三十四話 色々と種を撒いてみました
ゴブリンの集落から追い出されてすぐに、ダーギャが業喰の神を祭ると真っ先に決め、俺の魔法で信徒になってみせた。
しかし意外なことに、次のステップである神官にはなりたくないらしく、俺に違う職がないかと聞いてきた。
「ダーギャ、アタマ、ヨクナイ。ケド、チカラ、ツヨイ。ダカラ、マホウ、イラナイ。チカラ、モット、ホシイ」
そう理由を語ってくれたので、ダーギャには業喰の神と相性の良い職業――戦士にしてあげた。
業喰の神の戦士となったダーギャは、自分の力が増したと感じるのだろう、細い倒木を持ち上げたりして前との違いを確認していた。
他のゴブリンたちもそれを見て、戦士になりたがった。もちろん、神官になりたいゴブリンも、一定数いた。
そうして大半のゴブリンが業喰の神を選ぶ中、何人かは別の神を求めた。
色々な要求を聞いて、俺が提示した中から彼らが選んだのは、狩猟の神と蛮種の神、そして俺が崇める自由の神だった。
それぞれがそれぞれの神の信徒となり、やがて神官になった。
ダーギャの頭脳ともいえたトゥギャは、自由神の神官を選んだ。
加護が自由度の拡張しかないから、この世界では微妙な効果しかないと伝えたのだけど、トゥギャの意思は強かった。
「自由の神の神官さま。あなた、強い。ボクも、そうなりたい」
純粋な瞳とともに言われてしまうと、拒否し難い。
最終的には俺が折れて、トゥギャは晴れて自由神の助祭になった。
そうして、集落から追い出されて五日経つと、全てのゴブリンたちが、何らかの神の信徒となり、何らかの職を得ていた。
その後で、俺は彼らに簡単なレクチャーをした。
就いた職には、どんなことが出来るか、どう戦うのが効率がいいか。そして回復魔法や体にかける魔法には、待機時間が存在することも伝えた。
襲ってきた魔物や野生動物を相手に、俺が指示を出し、ゴブリンたちが戦うこともした。
最後の仕上げで、こう訓示した。
「では、これで私とはさよならです。皆さんは別々のゴブリンの集落に分かれて向かい、それぞれが祭る神に従っい、教えを広めててください。業喰の神なら多くの食料を勝ち取り、狩猟の神なら狩りをして暮らし、蛮種の神なら欲望に従い、自由の神なら心のままに行動するのです」
「「「「ギギギィ!」」」」
俺に一様に頭を下げた後で、ゴブリンたちは方々へと散っていった。
そしてトゥギャだけが、残った。
「貴方も行っていいのですよ?」
「トゥギャ、神官さま――戦司祭さまと、一緒にいきたい」
有り難い申し出だけど、自由神の神官として、忠告しないといけない。
「それは、貴方の心から求めることなのですか?」
「戦司祭さまみたいに、なりたい! 心から、思う!」
「ありがとうございます。けれど、私みたいになりたいのなら、私に突き従っては駄目ですよ」
「ギギィ? どうして?」
「今はエヴァレットがいますが、私は長いこと一人旅をしてきたのです。師事されるのではなく、旅の中から自由神の教えを学んできたのです。そんな私と同じようになりたいのなら、貴方はそれと同じ道を辿らないといけないのではありませんか?」
俺の説得を受けて、トゥギャは考え込んだ。
やがて、顔を上げてこちらを見つめる。
「分かりました。戦司祭さま、みたいになるため、他のゴブリンの集落、行きます。行って、自由の神を広めて、再び戦司祭さまに会いたい」
「ふふっ。私に許可を求める必要はありません。貴方が心から望む、そのままを行えばいいのです」
俺はトゥギャの頭を撫でてから、旅立たせるようにその背中を軽く押す。
トゥギャは一・二歩前に進み、振り返って俺の姿を目に焼き付けるように見ると、それからは振り返らずに森の奥へと消えていった。
それを見送ってから、俺は細く長く息を吐き出してから、エヴァレットに顔を向ける。
「ふーー……みんな、ちゃんと行きましたね」
「はい。しかし、神遣いさま。どうしてゴブリンなんかに、神の力をお授けくださったのですか?」
「それはもちろん、彼らがそう求めたから――それと、個人的に確かめたいことがあったからですね」
俺は手を振ってステータス画面を呼び出すと、枢騎士卿への試練の項目をタップする。
このクエストの達成条件は、自由の神の加護により色々とある。
新たに五千人を改宗する。神殿を十建立する。信徒の数を一万増やす。国教を自由神にする。国を乗っ取り代表者となる。他神の信徒を二千生け贄に捧げる。五千人規模の街を一つ殲滅する。町村を十個壊滅させる。他神の神殿を二十破壊する、などなど。
今回、俺がゴブリンたちで試したかったのは、条件を達成する方法について、フロイドワールド・オンラインと違うか確認したかったからだ。
つまりは、俺が自由の神ではない別の神の神官に偽装して、他者をその神の信者にすると、この条件にカウントはされるか否か。
そして、信徒化や神官化したゴブリンが、教えを広めて信者を獲得したり、他の条件を達成した場合、カウントされるか否かだ。
一つ目は検証が済んでいて、答えは否。自由神の信徒でないと、カウントされない。
二つ目は、一つ目が駄目だったことで、検証に時間がかかることになった。
まず、自由神の信徒を増やし、その信者が行うことをモニタリングしないと、カウントされるかは分からないからだ。
そんな説明をエヴァレットにすると、小首を傾げられてしまった。
「それでは、あの集落のゴブリン全員に他の神を祭らせるよりも、半分ほどを自由神の信徒にしておいた方がよかったように思いますが?」
「いえいえ。条件の中には、改宗するというものもあるのです。自由神の信者にするのなら、他の神を祭った後の方が、人数が少なくて済むのです。おや、そう考えると、今のところ唯一ゴブリンで自由神の神官であるトゥギャには、期待しないといけませんね」
エヴァレットが感心するようで恐れるような目を向けてくる。
「ゴブリンの集落の件を見て、貴方さまに出会えたことは運命であったと、強く思っております」
そう頭を下げてくるけど、あの集落での行動は大半が思い付きだから、そんな態度をしてくれるほどのことじゃないんだよね。
トゥギャが自由神を選んだことだって偶然だ。
今後、森を進む間に違う集落のゴブリンに会ったら、自分で自由神の信徒に使用って思っていたし。
結果オーライだから、態々そうエヴァレットに言って、不審がられる気はないから、黙っておくけどね。
「さて、ここでやるべきことは終えました。エヴァレット、ダークエルフの集落に案内をお願いしますね」
「はい、神遣いさま、お任せください」
エヴァレットは気分が高揚しているように、俺が渡していた鉈を振り回して、森を切り開いて進んでいく。
俺はその後に続きながら、クエストの達成条件に変化がないかをチラチラと見ていく。
そうして俺たちは、ダークエルフの集落を目指し、再び森の中を進み始めたのだった。
展開を考えるために、次回の更新は時間が空くかもしれません。




