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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
二章 悪しき者たちに会いに行こう
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二十八話 ゴブリンさんに暮らしぶりを聞いてみよう

 ギャルギャギャン長老の許しを得て、俺とエヴァレット、そしてメギャギャは集落の中を巡っていく。

 ゴブリンたちは、ちょうど家事をする時間のようだった。

 採ってきたらしき木の実の選定や、輪切りにした木に服を叩きつけて洗濯をしている。

 どうやら一族全体で、役割分担して働いているようだ。

 

「よく働いているみたいですね」

「ゴブリンがこれほど理知的だとは、同じ悪とされるダークエルフですが、知りませんでした」


 働きっぷりに俺たちが感心していると、メギャギャは誇らしげな態度になった。


「ギャの女、働き者。他のゴブリンたち、うらやましがって、嫁に欲しがる」


 メギャギャの嬉しそうに言葉を聞いて、顔や体形で分からなかったけど、どうやら集落内で働いているゴブリンは全員がメス――じゃない、女性らしい。


「では、男のゴブリンたち、何している?」

「森に出て、狩りするか、他の人を警戒する。雨は集落の守りと、道具を作る」

「子供たちは?」

「男なら森に連れてく、女なら家事を手伝う」


 もう一度観察しなおすと、たしかに背丈の小さなゴブリンがいた。

 ふむ。ゴブリンたちは、典型的な狩猟民族の暮らしぶりをしているのか。

 どんな事をやっているか、詳しく観察しようとして、ゴブリンたちは俺たちに気付いたようだ。

 メギャギャに対して好意的な反応をする反面、よそ者の俺たちを見ての反応は様々だ。

 人間の俺に怯える者、逆に珍しそうに見る者もいる。

 ダークエルフのエヴァレットに不思議そうな顔を向けたり、ゴブリン同士で内緒話を始めたりもしている。

 色々な反応があるけど、警戒感は持たれているようで、近寄ってこようとはしない。

 ならこちらから声をかけようか。

 洗濯をしているゴブリンの集団がいいかな。


「こんにちは。どうやって、服を洗っているの?」


 ゆっくりとした口調で話しかけると、大いに驚かれてしまった。


「タキィテ、ケカヲバゥ、トクガ、ニンゲン!?!?」

「ミサー、チョッイィ、テンナ?」


 洗濯していたゴブリンたちは、慌てて仲間内でゴブリン語で話し始める。

 ああ、そういえば、ほとんどのゴブリンは名前にギャがない――つまり能力が劣っているんだった。

 どうしようかとメギャギャに視線を向けると、通訳してくれた。


「ニンゲン、ジンサン、ムーレア」

「ムーレア? ヨーシー、ムーレア?」


 メギャギャに促されたのか、ゴブリンの一人がおずおずとした感じで、俺に洗濯の仕方を見せてくれた。

 服に灰っぽいものと水を振りかけてから、べしべしと木の輪切り板に叩きつけたり、押し付けて揉んだりしている。

 よく見ると、板にはデコボコになっていて、洗濯板みたいだった。

 服から出る水がより黒くなっていることから、ちゃんと洗えているみたいだ。


「へぇ……あ、私のことは気にせずに、お仕事してください」

「チュンガン、タマセーンア」


 メギャギャの通訳の後で、ゴブリンたちは洗濯作業に戻っていった。

 俺は迷惑と知りつつ、その作業を近くで見させてもらったのだけど、特に変わった動きとかはない。

 しばらく観察して、別の仕事をしているゴブリンたちの様子も見させてもらった。

 けど、あまり特徴的な動きをしていたりはしていないようだ。

 少しでも文化的な生活をしているなら、生活の一部に神事の動きや言葉を取り入れることもあるから、ゴブリンの神についてのヒントがあるかと思ったんだけどなぁ。

 少し当てが外れたので、今度はゴブリンたちの家を見ていく。

 原始的な高床式の家だけど、種族的に背が低いからだろう、天井は低く作られている。

 扉や壁は至って普通の木板で、なにかしらの模様を描いたり刻んだりはしていない。

 家の中は、吊るされた干し肉や木の実があるけれど、なにかの像や彫刻があったりはしない。

 ゴブリンが崇めていた神の手がかりを求めて、集落の人たちに、ゴブリン独自の遊びや歌を教えてもらった。

 内容をメギャギャに説明を頼むと、単なる手遊びや普通の意味の歌でしかなく、宗教的な意味合いはないみたいだ。



 一通り集落を探索したのに、手がかりが見つからない。

 ここまでないのは、大昔に聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒が、邪教文化を徹底的に破壊したからだろう。

 だけど、ゴブリンに知恵はある。

 なら、巧妙に隠して伝えていたものもあるはずなんだけどなぁ……。


「メギャギャ。ギャのつくゴブリンしか、知らないことはない?」


 何でも良いから手がかりが欲しいので、そう思いつきで聞いてみた。

 すると、メギャギャは少し考えてから、ある歌を唄い始めた。


「メンタルス、クュジューチヲ~、テグルクーナーウド~♪ アンキワ、ヲンムーケ、クサムゥ♪ イカンヨ、ウンサリン、チャシタギンヒジナンカ、サヌーユ、ヲチーカク、サウム~♪」


 勇ましくも楽しそうな調べの歌をメギャギャは、腕を振り上げ、胸を叩き、足踏みしながら披露してくれる。


「イカン、ウヨルクィ、デヨイカンサ~♪ カチガチーカ、ラビサヲゥ、トーヒクサムゥ~♪」


 そうして最後まで唄い、終わりを示すように頭を下げてくれた。

 俺とエヴァレットが拍手すると、メギャギャは照れているようだった。


「これ、狩りの歌。頭のいいゴブリンだけ、覚える。動きと歌、長くて難しい」

「だから、私が尋ねたように、ギャの名をもつゴブリンしか知らないわけですね」


 うんうんと、誇らしげに頷いているメギャギャには悪いのだけど――


「――それで、その歌。どういう意味?」

「ギギィィ!? 意味、ちょっと待って!」


 腕を組んで唸りながら、メギャギャはゴブリン語の歌を、俺たちが使う言葉に変換してくれているようだ。


「う~……だいたい、こんな意味。楽しく狩りをする。獲物が近寄ってくる。獲物の肉、皆で食べて強くなる」


 長い歌の割りには、かなり短い。

 たぶん、難しい表現とか、ゴブリンにしか分からない表現部分とかを、取り外したのだろう。

 そういうところが、神を調べるクエストだと、重要な部分だったんだけどなぁ……。

 けど、この『楽しい狩りの歌(仮)』を聞いて、収穫はあった。

 メギャギャの動きと、歌の内容にあった『狩りが楽しい』と『食べて強くなる』部分だ。

 そのどれも、俺がフロイドワールド・オンラインで見たり聞いたりした、ある神の信徒の特徴に合っている。

 しかし、問題があった。

 それは、複数の候補があるってことだ。

 フロイドワールド・オンラインは多数の神がいて、総数は約五十。

 狩りや食べるという教義で絞りこんでも、五つぐらい候補が残ってしまうんだよな。

 ここにメギャギャのやっていた動きを参考に入れて、ようやく三つに絞り込める。

 その三つとは、メジャーからマイナーの順で、狩猟の神、蛮種の神、業喰の神だ。

 さて、この三つのどれかなのか、それとも違うのか。

 もう少しこの集落に留まって確証を得てから、長老で色々と知っていそうなギャルギャギャンに伝えてみるとしようかな。


ゴブリン語が分かり易くて不評なようだったので、色々と変更してみました。

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