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番外十五 特殊部隊

曜日を勘違いしていて、更新が遅くなりました。


 光の部分があれば闇の部分がある。

 どれはどんな場所でも時間でも関係はない。

 それこそ、古さによって半分に割れた国であろうと、割れた部分から独立した新しい国であろうと。

 

 


 旧国領内のとある村。

 この場所はある特徴があった。

 住んでいる全員が聖大神教団の関係者だけで、普通の村人は一人も住んではいないこと。

 そして村という体裁は取っているものの、大きな教会が一つと、付随して作られた宿舎、そしてそれらを広く取り囲む壁しかない点だ。

 そんな不可思議な建物しかない風景に似つかわしく、住んでいる人たちもまた一風変わっていた。

 そこには大勢の神官が住んでいるが、その殆どが何らかの特殊技能を持った人物である。


 例えば、兵士のように戦いに特化した人物。

 例えば、計算力しか取り柄のない偏屈者。

 例えば、熱心に聖大神を信仰しすぎた人格破綻者。


 そんな変人と呼んで差し支えのない人ばかりが、この場所に送られ、教師として働かされている。

 そう教師だ。

 では生徒はどうか。

 もちろん、ここに住む子供たちも、一風変わっている。


 ある子供は、額に目がある。

 ある子供は、目の虹彩が三角形。

 ある子供は、下半身が馬である。


 そんな異形としか呼べない子たちが多くいる。

 もちろん、普通の見た目の子供もいる。

 しかし見た目が普通なだけで、異常なほど力持ちだったり、片手を失っても生えてきたり、光の一切を締め出した空間で平然と物を見るなど、変わった特技を持っていた。

 そんな子供たちの親は、この場所にいない。

 なぜなら、方々の土地から密かに引き取られてきたからだ。

 異形の姿の者は親が教会へ手放し、普通の見た目の子は神の祝福が効かない悪しき者として奪い取られた。

 この子供たちを、聖大神の教団の上層部は、邪神の残滓に呪われた子供と呼んでいる。

 その子らは社会秩序を破壊しかねないとして、秘密にされた各地で隔離し、ある一定の年齢まで偏った教育を施して育てている。

 そう、この不思議な村は、呪われた子供を集めて育てる施設の一つなのだ。



 

 この日も、子供たちは変わり者の大人たちに、厳しい教育を受けさせられていた。


「さあ、解け、解くんだ! 額に角を持つ者は、計算力に優れていることは分かっているんだ!」


 偏屈な数学者が、十にも満たない子供に、幾何学と数字で埋め尽くされた紙を押し付けている。


「休むな動け! その長く太い腕は飾りなのか!」


 戦闘狂が容赦なく木剣を打ち付け、腕以外は骨と皮が目立つ子供を吹っ飛ばす。


「駄目だ駄目だ。そんな言葉じゃ、神は君をお救いにならない。もっと心を込めて!」


 神に狂った者により、変声期前の喉が潰れるまで、子供たちに聖教本を輪唱させる。

 その他諸々、まさに人道に反した行為の見本市のような有様だが、誰も意義を唱えない。

 大人たちは、自分たちの能力を生かせる場所を与えられたと喜び、そしてここの子供に人権などないと考えていた。

 上層部からは極力壊すなと言われてはいるが、壊れても罰せられることはない。

 優秀に育ててろと言われているが、育てた後のことなど考えない教育が施される。

 そう、この村では、子供たちは備品も同然。

 ただ考えて動くことのできて、代わりがいくらでも現れる、便利な物体でしかない。

 子供たちだって、生まれてからずっとこの環境にいるため、これが普通だと誤解してしまっている。

 むしろ、この村にいることが幸せであると、自殺はしてはいけないことと刷り込まれ、物理的精神的共に逃げ出そうという発想すら起きない。

 こうした歪な環境で育てられているのだ、まともに育つはずもない。

 だが育て終えたら、汚れ仕事を任せる駒として、各部署各所に派遣され使い潰すための存在だ。

 呪われた存在に善行を積ませることで、呪いを浄化するという名目で、死ぬまで働かせる。

 そして子供たちが大人になって外の環境を知り、その仕事がおかしいと感じるほど成長したころには、抜け出せないほど深みにはまっている。

 結局は、聖大神の教団から逃げ出す道はない。

 少なくとも、旧国内ではそうであるはずだった。

 唐突に、村を囲む高い壁の一角が、爆発で吹っ飛ぶまでは。




 明るい閃光と共に、破砕された壁の石材が飛び散り、爆風がそれをさらに遠方へと加速させた。

 耳をつんざく爆音は、教会全体を震わせ、立っていた人物は全て転んだ。


「なんだ、何が起きたんだ!?」


 子供相手に偉そうに剣を振るっていた男が、尻もちをついて慌てふためいている。

 強大なはずの男が狼狽えている様子に、居合わせた子供たちは地面に倒れたままで、なにかが変だと感づき始める。

 それと同じ光景が、教会の至る場所、全ての教師と生徒の間で起こっていた。

 そして混乱は、さらに加速する。

 爆破解体された壁から、金属鎧を着た見知らぬ人たちが入ってきたのだ。


「誰だね、君たちは! この場所を、なにと知っての狼藉かね!」


 たまたま運動場で子供の体に信仰を刻み込んでいた、聖大神を愛する男が誰何する。

 その、返答は彼の顔に斧を叩きこみながら行われた。


「うるせぇ。思い出してムカつくんだよ、死ね」


 頭を半分吹っ飛ばされて、男は愛する聖大神の下へと旅立った。

 斧を持つ男性は、死体を見ることなく、次の獲物を探す目で教会の中を目指して歩いていく。

 一方、壁の穴から一緒に入ってきた者たちは、運動場で転がる異形の子供たちを介抱する。

 その際に、彼らも自分にある異形の部分を見せていた。


「見てごらん。僕らも君たちの仲間だよ」

「さあ、いい場所に連れて行ってあげる。あの壁の穴から一緒に出ましょう」

「馬車って知ってるかなぁ? 知らない? じゃあ見せてあげるよ」


 子供たちは教会の外に出るという提案に若干渋ったが、大人に逆らうという意識が薄いことと、自分たちと似た特徴のある人達という仲間意識から、最終的には従った。

 先を進む斧を持った男性は、教師を見つける度に攻撃して、人を肉塊に変えている。

 その際、困惑する子供に向かって、命令するように吠え立てる。


「全員、運動場に移動だ。急げ!」

「「は、はい!」」


 条件反射的に、子供たちは運動場までかける。

 そして先に壁の外へ移動する仲間を見て、真似をするようについていく。

 そのため脱出する子供の数は、時間を経るごとに増えていった。

 壁の外で待機させられた数台ある馬車は、子供という荷物が満杯になる端から、どこかへ向かって出発していく。

 斧の男性は、入念に建物という建物を見て回り、隠れている者がいれば引きずり出し、隠し扉があれば斧でこじ開ける。

 そして教師がいれば殺し、生徒がいれば外へ出るように命令を続けた。

 そうして全ての確認し終えると、血に濡れた斧を担いで、壁に開けた穴まで戻ってきた。

 そこには、彼を待っていたかのように、異形の特徴を持つ大人が二人立っていた。


「どうしたんだ。先に馬車に乗って、ガキどもを護衛しているんじゃなかったのか?」

「それが、予想外に人数が多くて」

「この子たちを担いで運ばなきゃならなくなったってわけよ」


 獣のように体毛がフサフサな女性が指す先には、虐待痕が生々しい子供が三人取り残されていた。

 斧の男性が壁の穴から外を覗くが、馬車は一台も残っていなかった。


「マジか……」

「本当だよ。ほら、その子を抱えて。走るよ」

「そうそう。こういった場所の襲撃を繰り返しているからさ、ぐずぐすしていると国軍が来ちゃうと思うわ」

「はぁ、仕方がねえな。計画では、馬車の一つに空きがあるはずだったんだがなぁ」


 愚痴りながら子供を抱えようとして、斧の男性は固まった。


「……おい、なんでオレの担当が『また』女の子なんだよ」

「またまた、理由なんて分かっているクセに」

「そうそう。運ばれるなら、カッコいい救世主さまがいいんだってよ」


 からかい口調で語った二人は、さっさと子供を抱えて、壁の穴から外へと走り去っていってしまった。

 斧の男性が舌打ちすると、目の前にいる五歳くらいの女の子が怯えた表情になる。

 彼はしまったという顔をすると、後ろ頭を掻いてから、ぎこちない笑顔を向けた。


「まずは挨拶だ。オレはマッビシュー。君と同じ、呪われた子だったものだ。君の名前は」

「ヌーリス。そう呼ばれていたよ、マッビシューお兄ちゃん」

「お兄ちゃ……ああ、なんとでも呼んでくれ。それじゃあ、ヌーリス。肩に抱えて運ぶから、服をしっかりと掴んでいてくれよ」


 マッビシューと名乗った斧の男性は、綿の入った枕のようにヌーリスを片手で釣り上げ、顔を進行方向に向かせた状態で左肩に彼女のお腹を乗っけた。

 ヌーリスは指示通りに、ぎゅっと小さな両手で服を掴む。 

 その力の頼りなさに参ったような顔で、マッビシューは左腕を彼女の腰に巻き付けた。


「よし、走るからな。口は閉じていろ、舌を噛むから」


 コクコクと頷くヌーリスを見て、マッビシューは壁の外へ走り出した。

 あっという間に後ろに流れる景色、彼の足が生み出す躍動感、そして体を押さえる力強い腕。

 そのどれもが、ヌーリスという少女に感動を与え、顔を輝かせる原動力に変わる。

 マッビシューはそんな少女の変化を見て、ため息を吐きたそうな引き攣った笑い顔に変わる。

 偏った教育の弊害か、彼が同じような施設から女の子を助けた後、必ず言われる言葉があるからだ。


「わたし、マッビシューお兄さんのお嫁さんになる!」


 もしこのヌーリスが同じ言葉を発したら、彼の嫁さん候補はめでたく十人目に突入することになるのである。



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