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番外十七 レア装備を纏う者たちの愚痴

 フロイドワールド・オンラインには、高級プレイヤーホームの街がある。

 その一角にある家屋の中に、トランジェに罠にハメられてアイテムをプレイヤーキラーに奪われた、レア装備を身に纏った一団がいた。

 普段は冒険終わりは和気あいあいとした雰囲気なのだが、今日ばかりは違った。

 プレイヤーキラーに殺されてしまったショックで、早々に二名がログアウトしていまい、残りもお通夜のような雰囲気だ。

 そんな中、真っ先に愚痴ったのは、最後まで生き残ってはいた、あの正義の神を信奉する騎士だ。


「あーあ、散々な結果になっちまったなぁ……」


 彼はステータス画面のアイテム欄を見ながら黄昏る。


「予備武器とはいえ、作るのに苦労した武器を奪われてしまった」


 日頃使うことがなかった武器とはいえ、なくなってみると寂しさが止まらない。

 その気持ちが分かるのか、隣のドワーフの槌遣いも愚痴りだす。


「あの武器の材料は、もう手に入らんものだ。また作るというわけにもいかん」

「それを言うなら私だってそうよ。奪われたの、限定イベントのアイテムなんだから!」


 エルフの女性が声高に主張すると、巫女服の少女が項垂れる。


「ヒーリングマネージャーなのに回復に失敗したから、ランク下のプレイヤーキラーにやられちゃって、ごめんなさい」


 あまりに痛恨事のように語るので、他の面々は慌てて機嫌を取っていく。


「君の所為じゃないって。あれは、向こうのヒーリングマネージャーだった、あの自由の神の神官が上手過ぎたんだ」

「そうだとも。自由の神の魔法による再回復待機時間は、普通の神と違っていると聞く。勝手が違って当然だ」

「そうよ。悪いのは、その自由の神の神官よ。今度見かけたら、逆襲してやればいいの!」

「……慰めてくれて、ありがとうございます」


 巫女服の気持ちが元に戻った様子に、一同はホッと安堵した。

 そして話の流れは、自由の神の神官――トランジェへと向けられる。


「それにしても、上手く罠にハメられちまったよな。俺の正義の神の加護の特性を逆用するなんて」

「今や正義の神の信徒は、クエストをこなすパーティーでは一人は必須でいるような状況じゃ。その対策を立てれば、一人は必ず刺さるようなもんだ」

「カルマが中立か善だと、身動きが取れなくなるんだったわね。じゃあ、どこかであの神官を見かけても、私たちは攻撃できないってことじゃない?」

「そうですね。正義の神じゃなくても、善神に当たる神の信者だと、カルマが悪になるような行動には、ペナルティーがありますし……」


 一同はそろって腕組みして、考え込む。


「俺たちが悪の神の信者なら、偽装で別の神の信者に偽って攻撃できるのにな」

「そも、悪の信者なら、カルマを気にせんでいいだろうに」

「いっそ、あの神官を倒すまで、違う神に宗旨替えすればいいんじゃないかしら」

「でも、私たちの神さまって、信仰できるようになるまで、色々と大変でしたよ」

「そうだったよな。正義の神なんて、警察まがいのクエストを十何日も連続でやらされたしな」

「鍛冶の神は簡単に宗旨替えできるが、蓄積された年月によって、作成した物の品質に多くの補正がかかるのだ」

「森林の女神なんて、信者と認められるまで、森での拾得物で過ごさないといけないのだったわ。あれ、二度とご免な面倒なクエストだったわ」

「大地の女神は初期選択できる神ですけど、宗旨替えしたら、回復魔法がいくつか消えちゃうんです」

「そうなると、あの神官に復讐することは、諦めないといけないってことか……」


 結論が出て、面々がそろってため息を吐いた。


「楽々と復讐ができない、よく出来た仕組みだな。流石に善と悪を渡り歩いているだけはある」

「あやつを襲う算段を整えるぐらいなら、無名のプレイヤーキラーを探す方が楽だ」

「そうしてこちらが諦めるから、あの神官は平然とまた凶行を繰り返せるのよ!」

「でも、ヒーリングマネージャーとしては、腕のいい人でしたよ?」


 巫女服が庇うような発言をすると、エルフが怒り始めた。


「あなた、腕で負けて悔しくないの!」

「悔しいですけど。でもやっぱり、凄いなって気持ちのほうが強くて……」

「実際、うちのヒーリングマネージャーが遅れをとるなんて、滅多にないことだしな」

「あの腕前だけは、褒めてやらねばならんだろ」

「二人まで!?」


 愕然とするエルフに、正義の神の騎士が微笑みを向ける。


「あの神官は金や物品で雇えるって聞くし、一度組んでクエスト受けてみないか?」

「なに考えているのよ。敵だったのよ!」

「敵だからだよ。間近で彼の腕を拝見させてもらって、つけ入る隙が見つかればよし、見つからなければ素直に称賛して諦めようぜ」

「……正義の騎士らしくない、姑息な手段ね」

「なんとでも言え。正しい騎士様なのは、仮想世界の話だ。現実じゃ、リアリストなんでね」

「こやつが正義の神を選んだのは、主義主張ではなくステータス補正を重視したからだぞ」

「掲示板にありましたよね。正義の神の信徒ほど、正義っぽくない人たちはいないって」


 話題が脱線したことで、彼らの雰囲気が普段のものに近づいてきた。

 エルフの女性も、少し憤然とはしているものの、殊更に怒る気概はなくなったようだ。


「分かったわよ。じゃあ、自由の神の神官にコンタクトを取りましょう。誰か、連絡方法知っている?」

「伝手を辿れば、知っているヤツが居ると思う。なにせアイツは、手広く手を組んだり放したりする有名人だからな」

「奴に世話になったものは、善側のプレイヤーにも多い。苦労せずに探せるだろ」

「一緒に行動できたら、ヒーリングマネージャーを上達するコツを教えてもらいたいです」

「私はあのプレイスタイルに、ちょっと文句を言ってやりたいわ」


 レア装備たちは話をまとめると、それぞれが伝手を頼って、トランジェに連絡を取ろうと試み始めた。

 それが実現するかどうかは、少し先の未来の話である。

来週、更新できるか怪しいです。

更新がなかったら、ごめんなさい。

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