樽だかを持った人は、どこに向かっていますか?」

「先ほどの別の足音のモノと合流して、路地裏を進んでいます。えっと、商店が立ち並ぶ辺りに向かっているようです」


 この町の商店街に?

 なんでそんな場所に向かうのかと不思議に思いながらも、馬車を走らせていく。

 そして、商店街についたのだけど――


「この中へ馬車の立ち入りは禁止だよ。入りたかったら、馬車をどこかに置いてきな」


 ――って、商店街の入り口で、見知らぬ婆さんに怒られてしまった。

 仕方なく、俺とエヴァレットは商店街から少しだけ離れた場所で、フードを目深に被ってから馬車を降りることにした。

 そして同乗していた子供たちに馬車を運転を任せつつ、バークリステたちにこの場所を伝えるようにと頼んだ。

 去る馬車を見送ってから、俺とエヴァレットは、人一人が通れるぐらいの商店街の裏通りを進んでいく。


「エヴァレット。さっきの人が、どこに行ったか分かってますか?」

「はい、もちろんです。ここまで接近できれば、漏れ伝わってくる声を捕らえることは容易ですから」


 頼もしい言葉に、俺はエヴァレットの頭を優しく撫でることで褒めてやった。

 エヴァレットは頬を少し赤くして、長い耳がピコピコと嬉しげに揺れる動きが、彼女が被っているフード越しに見えた。

 俺たちは裏路地を隠れ進み、エヴァレットがこの建物だという場所で、バークリステたちを待つことにした。

 それは、エヴァレットからある報告を受けたからだ。


「この中に、かなり多くの存在が音を立てています。数は詳しくは分かりませんが、少なくとも十人はいるでしょう」

「それが連れ去った奴隷ではなく、邪神教の信者の数だと仮定すると、私たち二人では梃子摺るかもしれませんね」


 倒すだけでも、この中にいる人たちが本物の邪神の信者だと考えると、侮っていい相手じゃない。

 戯飾の神の信徒となったばかりのダークエルフが、レッサースケルトンを倒しているんだ。

 奴隷を生け贄に捧げて、位階を上げた人がいた場合、実力が跳ね上がっている可能性もある。

 死んだら終わりかもしれないのだから、ここは慎重に行動するべきだと判断した。

 だが、こうして待機している間にも、建物内の状況は動いていく。

 布か何かで無理矢理小さくされた悲鳴が、中から薄っすらと聞こえてきたのだ。


「どうやら、先ほど連れてこられた奴隷が何かの儀式を拒否したことで、殺されてしまったようです」

「これで、ここにいる邪神教の信者たちは、少なくとも生け贄を捧げていることは、間違いがなくなったようですね」


 少しの間だけ、顔も知らない奴隷の冥福を祈ることにした。




 建物内から悲鳴が聞こえてから小一時間ほど待って、ようやくバークリステ、リットフィリア、スカリシアがきた。

 その後ろには、戦闘向きの子供たち――力持ちの半戦鬼ハーフオーガのマッビシュー 大柄な小巨人ミニジャイアントのマゥタクワ、二対の腕を持つ多腕種デプリカントのアーラィ、そして変身で力が増す変態獣ライカンスロープの獣人少女ラットラがいた。

 全員、神官が手にしてもおかしくはない、杖に似せた打撃武器を手にして、押し入る準備は出来ているようだった。

 その頼もしい姿を見やりながら、俺は疑問を口にする。


「他の子たちは、宿ですか?」

「逃げるにしても捕虜を取るにしても、馬車は必要だろ。ここの近くに停めて、その中で待機してるよ」


 マッビシューの返答に、よく考えていると感心したくなった。

 その頼もしさを、押し入るときにも使わせてもらおうっと。


「では、この中に入るときの隊列を発表します」


 先頭はマッビシューとラットラの、力が強い二人に任せた。

 その後ろに、四本の腕で厚く色々な対応が可能なアーラィ、そして魔法の援護にバークリステとリットフィリア。

 俺とエヴァレットとバークリステは、そのさらに後ろ。

 最後尾はマゥタクワだ。

 この配列に、マッビシューが異議を唱えた。


「先頭は、オレとマゥタクワでいいだろ。道中で魔物や野生動物と戦うときは、俺たち組んでいたし」

「そのとおりだなー。マゥタクワが広く攻撃して、マッビシューが一つ一つ倒す。いつも、そうやっていたぞー」


 マゥタクワも不満そうに言ってきた。

 二人の意見は、まさしくその通り。

 俺たちの仲間で、この二人を組ませると、なかなかな打撃力がある。

 ただし、それは広い場所での話だ。


「いいですか二人とも。この建物を見てください。入り口からしても、マゥタクワには少し天井が低いです。そんな狭い場所で、マゥタクワが得意な広範囲を力任せになぎ払う戦法が使えますか? この狭い中で戦うなら、俊敏さに優れたラットラが適役ではありませんか?」


 俺が諭すように言うと、褒められたと勘違いしたラットラが胸を張りだす。


「ふふん。近い距離での素早い戦いなら、あたいが適任だろうに。それはマッビシューだって分かってんだろうにさ」

「ムッ。それは、そうかもしれないけどよお。なにも、マゥタクワを戦わせないように、最後尾にしなくたって……」


 どうやら、マッビシューとマゥタクワは、道中の戦闘で組ませていたから、親友同士のような間柄になっていたようだ。

 そう気がつくと、こちらに抗議してきた気持ちが分かったので、フォローを入れておくことにした。


「なにも、マゥタクワを戦わせたくなくて、最後尾に配置したのではないのですよ。もしも、この建物から撤退することになった場合、逆に彼が先頭となって、私たちを外まで安全に連れ出す役を担ってもらう気なんですから」


 マッビシューとマゥタクワは、理解が追いつかないという顔をすると、二人して地面を指で突付いて何かの確認を始めた。

 たぶん、建物に入る配置と撤退するときの配置を、別々に並び替えているんだろうな。

 少しして、俺の言ったことが理解できたのか、二人とも晴れやかな顔になった。


「なんだ、そういうことなら、最初に言っておいてくれよ。つまり、逃げ帰るときには、マゥタクワの力が必要ってことだろ」

「ふんーふんー。任せて。逃げるとき、立ちふさがるの、全部壊して外まで出る」


 俺に期待されていると分かったのか、マゥタクワは意気込んで鼻息を吐いている。

 現金だなと思いながらも、俺は表情をうさんくさい笑みに変えた。


「さて、ではこの中に入って、邪神教の信者たちと対面するとしましょうか」


 言いながら手を軽く上げると、先ほど伝えた順番に並んでいく。

 俺が手を振り下ろすと、先頭のマッビシューが渾身の力で建物の裏口を蹴り破り、ラットラが全身毛むくじゃら姿に変身した。

 そして俺たちは、全員で一気に、この建物の中へと雪崩れ込んだのだった。

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