四十二話 夜の女性は、ちょっと怖いものですね
*微エロ注意
多くの自由神の信者を得て、ほくほくと部屋に戻った。
そして、中に入って、エヴァレットが閉じこもっていたんだと、思い出した。
もう夜になっているので、部屋は暗い。
目を暗さに馴らしながら凝らして、中を見回す。
ベッドのシーツが、こんもりと盛り上がっているのが目に入る。
どうやらエヴァレットは、そのベッドに入っているようだ。
たぶん寝ているんだろうなと、自分のベッドに近づこうとして、はたと気が付いた。
シーツが盛り上がっているベッドは、エヴァレットのではなく、俺のベッドだ。
不審に思って、目をもう一つのベッドに向けると、誰も寝ていない。
もしかしてエヴァレットは、間違えて俺のベッドで寝ちゃっているってことなのかな?
どうしようかと考えながら、頭を掻く。
普通に考えれば、空いているベッドに寝ればいいんだろうけどさ。
エヴァレットが寝ていたベッドに、俺が寝ると考えると、倫理的にアウトな気がするんだよね。
かといって、この部屋にはソファーのような、寝ることができそうな椅子は置いてないし、床では寝たくないしなぁ……。
うーん、ここはキルティか使用人に言って、新しい部屋を用意してもらった方がいいかな。
そう決めて、部屋を出ようと後ろを向いて、扉に手をかける。
そのとき、布が勢い良く捲り上げられる音がして、俺の方に駆け寄ってくる音が聞こえた。
ハッとして振り向くと、もう目の前にエヴァレットの銀髪が見えた。
「どうしたんで――ッ!」
声をかけようとすると後ろから抱きついてきて、そして腕で締め上げてきた。
ぐぇ、な、なんだ!?
もしかして、こんなときに反乱イベントが発生したのか!?
咄嗟に腕を外そうとすると、エヴァレットが俺の背中に頭をぐりぐりと押し付けてくる。
どういうことかと混乱していると、エヴァレットから小さな声が聞こえてきた。
「お願いです。嫌いに、ならないでください」
「……えっ?」
言葉とこの状況がかみ合わない気がして、さらに混乱が加速した。
思わず出てしまった戸惑いの呟きをどうとらえたのか、エヴァレットが涙声になる。
「謝ります、から。神遣いさまのベッドで、ぐずっ、不埒な真似を、していたこと、謝ります、ふぐぅ、からぁ」
「――ちょ、ちょっと待ってください。いいですか、ちょっと待ってくださいね!?」
俺は慌てながら、状況を整理する。
まず、エヴァレットは暗示の実験で媚薬を嗅がされた。
魔法ですぐに効果は消したんだけど、不愉快に思ったのか、この部屋に閉じこもった。
その後、俺のベッドに入って『不埒な真似』をしていたと。
前後の状況を考えると、つまりえっと、自分を慰めるっていうアレを、していたってことだよな。
でもそれって、変じゃないか。だって――
「――魔法で消したはずなのに、媚薬の効果が残っているんですか?」
思わず尋ねると、またもや俺の背中に、エヴァレットは額をぐりぐりと押し付けてきた。
「媚薬の効果は消えてます。ですが、一度盛り上がってしまった気分は、簡単には落ち着かないようなのです」
つまり、媚薬でいったん発情すると、媚薬の効果が切れてもしばらくはそのまま、ということなのか?
なら、気分を元に戻す魔法を使えば、エヴァレットは元に戻るはず。
そう考えて、覚えている魔法を総ざらいしていく。
恐怖を薄れさせたり、緊張を解すと解説がある補助魔法はある。
けれど、発情にピンポイントで効くような魔法なんてない。
いや、そもそも媚薬がどんなステータス異常かよく分からないから、全ての異常を治す回復魔法を使ったんだった。
あれで効かないとなると、発情を消す魔法っていうのは、フロイドワールド・オンラインにないのかも。
「えーっと、エヴァレット。私のせいで、とんだ申し訳ないことになってしまいました。深く謝罪を――」
「いえ、謝罪しないでください。ですが、負い目に思っておいでなら、一夜の相手をしていただけませんか?」
思わぬ申し出に身を硬くすると、エヴァレットがこちらに手を出す理由を与えてくれるように、とつとつと説明を始める。
「ダークエルフは発情期が数年に一度の種族です。その分だけ一度発情してしまうと、愛しい人の肌が恋しくなって仕方がなくなってしまうのです。そしてその相手と交わらないと、気持ちが落ち着くことがないと言われてもいます」
だから相手をしてくれって、より抱きつくことで示してきた。
肉欲が俺の心を支配しかけるが、それよりも個人的に衝撃だった事実がある。
「あ、あの、エヴァレット。とんちんかんな質問だとは思いますが、私のことが好きなのですか? 媚薬による気の迷いではなく?」
「……神遣いさま。そう聞いてくることが、こちらに対して失礼だとは思わないのですか?」
「思いますが、その点はハッキリさせたほうがいいのではないかとも思ったものですので、思わず尋ねてしまいました」
慌てすぎて言葉が変になっている自覚があるので、少しは落ち着こうと意識して呼吸して鼓動を整えようとする。
けれど、エヴァレットが背後から口を寄せてきたことで、その試みはあえなく無駄になった。
「はい。神遣いさまを、お慕いしております」
その言葉に、心臓がドキッとした。
思わず、どこがとか、なぜって聞きたくなったが、ぐっと口を閉じて堪える。
それほど、エヴァレットの言葉に誠実かつ真摯な響きがあったからだ。
そして、だからこそこちらも同じぐらい、真剣な気持ちで向き合う必要がある。
「……申し訳ありませんが、私はエヴァレットのことを愛しているとは言えません。それでも、一夜の共を求めますか?」
「はい。一方的な好意であると、自覚しておりましたので」
「私は貴女に乱暴を働いた人たちと同じ、人間です。怖いとは思わないのですか?」
「本当のことを言うと、少し怖いかもしれません。ですが、それ以上にお慕いしております」
聞くべきことはまだ歩きもするけど、十分だろう。
これ以上は野暮だ。
俺はエヴァレットの手を優しく解くと、振り向いて顔を向け合った。
一通りの行為が終わり、お互いに荒い息を吐く。
そして、ベッドに寝ながら脚をこちらの腰に絡ませているエヴァレットへ、俺はゆっくりと倒れこんだ。
エヴァレットは迎え入れるように首に腕を回すと、胸の谷間へと誘導する。
柔らかな胸の感触と少し熱い体温を頬に感じ、まだ整わない呼吸音と鼓動音を耳に聞きながら、ほどよい疲れに俺は身を任せる。
この世界にゲームキャラであるトランジェの体できたから、行為がちゃんとできるか微妙に不安だったけど、どうにか上手く出来たのかなと思う。
少し上目で見ると、それが自惚れじゃないと思わせる、エヴァレットの顔があった。
「ふふっ。なんだか、ずっとこうしていたい気がします」
エヴァレットは満足そうに微笑みながら、俺の頭を撫でる。
「なんだか、嬉しそうですね」
「はい。こうして神遣いさまと一夜をともに出来たこともそうですが、破瓜の痛みと出血があったことが何よりも嬉しいのです」
言いながら、エヴァレットは自分の股間に手を伸ばし、指に付着した半渇きの血を嬉しそうにこちらに見せてくる。
乱暴されて失われたはずの純潔が、俺の回復魔法で戻っていたことが嬉しいらしい。
俺に見せた後で、大事そうに手指で伸ばしているあたりに、その嬉しさが透けて見える。
正直、血を指で弄んでいる姿は変態っぽくて、男性側は引くか興奮するかに分かれるだろう。
生憎と、俺は興奮する方なので、問題はないけどね。
そんな事を俺が考えていると知ってか知らずか、エヴァレットは少し締まった彼女のお腹の上にある、白濁した液体を指にからめ取る。
そして、少しだけ残念そうな顔を、こちらに向けてきた。
「中に下さっても、よかったのですよ?」
「では、今度は媚薬の効果がないときに、そうしましょうか。エヴァレットは、とても欲しがりなようですし」
努めて微笑みながら言うと、エヴァレットは嬉しそうにも恥ずかしげな顔になり、ぺちぺちとこちらの背中を軽く叩いてきた。
出そうになって思わず腰を引きすぎて抜けてしまった、なんて言えないから、気障な言葉で誤魔化しておいて正解だったな。
そうやってピロートークをしつつ、このまま寝ようかと思っていると、唐突に背中に誰かが乗ってきた。
「えへへへ~。エヴァレットとは、終わったようだよね~」
聞こえてきた声に慌てて振り向くと、イタズラっ子な笑みを浮かべる、キルティの姿があった。
しかも、全裸にスケスケのネグリジェっていう、扇情的な姿で。
「なにしているんで――むぐっ」
抗議しようと顔を上げると、キルティの胸元へと顔を埋めされられた。
「はーい。天然物の、ジャコウの香水だよ~。どう、堪らなくなってきたんじゃない~?」
「むぅー! むうぅ……ううぅぅ……」
どうやら、キルティのフェロモンが強く出る場所は胸の谷間だったようで、呼吸する度に俺の意識がピンク色に染まっていく。
股間に熱がこもるのを感じつつ、どうにか状態異常を回復する呪文を唱えようとする。
しかし、キルティがより深く谷間に俺の顔を埋めて、言葉を出せないようにする。
「はーい、魔法は使わせません~。抵抗せずに、そのまま身を任せちゃいなよ~♪」
段々と、俺の意識が、性欲だけに、なって、いく、気が……。
「何をしているんですか! キルティ、神遣いさまを放しなさい!」
「ええー、いいじゃんかー。それに、エヴァレットだけ楽しむなんて、不公平だよ!」
「なら、力ずくで!」
「出来るのかな~? 初めてのお腹の痛みで、動きが鈍いようだけど~?」
ギャーギャーと二人が言い合いを始めた数秒後、自失した俺が二人を押し倒した。
その後どうなったかは、翌朝に目覚めて見たベッドと二人の惨状に、俺が頭を抱えたとだけ告げておくことだけにする。察してもらいたい。




