八十七話 噂の町で、情報集めといきましょう
噂の出所の町に到着した。
早速宿をとって、周囲の聞き込みを始める。
奴隷が狙われるということで、エヴァレットは宿で待機。
スカリシアも、現在の身分では奴隷ではないのだけれど、美人なエルフは狙われ易いので、共に居残りだ。
この二人を餌に、噂の主を釣ることもできると思う。
けど、情報が少ない中で、囮を使うのは危険が高いと判断しての措置である。
この二人の護衛に、力自慢のマッビシュー、大柄で威圧感があるマゥタクワ、この男子二人を置いていく。
その四人に見送られて、残りの俺たちは町の中に散らばり、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの巡礼者を装って噂話を集めていく。
聖都ジャイティスから近い町だからか、巡礼者の数が多く見かけるため、住民たちに疑われる心配はなかった。
話好きの中年女性や、町のベンチに座っている老人を中心に、話を聞かせてもらった。
「あーあー、あの噂ね。あれ、本当の話なのよ。わたしの三軒隣のマチちゃんの家。子供が多いから、育児のために奴隷を買ったんだけどね。十日もせずに消えちゃって。困って、買った奴隷商に文句を言いに行ったそうなの。そうそう、子供で思い出したんだけど――」
「うんー? ああ、奴隷が消えるって噂かね。そうじゃな、ワシの知り合いにくたばりそうなババアがおるんじゃがな。離れて暮す息子夫婦が、生活の世話にと奴隷を一人送ってくれたんだと。不満なく働いている様子じゃったが、あるときふっと消えてしまったんじゃよ。あのババアは、今でもその奴隷を探しているそうじゃ。だがな君、こんな昼間っから噂を聞き回るなんて、巡礼者のわりに信心が足らんのじゃ――」
どちらも話が長く、関係ない話も混ざっていたから、目当ての噂話についての情報はあまり得られなかった。
とりあえず、食事の時間まで噂話を集めて回り、宿に戻る。
宿の部屋に入れば、後は報告会という運びになる。
そのとき、一番多く話を集め、なおかつどこの奴隷が消えたかと言う情報も持ってきたのは、意外なことにリットフィリアだった。
「ふふん。実は、こういうの得意なのだ。大姉さま、褒めて褒めて~♪」
「もう、しょうがない子ですね。でも、よく頑張りましたね、リットフィリア」
バークリステに甘えるリットフィリアは放って、集まった話をまとめてみよう。
「どうやら、この町で売り買いした奴隷だけじゃなく、他の町から連れてこられた奴隷も消えているようですね」
俺の一言が呼び水になり、子供たちも自分が抱いた感想を言い始める。
「人間、獣人、関係なく消えてるみたいねぇ」
「年齢もさまざまだね。子供から老人一歩手前の人まで、満遍なく消えているよ」
「でも、誰も消えた瞬間を見てないな。気がついたら消えていたっていう話ばっかりだ」
不可思議な状況に、噂話の重複を考慮に入れて、消えた奴隷の人数を算出すると――
「――二十人は確実に、下手したら三十人は消えている計算ですね」
「この噂にかこつけて、逃げ出した人もいないとはいえねえけどな」
マッビシューが不満顔で、俺に突っかかってきた。
どうやら、宿の部屋で留守番をさせられて、町に出れなかったことを不満に思っているみたいだ。
じゃあ明日からは外に出させてあげようと思いつつ、この噂の真相がなんなのか考えていく。
「……一番あり得る話は、この町に奴隷解放論者の集まりがあり。その集団が見かけた奴隷を、片っ端から自由の身にしているってことですかね」
この俺の発言に、リットフィリアを撫で続けていた手を止めて、バークリステが否定してきた。
「申し訳ありませんが、その可能性は低いかと思われます」
「それはどうしてでしょう?」
理由を尋ねると、バークリステが詳しい説明を始める。
「トランジェさま、いいでしょうか。仮に、奴隷解放を目的とする集団があったとします。その者たちは、どのような利益があって、奴隷を逃そうとしているのでしょう? そして逃げた奴隷は、どのような思惑で逃げたのでしょう?」
改めて問われると、どうしてだろうか。
元の世界のラノベだと――
「同じ人が奴隷として扱われるのが、気に食わないのではないかと。奴隷たちは、不遇な扱いに苦慮して、逃げようと考えたのではありませんか?」
――って感じの設定で、奴隷解放を目的とする人が主人公で、助けられた奴隷がヒロインっていうのが定番だったっけ。
けど、この世界の住民であるバークリステには、この主張は受け入れられなかったようだ。
「犯人に得るものがなさ過ぎます。たかだか、数十人の奴隷を解放したところで、奴隷制が廃止になるはずがありません。それに、本当にそんな人たちがいたとしたら、犯行声明を出さないことが変です。主張なき不可解な行いが生むのは、いまのように、不理解な噂話だけです」
たしかに。
これほど鮮やかに誰にも知られずに奴隷を消せる力があるのなら、主義主張を伝えたほうが、町人たちにも理解されるだろう。
受け入れる、受け入れないは別にしてもだ。
そして、さっきの俺の発言には、まだまだ穴があるらしい。
「加えて、噂話に出てくる奴隷は、どれも不当な扱いを受けていた様子はありません。衣食住を保障された状況から、逃げ出す理由はないでしょう」
「その保障を得られることが、奴隷にしては、いい待遇だからですか?」
「はい。奴隷を使い捨ての道具に考える人も、いなくはないのですので」
そういう事情があるなら、奴隷の身分であろうと、解放を望む人はいないかもしれないな。
だとすると、この町に起きている、奴隷が消えるという現象は――
「――私たちが当初に睨んだとおり。聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスとは別の神を祭る組織があり、その信徒が奴隷を攫っているということですか?」
「はい。超常的な話ですので、少なくとも、神の力が介在していることは疑いがないかと」
そういう結論に至っちゃうかと、俺は少しだけ困ってしまった。
この困惑は、先ほど俺が奴隷解放組織があるんじゃないかと疑った理由に、直結している。
「……噂話を皆で集め回りましたけど、邪神教の勧誘についての話を、欠片でも入手できた人はいますか?」
尋ねると、町中に出た全員が首を横に振る。
そう。過去四つものエセ邪神教を見つけた実績があるのに、この町では手がかりすら掴めていないからだ。
欠片も手がかりが見つからないから、邪神教はないんじゃないかと疑いたくなったんだよね。
ま、一日だけしか情報を集めてないんだから、まだ手がかりにたどり着いていないだけかもしれない。
けどそれは、この町にあるらしき邪神教は、とても慎重だということでもある。
これは本腰を入れて、捜査をしないといけないなと、考えを新たにする。
でも、本格捜査は明日からだ。
「さあ、もういい時間です。みんなお腹が空いたことでしょうし、晩ご飯を食べににいきましょう」
この言葉に、子供たちが諸手を上げて歓迎する。
「やったー! あのね、町を歩いていたときに、いい店を見つけてきたんですよー!」
「ラットラの鼻に適ったなら、味に間違いはないな。なあ、戦司教さん、その店でいいよな?」
「ごはん~ごはん~音符、たくさん食べる~♪」
大所帯になってから食費がかかるなって、子供たちの元気な様子に、少なくなってきたこの世界のお金の心配を、ついしたくなったのだった。
腰痛が酷いので、明日からの体調次第では、更新を何日か休むかもしれません。
お待ちしてくださる方々に、ちょっと悪いと思いはあるので、私の他作品を紹介してお茶を濁したく思います。
生まれ変わったからには、デカイ男になってやる!
http://ncode.syosetu.com/n0106db/
テグスの迷宮探訪録
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竜に生まれ変わっても、ニートはニートを続けるのだ!
http://ncode.syosetu.com/n9596ce/
二次創作SS@PIXIV
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