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六十九話 予想外の戦闘をして、クトルットの両親に会いましょう

 当初は良かったが、敗残兵が道を外れて草むらに入って逃げようとし始めたので、対応に少し苦労した。

 けど、エヴァレットの耳という、逃走者の音を聞き分けるチートアイテムがあったので、時間はかかったが全員を殺しきることができた。

 こうして聖大神教兵団の本隊を倒し終えたら、あとは物資回収のお時間です。

 俺とエヴァレットが手分けして、草むらの中の死体の身につけている物をすべて集め、呼び出したステータス画面のアイテム欄に収容。

 裸の死体はそのまま置いて、野営地に向かう。

 そこはレッサースケルトンばかりいて、死体を踏みつけながらうろうろしている。

 バークリステたちに、魔法を使うのを止めさせないとなって思いながら、俺はエヴァレットと共に野営地に足を踏み入れる。

 そのときだった。

 全てのレッサースケルトンが、空いた眼窩をこちらに向けてきた。

 えっ、まさか。

 そう思って身構えると、わっとこっちに殺到してきた。


「え、なにが!? もしや、あの神官ども、裏切ったのか!?」


 エヴァレットが焦りながらナイフを構える。

 俺は彼女の後ろに庇いながら、杖の端を持つ。

 

「いえ、裏切りではないでしょう。恐らく、この場所にいる甲冑をきた人と、入ってくる人を倒せと命令しているからでしょうね」


 そう命令しろって言ってあったしと思いながら、杖を野球のバットのように、胸の高さで水平に大きく振った。

 攻撃範囲にいたレッサースケルトンは、粉々になって倒れるが、さらにどんどんやってくる。


「トランジェさま、どうするのですか?」

「一々相手にするのは面倒ですね。一掃してしまいましょう」


 俺は、戦神官系の高位職である戦司教ソルジャービショップかつ、魔法の自由度が高い自由神の神官だ。

 レッサースケルトンぐらいの、低級なアンデッドを一掃する魔法ぐらい使える。

 というか、使えなかったら困る。ゲームバランス的な意味で。


「いきますよ――私が信奉する自由の神よ。不浄のものたちを、広く黄泉よみに叩き返す光りを貸し与えたまえ!」


 呪文を唱えながら杖の端で地面を叩くと、野営地を包むように、薄い光の円が広がった。

 そしてすぐに、円からキラキラとしたピンポン球のようなものが次々に現れ、空中に漂い始める。

 レッサースケルトンがそれに触れると、球が小さな音と共に破裂して光を周囲に撒き散らす。

 その光を受けた、周囲のレッサースケルトンたちは力を失い、ただの骨となって地面に散乱する。

 しかし、俺とエヴァレットが触れて光を浴びても、効果はない。

 つまりこの光る球は、アンデッド用の浮遊機雷ってやつだ。

 しかしながら、野営地全てが入るよう広範囲化させるために、『アンデッド系滅殺領域』系の一番弱い魔法を選択したから、機雷の密度が薄い。

 けど、心配はしていない。

 なにせ、レッサースケルトンには、機雷を避けるような知能はない。

 むしろ、俺とエヴァレットに向かってくるから、その途中にある球に当たって、勝手に自滅してくれているしね。

 けど、機雷で掃討するのを待たずに、バークリステたちが入っている馬車に近づくため、杖を振り回して前に進んだ。

 フロイドワールド・オンラインのときと同じように、俺の杖の一振りで、レッサースケルトンたちが壊れていく。

 そのことに、エヴァレットは目を丸くしている。


「トランジェさま。それほど容易い相手なのですか?」

「一対一なら、エヴァレットでも勝てますよ。二対一でも勝てるでしょう。三対一から微妙になってくるんじゃないでしょうか」


 ダークエルフの集落での出来事を参考にして伝えながら、俺は杖を振り回し、無双ゲームのような感じで進んでいく。

 するとエヴァレットは、試すように一匹のレッサースケルトンに挑み、回し蹴りで頭を吹っ飛ばした。


「……容易い相手ですね。これなら三匹どころか、五匹を相手にしても勝てそうです」


 勘違いしているようなので、ちょっと釘を刺す。


「油断は駄目ですよ。こういう手合いの厄介なところは、一匹がやられている間に、他が取り付きにくるところです。対応しきれなくなれば、足元に転がる聖大神教兵団の二の舞ですよ」

「……その通りでした。気をつけます」


 素直な返事に、片手でよしよしと撫でながら、もう一方の手でレッサースケルトンを打ち倒していく。

 そうして、馬車までやってくると、俺は側面をコンコンと手で叩いた。


「二人とも、もう十分です。帰還の魔法を唱えてください」


 大声で伝えると、馬車から出てくるレッサースケルトンがピタリと止まった。

 それから程なくして、動いているレッサースケルトンたちが、地面に沈み込むように消え始める。

 その姿が全てなくなった頃に、俺の使っていた魔法も解け、あたりは松明の光だけの暗がりに戻った。

 安全を確認してから、俺は馬車の中に入って、バークリステとリットフィリアの入った箱を開ける。


「お二人とも、お疲れ様です。かなり魔法を連発してましたが、体調はどうですか?」


 そう、二人に魔法を使わせたのも、一つの実験だ。

 主目的は、職を得たばかりの助祭アコライトが、どの程度連発できるかの把握だ。

 そして副目的として、この世界の住民がフロイドワールド・オンラインの魔法を連発した場合、体調に変化があるかどうか。

 主目的はすでに達成されていて、フロイドワールド・オンラインのプレイヤーキャラ並みに、連発できるみたいだ。

 そして体調の変化はというと――


「はい、特に変わった部分はありません」

「ずっと唱え続けて、少しのどが渇いたぐらいです」


 ――バークリステとリットフィリアの言葉と無事そうな姿からすると、問題はなさそうかな。

 俺は二人を箱から出すと、喉が渇いたらしいので、革水筒を渡しておく。

 その後で、クトルットが入る箱を開ける。

 すると、やる事がなかったからか、自分の腕を枕に寝ていた。

 余りにも幸せそうな顔で寝ているので、箱の蓋を閉じることにする。

 うん。なにかいい夢でも見てそうだから、起こすのは悪いしね。

 さてとと、俺は馬車から顔を出して周囲を見回す。

 死体の甲冑。レッサースケルトンが変じた骨の山。聖大神教兵団の物資と馬車。

 どれも回収しておけば、後々に役に立ちそうだし、根気良く集めていこう。

 幸いなことに、フロイドワールド・オンラインのアイテム欄は、所持上限がない設定だから、回収しきれるだろうしね。

 でもやっぱり、一人で集め回るのは大変だったので、エヴァレット、バークリステ、リットフィリアの三人にも手伝ってもらうことにしたのだった。




 

 聖大神教兵団から奪った馬を流用して、四頭立てになった馬車は、快調に街道を進んでいく。

 他の物資は全て、俺のアイテム欄に押し込み、死体はあの場に多少の骨と共に捨ててきた。

 きっと見た人は、スケルトンにやられたんだって、勘違いしてくれることだろう。

 そう期待してのことで、死体の処理が面倒だったからではない。

 さらに意外だったことは、死体の血や肉を見ても、バークリステとリットフィリアが食指を動かさなかった。

 半吸血鬼バンピレイス半不死人デミデッドなのにって言ったら、心外だと怒られてしまった。


「わたくし、誰とも知れない人の血は欲しません。もちろん、トランジェさまのは別ですよ」

「大姉さまと意見は一緒です。それに人の肉って、美味しくない。前に貰った、あの生肉のほうがいいです」


 なるほど、二人は美食家グルメでこだわりがあるようだ。

 フロイドワールド・オンラインでも、半吸血鬼と半不死人に血や生肉が必ずしも必要じゃなかったから、当然の結果かもね。

 もっとも、血や生肉で種族的に一時的に身体能力増大ブーストできるから、活用して欲しいんだけどなあ。

 そんなこんながあった楽しい旅路は十日ほどで、この周辺地域の交易の要であるという、クトルットの両親がいる街の近くに到着した。

 要塞だったという建物を中心に据えて、裾野を広げるように建物が立ち並んでいる。

 ここら辺はとても安全なのか、最外周には塀なんかはない。

 だからか、博物館で見た日本の城下町のジオラマを思い出した。

 江戸城だったか大阪城だったか忘れてしまったけど、個人的には今見ている風景に一番似ているかなと思う。

 そう感想を抱いていると、クトルットは嬉しそうに、俺たちに顔を向ける。


「皆さん、キヒンジにようこそ! 街中に入ったら、案内しますね。美味しい食べ物屋さんとか、可愛い洋服屋さんとか、たくさんあるんですよ」


 この旅で、秘密を共有しながらも気がねない関係――ようするに友人になったからか、クトルットはぐいぐいと間合いを詰めてくるようになっていた。

 いまも俺たちを、キヒンジと言うらしき、あの街中を案内したいって、落ち着かない様子だ。

 その姿に苦笑しながら、俺とクトルットが御者台に座るようにする。

 もうすぐキヒンジに入るので、ダークエルフのエヴァレットと、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒に追われているバークリステには、御者を任せられない。

 見咎められて、騒動になるのが落ちだからだ。

 その点、俺は面が割れていない上に人間だし、クトルットは大きな奴隷商の娘だ。騒動になりようがない。

 そう思っていたんですよ……。

 このときの俺の落ち度は、クトルットの両親が、どれほどの店の主か確かめなかったことだろう。

 ほぼ馬車を素通りさせていた関所の人が、急にこの馬車を呼び止めて、喋りかけてきたのだ。


「おお、スッレメイルのお嬢さんじゃないですか。どうして御者台なんかに?」

「え、あのお嬢さんが帰って来たの!? どこどこ!?」


 休憩中だったと思われる人までが出てきて、クトルットの顔を見ようとしてきた。

 彼らのこの反応は普通なのか、クトルットは澄ました余裕顔で対応を始める。


「皆さま、ご苦労様です。久しぶりの景色だから、御者台ここからみたくなっちゃっただけなの。それで、通してもらってもいいかしら?」

「はい、もちろんです。あの、貴女さまのご両親宛てに、お嬢さんが帰郷したと伝令を走らせましょうか?」

「そうですねぇ……頼んでもよろしいですか?」

「もちろんですとも。言付けは、どのようにいたしましょう」

「うーんと、新しい友人を紹介する、とだけでお願いします」

「分かりました。友人を連れてきたと、そうお伝えしましょう」


 まるで台詞が決まっているかのように、するすると対応が進んでいく。

 最終的には、足自慢らしい伝令が物凄い速さで先へと駆けていき、その他の人たちが敬礼して見送ってくれた。

 俺は馬車を走らせ、関所から離れたのを確認してから、クトルットに目を向ける。


「もしかして、いいところのお嬢さんだったんですか?」


 その質問に、クトルットは普段の調子に戻りつつ、悩み顔になる。


「うちは奴隷商の大手ですから、この街を統括する貴族が、いい奴隷ほしさに便宜を図ってくれているだけですよ。さっきのだって、ご機嫌伺いでしかありません」


 どうやらクトルットは、ああいう貴族的というか、特権的な対応は好きではないようだ。

 親の教育が良かったのか、真なる友人が欲しいと願った純真さからか、はたまたそのどちらもか。

 俺としては好感を抱く点なので、構うことはないかなって思うけどね。

 けど、そんな思いは、彼女の両親の奴隷商店にきて吹っ飛んだ。

 なにせ、門構えも造りも立派な店で、客待ちをしている従業員も男女美女揃い。

 まさに大店の風格満載な、見事な外観だ。

 そして、伝令に知らせを受け出てきたと思われる、上等な衣服に身を包んだ気忙きぜわそうな老夫婦が一組。

 きっとあれが、クトルットの両親なんだろうな。

 そう思いながら馬車を止めた瞬間、クトルットが御者台から降り、老夫婦が駆け寄って彼女を抱擁する。


「ただいま。お父様、お母様」

「おかえり。愛しいクトルット。少しやせたんじゃないかい?」

「おかえりなさい、クトルット。顔に疲れが見えるわ。商店の経営に苦労しているの?」


 愛する子を迎え入れる夫婦の図に、周囲にいる従業員らしき人たちも、温かな眼差しを向ける。

 二分ぐらい抱き会った後で、クトルットは自分から、両親の腕から脱出した。


「そうだ、お父様、お母様。お友達を連れてきたの。紹介するわね」


 花咲くような笑顔を、クトルットはこちらに向ける。

 すると彼女の父親から、まるで嫁を貰いに来た男を見るような目で値踏みされた。

 母親も、笑顔ながら視線は鋭い。

 御者台に座っているのが俺とクトルットだけにしたのは間違いだったなって、彼女の両親に苦笑いを返すのが精一杯だった。

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