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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
二章 悪しき者たちに会いに行こう
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三十五話 次への移動中ですよ

 ゴブリンの集落から離れてから、何日も何日も、ずっと森の中を進んでいく。

 いい加減、木ばっかりでうんざりしてきた頃に、洞窟にある神の加護を失った亜人の集落についた。

 ここで一晩過ごさせてもらうことになったんだけど、驚いたことに住んでいたのはコウモリ型の亜人だった。

 フロイドワールド・オンラインでは見たことがないので、じっくりと話と観察をさせてもらった。

 主食は、果物と木の実、そして虫だそうだ。血は飲まないらしい。

 種族の特徴として肌が色黒で、目は黒目のパッチリ系。体は華奢で小さく、成人している人でも子供のよう。

 両耳がエヴァレットのエルフ耳より長く大きく。そして、片腕が身長ほどある長い腕と、薬指と小指も不自然なほどに長い。その二本の指と、小指側の掌から脇にかけて、黒く薄い皮膜がついている。

 その皮膜のある腕で、風の少ない洞窟内の広い場所でなら、飛ぶことができるらしい。

 どうやら物理の力ではなく、魔法の力で浮き、腕を振るうことで飛びまわるみたいだ。

 それを聞いて、神の加護がないのに、魔法が使えるなんて不思議に思った。

 エヴァレットにより詳しく話を聞くと、この世界にあるのは、フロイドワールド・オンラインのような神の力を借りる魔法だけじゃないらしい。


「ここの亜人のように、種族的に特異な魔法現象を引き起こす者もいます。ですが世に広まっている多くの魔法は、神の技を解析して真似たものであると言われています。分野ごとに細分化されていると聞きますが、なにぶん人間の生活圏の話なので、どのような魔法があるかまでは分からず、申し訳ありません」


 そういえば、アズライジが俺の魔法を最初に見たとき『信仰系』って驚いていたっけ。

 ということは、俺が知らない未知の魔法が、この世界にはゴロゴロしているということなのかな?

 ちょっと気をつけるべき話だな。

 いや、それよりも――


「――色々な種類の魔法があるなら、ダークエルフが使える魔法はないのですか?」

「申し訳ありません。少なくとも我が集落には、ダークエルフが使う魔法はありませんでした」

「そうなんですか。でも、使うことの出来る魔法を探しているダークエルフがいるかもしれませんね。エヴァレットが神遣いを探し回ったようにね」

「それは……ありえることかもしれません」


 腕組みして考えているエヴァレットを見て、少し意地悪なことを思いついた。


「もしも、私がダークエルフの集落に着く前に、その魔法が普及していたら、神遣いなんてお払い箱かもしれませんね」

「――!? そんなことはあり得ません!!」


 急な大声にビックリして、仰け反ってしまう。

 しかしエヴァレットは止まらない。


「この世で、重い病と怪我を治せるのは、神のお力だけなのです! そしてそれを成せる神遣いさまは、とても特別な存在なのです!」

「分かりました、分かりましたから、落ち着きましょうね」


 エヴァレットはハッとした顔をすると、ムキになったことを恥じるように顔を伏せてしまった。

 気にしないようにと、優しく背中を一つ撫でて、いま言われたことを反芻する。

 つまりこの世界では、魔法は数多あれど、回復魔法は信仰系と呼ばれる系統にしか存在しないらしい。

 うーん、この情報はもう少し早く知りたかったかな。

 俺が唯一、悪しき者とされる種族に回復魔法をかけられる存在でいるために、ゴブリンたちを神官なんてしなかっただろうし。

 ……いや、この世界にはフロイドワールド・オンラインと同じ魔法しかないと、そう勘違いしていてこの結果だったんだ。

 他に魔法があると知っていたとしても、ゴブリンをなにかの神の神官にしていた可能性が高い気がする。

 終わった事は忘れよう。

 それよりも、このコウモリの獣人に自由神の教えを伝えてみて、反応が良さそうなら信徒にしてしまおうっと。




 

 自由神の信徒は一人も増やせないままに、コウモリ獣人の集落から旅立つことになった。

 彼ら彼女らの言い分としては、いままで神がいなくて困ったことがないから、必要ないとのこと。

 病気や怪我が治せるようになると伝えてみたけれど、死ぬときは死ぬからいらないと、ドライな反応だった。

 心の底からそう思っているのだと理解して、無理強いは自由神の教義に反するので、勧誘は止めてしまった。

 そうして再び、エヴァレットと一緒に森の中を歩く生活に戻った。

 また何日も野宿をして、森の中を走破していくと、森の木々の向こうに山脈が見えた。

 この世界にきてからは、草原と平原にある森しか見たことがなかった。

 やっぱり、木と山がセットじゃないと、山がちな日本に住んでいた俺としてはしっくりこない。

 そして、エヴァレットが進む方向は、どうやらあの山脈のようだった。

 一歩一歩近づいてみると、山脈とは少し違う感じがする。

 けど、なんかどこかで見た感じがあるんだよね……。

 あの規則正しく頂点が並んだ山の形状――そうだ、カルデラだ!

 噴火沈没した火山の天辺を、下横から見ているような形だ。

 あれ? そうするとこれから向かうのは、休火山か死火山かはしらないけど、その火口ってことか?


「あの、エヴァレット。あの山に向かっているようですけど。そこは噴火したりはしないのでしょうか?」

「噴火、ですか? いえ、そんな話は前に訪れたときには聞きませんでした。それにあの山々は、神が空から叩き落とした星が地面にぶつかり、生まれたものと言われているらしいです。なので、普通の山ではありませんから、噴火もしないのではないかと思います」


 なんと、あの山脈はカルデラではなく、クレーターの縁だったのか!

 しかしそうなると、どれだけ広いクレーターなんだろうか。

 

「エヴァレット、訪れたといいましたよね?」

「はい、その通りです」

「では、あの山の向こうはどうなっているのか、知っていますか?」

「山々に囲まれた広い平原と、中心に湖があり、周囲には獣人が暮らしています」

「ほうほう。もしかしてそこが、エヴァレットがいま目指している集落――いやあの規模ですから、国なのですか?」

「国ではなく、里と、暮らしている人たちは言っておりました……正直に申しますと、約束でなかったら、神遣いさまを連れて行きたいくはないのです」


 約束という部分も気になるけれど、なんだかとても変な感想を、エヴァレットはその里とやらに抱いているらしい。


「それはとても危険だから、ということですか?」

「そうですね……ある意味において、あそこほど危険な場所は、この世界にはないのではないかと思っています」

「……どんな獣人が住んでいるんですか、あそこには?」

「見た目が色々と違うので、単一の獣人というわけではないそうです。しかしながら、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスのヤツらは、あそこの住民たちを一括りにこう呼びます――サキュバスと」


 淫魔サキュバスだって!?

 ……そう驚いてみたが、それはどんなサキュバスなのだろうか。

 フロイドワールド・オンラインにいた触手の悪魔なのか、ラノベによくある女人型のエロイ化生なのか。

 まあどちらにせよ――


「――実物を初めて見ますから、興味はありますね」

「そうですか……神遣いさまとて、男性ですからね……」


 なんか失望されてしまったみたいだ。

 いや、知的好奇心だから。恥的好奇心で言っているわけじゃないからね!

 しかしそう言葉を荒げると、トランジェっぽくないので、微笑みながらこう言ってみよう――


「――エヴァレットを見たときだって、心が躍ったものです。なにせ、初めて見る、ダークエルフだったんですから」

「……知りません。行きます、こっちですから」


 エヴァレットはぷいっと顔を背けて、先に歩き出してしまった。

 あらら。言葉の選択を失敗してしまったいたいだ。

 そんな反省をしつつ、もう一度エヴァレットになにか声をかけようとして、彼女の長い耳が小刻みに機嫌良さそうに動いているのが見えた。

 どうやら、さっきの反応は照れ隠しだったようで、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。


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