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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
二章 悪しき者たちに会いに行こう
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二十九話 ゴブリンたちの狩りに同行してみた

 ギャルギャギャンの家を間借りして、ゴブリンの集落に泊まった。

 日が明けると、一日目に集落内での情報は粗方集めたので、狩りに出るゴブリンたちに同行させてもらった。

 もっとも、三人一組でかなり素早く森を移動するゴブリンたちを、俺は追いかけ続けることはできない。

 狩りの様子を見るという当初の目的は外れてしまったけど、せめて獲物ぐらいは持って返ろうと、エヴァレットとメギャギャと共に森を散策する。

 

「エヴァレット、なにか動物はいませんか?」

「少しお待ちください――あちらの木の上に、鳥の鳴き声が聞こえました。静かに移動しましょう」


 エヴァレットの耳の良さを利用して、野生動物の居場所を把握して狩りを行う。

 男性のゴブリンから一目置かれることが目的なので、取れた獲物が多ければ多いほどいいから、手段は選ばない。

 やがて少し先の木の枝に、艶めいた緑色の羽毛を持つハトのような鳥が見えた。

 メギャギャが矢を番えるのを押さえつつ、俺は杖の先を鳥に向け、小声で呪文を唱える。


「自由の神よ、目前の獲物を打て」


 誅打の魔法が完成し、野球ボール大の光る球が発射され、直撃した。

 鳥は木の枝から落ちて、地面の上でバタバタと暴れる。

 それを素早く近寄ったメギャギャが、金属製の大振りな短剣で止めを刺して、さらには首を刎ねる。

 たぶん、話に聞いたことのある血抜きってやつだろう。

 メギャギャは首の断面からダラダラと血をながす鳥を持ち上げて、こちらに嬉しげな笑みを向ける


「ギャギャ。神官さま、ダークエルフ、居て助かる。この鳥、美味しい」

「喜んでもらえて助かりました。でも、もっと量が欲しいところですよね。エヴァレット、次の獲物の音は聞こえませんか?」


 俺の求めに対して、エヴァレットは長い耳に手を添えてまで周囲の音を聞き集めてくれた。


「お待たせしました。大物を狙いつつ、他のゴブリンの行動範囲と重ならない、あちらに行きましょう」


 移動した先にいたのは、前に仕留めたことのある大ウサギの魔物、ラッビヘアだった。

 視線が合い、逃げ出そうとしたので、急いで横っ腹に誅打の魔法を食らわせる。


「我が神よ、目前の敵を打て」

「行きます!」


 腹を強打されて、ラッビヘアの逃げ足が止まった瞬間に、エヴァレットが走り出す。

 そして、手にしたナイフで骨ごと首を掻っ切った。

 致命傷を受けてラッビヘアが倒れると、メギャギャは大喜びした。


「ギギギッ!! これ、ごちそう! 蹴り強い、逃げる早い、あまりとれない!」


 普段より片言になりつつ、飛び跳ねて喜んでくれた。

 その様子に、俺だけでなくエヴァレットも思わずにっこりと笑ってしまう。


「じゃあ、解体しましょうか。まだ狩りを続けるつもりですし、終わったあとの運搬はお任せください」

「はい、お願いします。メギャギャ、手伝え」

「もちろん! 持って帰れば、みんな喜ぶ!」


 エヴァレットとメギャギャが手早く解体していると、どこから窓ガラスを鉄で引っかいたような異音が聞こえてきた。


「ギッキーーーーー!」


 俺は驚いて周囲を見回し、エヴァレットは痛そうに長い耳を押さえる。

 一方でメギャギャは、ラッビヘアの解体を止めて、大慌てで立ち上がって周囲に耳を向け始めた。


「どうかしたんですか?」

「あれ、ゴブリンの声。仲間、怪我したか、死んだときにする、鳴き声」


 その重要性に気付いて、俺はエヴァレットに顔を向ける。

 それと同時に、再びあの鳴き声がした。


「声がする方向はわかりますか?」

「ええ、大まかになら。近づけばよりはっきりするでしょう。ですが、ラッビヘアはどうするのですか?」


 ここで捨てるにはもったいないが、解体途中のラッビヘアは皮は剥がれているが、内臓は取り出す途中だ。

 試しにステータス画面を呼び出して押し付けてみるが、やっぱりアイテム欄には入らない。


「エヴァレット、大雑把で良いので内臓を切り放してください」

「はい、では!」


 ザクザクッとナイフで切る音が響き、ラッビヘアの体から雑に切り放された内臓が出される。

 もう一度画面を押し付けると、今度は収納できた。


「これでいいでしょう。では声のする方向へ急ぎましょう」

「はい。こちらです!」

「え、あ、待って、欲しい!」


 俺とエヴァレットが走り出す。

 ラッビヘアを収納した光景で、驚き固まっていたメギャギャが、慌てて後についてきた。




 鳴き声の元に到着すると、刃物傷を受けて死んだ大きな猪と、それを倒したらしきゴブリンが二人いた。

 ゴブリンの片方は鳴き声を上げ、もう片方は潰れた片足から血を流してぐったりしていた。

 あまりの光景に驚いていると、他の狩りに出ていた男のゴブリンたちも集まってくる。

 そしてこの状況を見ると、足が片方潰れたゴブリンに声をかけてから、猪を運ぼうと手分けし始めた。

 この変な行動について、メギャギャに尋ねる。


「どうして、怪我人を助けないのか?」


 すると、メギャギャは静かに首を横に振る。


「あの傷、治らない。足を切るしかない。でも、足切ったら、助からない。他のゴブリン、イノシシ持っていく。あいつ囮にして、何人かで魔物待つ。倒して食べ物にする」


 語ってくれた理由は、大分シビアなものだった。

 でも、狩りをする男のゴブリンにとっては共通の考えなのだろう、怪我をした方も無事な方も当たり前に受け入れているように見える。

 俺はゴブリンのこの価値観を遵守するかどうか迷い、こう聞いてみることにした。


「メギャギャ。あの人の傷、私は治せる。治したら、嬉しいですか?」


 これは予想外の申し出だったのか、メギャギャは目を大きく見開く。


「治せる? あいつ、死なない?」

「死なないじゃなく、立って歩けるようになる」


 自信を持ってそう言うと、メギャギャは地面に伏せて俺に頼んできた。


「なら頼む! 今日、食べる肉、全て差し出す! 足りないなら、働きで返す!」


 メギャギャの行動を見た他のゴブリンたちは、二・三言葉を交わしてから、慌てて同じように地面に伏せる。


「タスケテ、ホシイ、デス!」

「タスケテ、タスケテ!」

「サンキユ、シタ!」

「キユ、シタ!」 


 懇願する片言とゴブリン語の合唱が始まり、俺は少し困惑した。

 しかし、足が潰れたゴブリンは危険な状態なので、そうも言っていられない。


「分かりました。少しそのゴブリンから、離れていてください」

「ギギッ、分かった! サルナ! サルナ!」


 メギャギャの号令で、怪我したゴブリンから一定の距離を取ったことを確認してから、俺は魔法の呪文を唱え始める。


「自由の神よ、困難を戦い抜き、絶望することなく敢闘せし者に、最大級の癒しと身を蝕む物の除外をこいねがう」


 エヴァレットに出会ったときにも使った、単体限定最上級回復魔法リミテッドグレイトヒールが発動。

 出現した光る円から溢れ出た光の奔流が、怪我したゴブリンを包み込む。

 効果が終了して光が納まると、潰れた足は元通りになり、ぐったりしていたのが嘘みたいに元気そうな姿になっていた。


「ギギギィ!?」


 自分の回復っぷりが信じられないのだろう、怪我をしていたゴブリンは潰れていたはずの足をしきりに動かしている。

 そして治る姿を見ていたゴブリンたちも集まり、その足を撫でさすって元通りになっていることを確認していた。

 その後で、この場にいるゴブリン全員が、俺に向かって土下座のような行動をとった。

 代表してお礼を言うのは、メギャギャだ。


「神官さま。偉大な、神官さま。邪神の力で、治してくれて、ありがとう、ございます」


 トランジェが崇めているのは邪神じゃないんだけどなぁ、とは思いつつも、お礼は確りと受け取っておこう。


「いえいえ。集落で既に一晩お世話になっているので、この程度はおやすい御用です――」


 思わず普通に喋っていると、ゴブリンたちが理解出来ていない顔をしていることに気がついた。

 慌てて、分かりやすい言葉で、後半部分を言い換える。


「――あなたたちも、あなたの家族も、怪我や病気があるなら、治す。言ってきなさい」


 普通の言葉を理解できるゴブリンたちが出来ない方へと伝えると、おおー! っと歓声が上がった。

 そのことに気を良くしながらも、俺の使う魔法には回復待機時間があるので、釘を刺しておかないといけない。


「でも、治した人、静か休む。一日、働くの駄目。分かった?」


 魔法ごとに待機時間は異なるのだけど、十二時間以上かかる魔法は存在しないので、一日と期限を区切っておいた。

 すると、怪我をしたゴブリンが何かを言いかけるが、周囲のゴブリンたちが止めて黙らせる。

 その代わりに喋るのは、メギャギャだ。


「偉大な、神官さまの、言うとおりにする。怪我、病気、治した人、一日仕事なしにする」


 どうやら分かってくれたみたいで安心すると、メギャギャが身振りで周囲のゴブリンたちに指示を出した。

 彼らは俺に礼をしてから、猪と怪我をしていたゴブリンを担ぎ上げて、集落の方へと去っていく。

 予想外の運び方に驚いていたけれど、ほどなくメギャギャに言われて、俺とエヴァレットは狩りを再開させた。

 中天を日が過ぎるぐらいまで続け、収獲はラッビヘア一匹、鳥が五匹、大きな鼠が三匹と、メギャギャに言わせると大成果ならしい。

 これはどうでもいいことだけど、鼠って食べられるものなのか、それが心配だった。



 狩りに出ていた男性のゴブリンたちとは、怪我人を治した一件で親密になった。

 集落で今日の獲物を使った料理を振舞われている際に、なにかしら特徴的な歌や動きがないかを聞いていった。

 この情報収集の成果は、あったようななかったような、微妙なものだった。

 実は、あのメギャギャに見せてもらった歌と踊り。

 あれは何パターンか存在していて、ギャの名前のある男性ゴブリンの多くが披露してくれた。

 それはいいとして、その最中にゴブリンの間で争いが起きたのだ。


「サーペッ! バイゥ、ドウヒアンソ!」

「シュジン、ウノーペッバ! サンヤァシダ!」


 どういうことなのかなと、メギャギャに尋ねてみた。


「二人の踊り、違っている、合っている。言い争っている」

「どっちが、本当?」

「二人とも、メギャギャが習ったのと、違う」


 という返答が返ってきた。

 このギャの名前を持つゴブリンでも、歌と踊りを間違って覚えていると考えると、嫌な予想が一つ浮かぶ。

 それは、元となった歌と動きが改変されて、意味のないものになっている可能性があるということ。

 そうなると、狩猟の神、蛮種の神、業喰の神と絞り込んだ、俺の努力が無に返ってしまう。

 けど幸いなことに、披露してくれた踊りの幾つかには、共通する振り付けが存在していることが分かった。

 そしてそのお蔭で、この集落が崇めていた神を、判別することができた。

 それは――業喰の神。

 フロイドワールド・オンラインの中では、知性の薄い食いしん坊な魔物や種族の敵キャラに加護を与えていた、正真正銘の邪神だ。

 ゴブリンらしいといえば、らしい神ではある。

 けれど、この世界のゴブリンは知的なので、合わないような気がしないでもない。

 もっとも、メギャギャたちの祖先が崇めた神が、フロイドワールド・オンラインの神だった場合に限ることなので、確定的ともいえないのだけど。


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