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八十話 町の人を助けるために、町を大混乱に落としましょう

 町の人を救いたいという求めに従い、俺は素早く策を立てていく。

 一番速くて確実なのは、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの教会関係者を全て殺して、情報封鎖をしてしまうことだ。

 けど、その手は今回取れない。

 なにせ、デービックのような工作員が、この町に潜んでいる可能性が高い。

 普通の人と区別がつかなければ、情報封鎖なんて出来ない。

 というか、俺たちは十数人しかいないので、手が足りないため、この方法は現実的じゃないんだよな。

 だから、次の策を考える。

 町の人たちに俺たちの正体を知らせて、「邪教徒め! よくも騙してくれたな」って、こちらに石を投げさせることはどうか。

 町人たちがこちらに敵意を向ける姿から、俺たちに関与したという疑いを払拭できるかもしれない。

 その後で、俺たちが追い出されたかのようにこの町を立ち去れば、町人は邪教徒を追い払った人たちだと、栄誉を受けるかもしれない。

 けど、かもしれない、という可能性でしかなく、確実じゃないんだよね。

 審問官によっては、その騒動が俺たちが仕組んだことだと主張して、この町に異分子が残ってないか調べるという名目で、異端審問をしかねない。

 そうなってしまったら、バークリステたちが奉仕した人たちに、異端認定がされてしまう。

 なので、もっと確実な手を使う必要がある。

 さて、では次の策だ。

 そして、俺が一番確実だと、現時点で思っている方法でもある。

 この作戦を実行するには、いくつかのハードルを越える必要があるんだよね。

 なので、審問官の部下だった過去があるバークリステに、ハードルが越えられるか聞いてみることにした。


「バークリステ。少し質問があります」

「はい、なんでしょうか?」

「この町にも、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの教会があるはずですよね。数は一つですか?」

「いいえ。三つ、あります。中心地に大きな教会が一つ、それを挟んで等間隔に、中規模の教会が一つずつです。そんな立地なので、どの教会からも遠い地区があり、わたくしたちはそこで奉仕活動をしていました」


 なるほど。

 三つの教会のどれからも離れた場所なら、バークリステたちが活動しても、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官に面が割れる心配はないな。

 この点に気を配るのも、俺は失念していたなって、ちょっと反省した。


「では、その三つの教会に、神官は何人いるか把握していますか?」

「中央部の教会には三名いるのは、確実です。中規模の教会には、一名ずついると聞いています。ですが、通常は部下のみに運営させて、用事があるときだけ、中央部の教会から神官が出向してくる、という噂もあります」


 ふむ。となると、神官を利用してやろうと考えたら、確実性を求めるなら中央部の教会じゃないと駄目なのか。

 まあ、それぐらいなら、考えている作戦の許容範囲内かな。

 

「では、この町の地図はありますか?」

「はい。この家は汚れ仕事をする者も、寝泊まりする場所です。その手のものは、常備されているはずです」


 バークリステが家捜しして、一枚の広げた新聞紙大の地図を持ってきた。

 常に情報を更新して新しく作っているのか、真新しい羊皮紙を二つ繋いで、精巧な地図が描かれている。

 この町の主要道路は『キ』の形みたいに、真ん中を通る一本線と、二本の横線で構成されているようだ。

 横線で区切られた地域――要するに『丄』『エ』『丁』に区切られるそれぞれの中央部に、教会が一つずつという具合みたいだ。

 ちなみに一番大きい教会は、もちろん『エ』の中央だ。

 エヴァレットに話を聞くと、彼女たちが奉仕活動をしていたのは、三つの教会から隣接する教会同士の距離を半径とした同心円を引いた、その外側にある地域だそうだ。

 俺たちの今いる家は、だいたい『丁』の横棒の端の近くって感じなので、その円の外側でもあるみたいだ。

 でも、通行人とかにも助けの手を差し伸べたりしたそうなので、あまり意味のある情報とは言えないかもな。

 要するに、バークリステが施しをした人たちは、この町のどこにいてもおかしくはないってことだしね。

 となると、作戦実行地域は、この町全体か。

 それで、魔法の使える神官が、こちらには十名程度しかいない。

 エヴァレット、スカリシア、そしてマッビシューとアフルンは、まだ自由神の信徒化を行ってないから、今から職に就けることは無理なんだよなあ。

 うーん、手が足りるかなぁ。

 俺は羊皮紙にある地図を眺めつつ、頭の中で人員を配置をしていく。

 こっちを減らしたぶんを、こっちに振り分けて……。

 ああそうか。この町に影響力のあるクトルットに手伝ってもらえば、人手が確保できるな。彼女はどこにいるんだろうか。まだ馬車の中に隠れているのなら、事情を後で説明しないと。

 さてさて、うん、どうにか、作戦はやれそうだ。

 結構穴があるっぽいけど、上手くいくように自由神に祈っておこう。

 では、作戦内容を伝えようか。

 大まかな流れややってもらう役割を、手早く伝え終えると、嫌そうな顔をされてしまった。


「それって、上手くいっても、大変なことになるんじゃ?」

「いや、これって大変なことにならないと、上手くいったってことにならないって作戦だよ」


 子供たちが顔を突き合わせて話す中、俺はバークリステに目を向ける。


「なにはともあれ、作戦のかなめは、私とバークリステです。お互いに頑張りましょう」

「……はい。こんな大役が務まるとは思えませんが、頑張らせていただきます」


 バークリステが緊張した面持ちで頭を下げ、そして上げる。

 覚悟が決まった目を見て、大丈夫そうだと、俺は作戦の決行を言い渡したのだった。





 日が傾き、夕日となった。

 町に居る人たちは、一日の仕事を終えて、思い思いに行動を始める。

 家路に急ぐ者、食堂で飯を食う者、酒を買って飲む者、花屋や玩具屋でプレゼントを選んでいる者。

 そんな人たちの様子を、俺はエヴァレットとスカリシアを横に置きながら、路地裏の暗がりから眺めていた。

 俺たち三人は、真っ黒なローブを着てフードを被り、身長ほどもある杖を揃って手にしているという、とても怪しげな格好をしている。

 というか、見た目だけで邪神教徒だと分かりそうな姿だ。

 さて、もうそろそろかなと、夕日の反対側の空を見上げる。

 そこには、夜の暗さと、小さな星明りが見えた。

 そうして俺が空を見上げていると、少し遠くの場所から、女性の悲鳴らしきものが聞こえた。

 エヴァレットとスカリシアに目を向けると、頷きが帰って来た。


「死体が動いていると、悲鳴を上げたようです」

「他の場所からも、続々と動く骨や幽霊を見たと、大騒ぎする声がしてまいりました」


 どうやら、子供たちが動き出したようだ。

 さてでは、主要道路『キ』の下の末端付近にいる俺も、動くとしましょうか。


「いでよ、『スケルトン』、『スケルトン』、『スケルトン』!」


 ショートカットのキーワードを呟き、レッサースケルトンを呼び出した。

 路地裏に現れた数は三十。

 そいつらに俺は命令する。


「この付近の建物を、攻撃して大きな音を立てなさい」


 命令にしたがい、建物の扉や木窓を、レッサースケルトンたちが叩き始める。

 すると、そこの住民が、窓や扉を開けて、苦情を言おうとする。


「やかましいぞ、なにして、やが、るん……」


 全員が同じような感じで、動く骨を見て絶句する。

 そんな反応を見ても、レッサースケルトンたちは、空けた窓や木窓を叩いて音を出そうとする。

 その動きを見て、住民たちは襲われるのではと、恐怖を抱いたようだ。


「逃げるぞ! 邪神の襲撃だ!!」

「なにをいってんだい、邪神だなんて――きゃああ!! 骨、骨が動いているーー!!!」


 騒ぎが騒ぎを呼び、周辺住民が外に飛び出してくる。

 そして、レッサースケルトンの姿を見て、我先にと逃げ始めた。

 その姿を暗がりから見ながら、俺は拡声用の魔法を、キーワードを呟いてショートカットから発動させる。


「『テステス』――ふぅわははははははっ!! 聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスなどという、小物な神を信じる輩が、逃げ惑っておるわ!!」


 悪の神官っぽく、悪い感じに演技する。

 唐突な大声に、どこのだれが喋っているのかと、住民たちが立ち止まる。

 けど、動いてくれないと困るので、さらに台詞を続ける。


「さあ、逃げるがいい! そして汝らが信じる神に縋りに、教会に向かうがいい!! 汝らを追いかけるのは、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒たちが過去に死に追いやった、邪教の死者どもであるぞ!! 捕まれば、過去にされたことを、汝らにし返すことであろうなあ!!! ふぅわはははははー!!」


 一度、拡声魔法をとめて、レッサースケルトンたちに住民を追いかけるように命令をだす。

 家を叩いていたレッサースケルトンたちが、一斉に住民たちに顔を向け、カラカラと音を立てながら動き出した。


「ぎゃあああああ! 逃げろおおおお!!」

「捕まったら、殺されるぞ!!!」


 初めてホラーハウスに入った人みたいに、住民たちは大慌てで逃げ始める。

 恐らくは、俺が台詞で誘導した、教会へと向かって。

 そこで俺はもう一度、拡声魔法を使う。


「『テステス』――ふぅわははははー!! 我が神を長年封じ込めてくれた礼を、今こそしてくれようぞ!! まずは、憎き聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの教会を、亡者どもで打ち壊してやろう!! そして、教会に収められた全ての物を壊してくれる!! そう、過去に我らが汝らにされたようにだ!! さあ、新たに現れ出でるがいい、『スケルトン』よ!! そして哀れな住民を追いかけるがいい!!」


 台詞の途中で、レッサースケルトンを追加し、町に放流する。

 さて、こんな風に、町人を追いたてているのは、なにも俺だけではない。

 町に散開している、子供たちも同じ事をやっているのだ。

 きっとこの町は、ここ百年で一番騒がしくなっているはずだ。

 もう隠れている意味はないので、俺はエヴァレットとスカリシアを連れて、主要道路に出る。

 明らかに邪教徒だと分かる俺たちの格好を見て、多くの人が逃げ、勇気ある人が一人殴りかかってきた。


「お前さえーー!!」


 殺せばと続ける気だったのか、それとも倒せばいいといいたかったのか。

 どちらでもいいけど、エヴァレットの回し蹴りが、男のコメカミに炸裂。意識を刈り取った。

 それを見て、俺は拡声している声のままで、笑った。


「ふうわははははー! 無謀なものが一人死んだぞ!! さあ、次はどいつだ!!」


 俺が悪役っぽい台詞を吐くと、ほぼ全ての人たちが逃げることを選択したようだ。

 俺は『キ』の字な主要道路の下から上へと、住民をゆっくりと追いかける。

 子供たちも、外延部から中央部へと、住民を召喚したアンデッド種と共に追いかけているはずだ。

 そうやって、住民を中央に集めようとすれば、道が込んで渋滞が出来る。


「早く進めよ! 教会に逃げ込むんだ!!」

「神官さまに頼めば、聖教本のように動く骨なんかやっつけてくださるに違いない!!」


 人々は口々に叫びながら、どうにか渋滞を前に進ませようとする。

 けど、詰まっているようで、なかなか進まない。

 さあ、このままだと、レッサースケルトンに追いつかれてしまうぞー。

 ッてな感じで、悪役っぽいことを考えていると、渋滞の末尾に近い屋根から、誰かが飛び降りてきた。


「てええええええええいいいい!!」


 その人は落下する勢いを載せて、掲げ持った杖をレッサースケルトンに叩きつけた。

 ボーリングのピンを大量に倒したときのような音が響き、レッサースケルトンはバラバラになって地面に落ちた。

 飛び降りてきた人は、渋滞している人たちに背中を向けながら、迫るレッサースケルトンに向かって杖を向ける。


「わたくしが奉じる神さま。目の前の敵を打つ力をお与えください!」


 呪文の後で、杖の先からまばゆい光の球が飛び、レッサースケルトンに命中し、吹っ飛ばす。

 しかし、この一発では倒しきれなかったようで、レッサースケルトンは立ち上がり、住民を追いかけることを再開した。

 だが、この魔法の一発を見た住民たちは、地獄に仏に会ったかのように、歓声を上げる。


「やったぞー! 神官さまが助けにきてくれたんだー!!」

「助かるぞー! 聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスさまの威光があれば、動く骨なんか」


 口々に安堵の声を漏らすが、助けに来た人から非常な通告を受けることになる。


「殿はお任せください! ですが、早く教会へ逃げてください!! この『スケルトン』たちは、どこからでも現れます。このままでは、多勢に無勢で守りきれません!!」


 その言葉の通りに、路上に新しい黒い円が生まれ、そこからレッサースケルトンが現れる。

 それを見て、一度は落ち着いた恐慌が再燃し、住民たちが教会に向かって逃げ始めた。

 人の移動を守るかのように、杖を手にした神官風の女性は、居並ぶレッサースケルトンと俺たちに杖を向ける。


「さあ、『かかってきなさい』! 人々が逃げ切るまで、このわたくしが相手です!!」


 まるで命令するかの口調に反応して、先ほど出てきたレッサースケルトンたちが、その女性に襲いかかる。


「この、『スケルトン』たちめ! 『わたくしを攻撃し続ける』としても、後ろの人たちに、攻撃は通しませんからね!!」


 また新たなレッサースケルトンが現れ、女性に攻撃を始める。

 必死に戦う姿を見て、俺はとても感心していた。

 いやあ、意外と演技派だったんですね――バークリステって。

 そんな俺が感想を抱いた通りに、渋滞の末尾でレッサースケルトンと戦っている女性は――

 ――そう、俺の仲間で自由神の神官な、バークリステだった。

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