表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
二章 悪しき者たちに会いに行こう
52/225

五十一話 ダークエルフの神さまは、これで決まり――かなぁ?

 俺はテントの中で寝転がりながら、ステータス画面で今までフロイドワールド・オンラインで受けてきたクエストを確認し続ける。

 思い出すべきは、戦ってきた相手なので、クエストの内容を見て記憶を掘り起こしていく。

 すると、掃除や整理のときに懐かしい物を見ると、ついつい手にとって見てしまうことと同じく、この敵はああだった、ここでこんな邪魔があった、なんて考えが横道にそれていく。

 そんな風に懐かしさに頬を緩ませたりしていると、エヴァレットが静かに近づいてきて、俺の顔を覗き込んできた。


「どうかしましたか?」

「いえ、その……神遣いさまが楽しげでしたので、何をしていらっしゃるのだろうかなと」


 ちゃんと調べているのか、不安に思ったのかな。


「心配せずとも大丈夫ですよ。今までの旅路の中で、最長老さまからの手がかりに符合するものがなかったかを、確かめているのです」

「その、我々では見えないという、画面なる物でですか?」

「その通りです。ここにあるものには、私がいままで歩んできた道のりが記されているのです。その中に、ダークエルフの神や秘術に関する手がかりがあるのだと、私は確信しています。もっとも、膨大な量なので、調べるのには時間がかかるのが難点なのですけどね」

「なるほど。神遣いさまの歴史が、見えませんが、画面とやらに詰まっているのですね」

「あははっ。短命な人の身かつ若輩者なので、歴史と呼べるほど立派な歩みではありませんけどね」


 返答しながら、また別のクリア済みのクエストの内容に目を移す。

 すると、エヴァレットは俺の頭を優しく手で包み込むと、そっと持ち上げた。


「エヴァレット?」

「こうしたほうが、作業が捗るのではないかと思いまして」


 そう言いながら、持ち上げた俺の頭の下に、エヴァレットは正座をした太腿を滑り込ませた。

 すわ、膝枕!?

 元の世界を含めて、人生初となる異性による膝枕――しかも閉じた足にそって頭を置く縦の膝枕!――に、思わず体が硬直してしまう。

 すると、エヴァレットは少し困ったような顔になった。


「あの、迷惑でしたでしょうか?」

「い、いいえ――あ、その、大変なお手前です」


 自分自身で何を言っているのか分からないけど、とりあえず大丈夫だと身振りでも知らせる。

 エヴァレットは安心したように、俺の頭の位置を微調整した。

 画面に目を向けてクエストの説明文を読むことで、落ち着きを段々と取り戻すと、頭の下にある柔らかい枕の存在がはっきりと分かるようになった。

 なんというか、普通の枕では再現不可能な感じだ。

 表面は沈み込むように柔らかいのに、少し奥にはしっかり受け止めて支える反発力があり、さらに奥では強く反発する層がある。

 なるほど、世間のカップル様たちが、いちゃいちゃと膝枕をするわけだと、変な理解を得てしまう。

 いやいや、いま気にするべきは、膝枕じゃなくてダークエルフの神のことだ。

 気を引き締めなおして、画面に視線を向ける。

 集中して、小一時間ほど没頭していると、不意に枕が動いた気がした。

 視線をエヴァレットに向けると、何かを堪えている顔で、少し体を動かしている。

 そういえば、正座をさせっぱなしだったと、反省した。


「エヴァレット、足が痺れているんじゃありませんか?」

「え、あ、だ、大丈夫です……」


 本当なのかと、脹脛の部分を横から撫でてみる。


「あ、神遣いさま、そこは、ちょっと」

「やっぱり、敏感になっていますね。いいんですよ、楽にしても」

「でもそれでは、神遣いさまのお役に立てないではありませんか」

「無理をして我慢しないでもいいんですよ。でもまた、こうしてくれれたら、嬉しいです」

「で、では、少しの間だけ、休憩させてもらいます。失礼します」


 エヴァレットは俺の頭を持ち上げ、太腿を下げてから、ゆっくりとテントの床に置きなおした。

 そして足を横に崩すと、血流を戻すように膝から先を撫で始める。

 ダークエルフらしい黒い肌と、艶かしい曲線の足を至近距離で見て、思わず目が釘づけになりそうになった。

 意識して視線を外して、画面の中にある文字列を読むことに邁進する。

 そのときだった、不意に記憶の中で、引っかかる魔物が出てきた。


 そのクエスト名は『亡者窟の探索』。

 アンデッド系のモンスターが、いたるところからワラワラ出てくる、ホラー系のある夏の時期に開かれた限定イベント。そして大して盛り上がらなかった、不人気な催しでもあった。

 このクエストの中で、俺が気になった敵キャラとは、イベント限定の中ボスだった、とあるスケルトン。

 正式名称は忘れてしまったけど、彫刻ほりスケルトンの愛称で呼ばれていたことは覚えている。

 そのあだ名の通りに、そのスケルトンの額には、でかでかと図形が彫られていた。

 刺青ではないけど、あれも模様を体に刻んだ存在には違いない。

 どんな模様だったか手がかりはないかなと、アイテム欄を呼び出してイベント限定品専用フォルダを開き、そのスケルトンのドロップが残ってないかを調べていく。

 結構、スケルトン系のイベント限定素材ってあるんだなって思いながら、ドロップ品の名前には『額』って文字があったはず。

 そうやって見送っていき――あった。

 アイテム名『カーブスケルトンの額面』。

 そうそう、名前の割りに立ち姿は普通で湾曲カーブしてないってことになって、彫刻スケルトンってあだ名がつけられたんだっけ。

 もっとも、後に湾曲ではなく、英語で彫刻カーブだったとアナウンスがあったな。

 そうだそうだと思い出しながら、カーブスケルトンの額面をタップして、画面から出現させる。

 額面って名前のとおりに、カーブスケルトンの面構えを精巧にお面にしたもので、ちゃんと額の彫刻も存在している。

 この年のハロウィンイベントでは、このお面だらけになったよなと思いながら、彫刻の図柄を確認する。

 ……うーん、最長老の刺青に似ていなくもないけど、ピッタリとも言いがたい。


「エヴァレット、ちょっといいですか?」

「え、あ、はい。なんでしょうか、神遣いさま」

「このお面にある彫刻を見て、最長老さまの刺青に似ているか判別して欲しいのですが――足、大丈夫ですか?」

「は、はい。血流が戻ってきて、一気に痺れがきただけですので!」


 それならいいけどと、エヴァレットにカーブスケルトンの額面を手渡す。

 エヴァレットはしげしげと、そのお面を観察し始めた。


「たしかに、この額の部分にある彫刻は、ダークエルフの秘術たる刺青と似てないこともないですね。ということは、このお面のように、スケルトンを擁する神が、ダークエルフの神でもあるということなのでしょうか?」


 結論を急ぐエヴァレットに向かって、俺は首を横に振る。


「いや、それはまだ手がかりに過ぎません。スケルトンは、自然発生と創作の二種類に大別でき、そのお面の元となったスケルトンは作り出されたほうです。なので、スケルトンみたいな不死種が好む神が、ダークエルフの神であるとは決定しかねますね」


 俺はエヴァレットからカーブスケルトンの額面を取り上げると、一度アイテム欄の中に戻してしまう。

 そして改めて項目をタップして、説明文を読んでいく。

 しかし、元となったカーブスケルトンの説明以外には、大した情報はない。

 その説明も要約すれば、偏屈な魔法使いが使役するスケルトン、ってだけしか書いていない。

 手がかりになると思ったのにと気落ちしかけて、その偏屈な魔法使いがこの季節限定イベントのボスだったことを思い出した。

 慌ててイベント内容を読み直し、記憶を想起させ、イベントボスのことを確りと思い出そうとする。

 このボスである魔法使いは、亡者窟――つまりは墓所にある死体を使って、何かをしようとしていた。

 研究完成までの外的の排除のために、なにかの適正が低い死体をスケルトンやゾンビにして、墓所に放っていた。

 カーブスケルトンは、その適正が強い死体を素材にしたけど、結局は失敗作だった。

 やがて墓所の死体を使い尽くした魔法使いは、自分を素材にしてまで研究し、イベントボス――『ルイナスゾンビ』と化してしまう。

 ダークエルフの神とは関係のないことばかり思い浮かぶ中、必死に記憶を手繰っていく。

 えーと、あとは……。

 そうだ、この墓所がある近くの集落は、その場所とあと数ヶ所ぐらいしか信仰していない、とても珍しい神を祭っていたんだった。

 でも大して強い加護を受けられないから、プレイヤーに見向きもされなかったんだよな。


 それで、えーっと、名前は、うーんとー……。

 その神のことを思い出そうしても思い出せない。

 仕方なく、偽装スキルの偽装先の神一覧を見て、思い出そうと試みる。

 必死に考えながら、神の名前を順に見ていって、ある一つの神の名前で目と手が止まった。

 そうだ、あの集落の人たちが祭っていたのは、この神――戯飾の神だ。

 そう思い出してから、また首を傾げてしまう。

 この神は、説明文を読んで、候補から外した一柱だったからだ。

 なにせ教義が、大いに身を飾り踊り遊ぶいう、いわゆる踊り子が崇める舞踏信仰の神。

 そしてこういう芸術神は、フロイドワールド・オンラインでは、戦闘には使えない神として認識されていた。

 なので、祈祷師はともかく、ダークエルフの戦士が信仰するには、値しない神と思ったからだ。

 正直に言うと、この神がダークエルフが崇めていた神だとは、手がかりを掴んだ今でも思えない。

 偽装スキルの説明欄を見ても、刺青や図形のことについては触れられてはいないしね。

 なのでとりあえず、他にも有力候補となる神がいないかを調べ続けよう。

 そして、戯飾の神しか候補がなかった場合にだけ、エヴァレットや長老たちにこの神が貴方がたの神であると、そう伝えようと決めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ