二十話 審問の続きです
バークリステの背中から流れ出た血が、地面に流れ落ちた。
結構な量に見えて慌てて駆け寄ると、右肩甲骨から左わき腹辺りにかけて、ぱっくりとした傷が。
かなりの深手じゃないか!
「女性の背中に斬りつけるなんて、何を考えているんですか!」
糾弾するのは後だ、治癒魔法をかけないと。
でもその前に、ペンテクルスが俺を押して退かしてきた。
「ふん、まだ黙って見ていろ。ううんッ――おお、ワガハイが敬愛する聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスよ! その唯一の神であらせられるその御力を持って、わが従者の背につけられし傷を疾く疾く癒したまえ!」
ペンテクルスは高らかに宣言した後で、血のついた剣の先をバークリステの背に向ける。
おいおい、傷をつけたのはお前だろうと思っていると、彼の剣先に光る円が現れた。
そしてそこから、キラキラとした光の粒子が放たれる。
俺はそれを見て、少し驚いていた。
フロイドワールド・オンラインの魔法に似ている。
けれど、円は小さいしエフェクトも違っているように見えた。
そんな違いを観察していると、ペンテクルスの使う魔法の光の粒子量が薄いことに気がついた。
フロイドワールド・オンラインの常識に照らすと、これは弱い魔法の特徴だった。
そんな魔法で、この深手が治るのか?
俺のそんな心配とは裏腹に、ペンテクルスの魔法は効いているようで、バークリステの傷口が閉じていく。
そう、閉じていくのだ。
フロイドワールド・オンラインの魔法だったら、傷痕ごと消え失せるはず。
俺がエヴァレットの傷を治したときは、少なくともそうだった。
となると、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官が使う魔法は、フロイドワールド・オンラインとは違うものなのか?
そんな考察をしている間に、バークリステの傷は治り続け、跡形もなく――じゃない、傷痕が残ってしまっていた。
傷痕が消えないかと少し待ったが、結局消えることはなさそうだった。
そんな中途半端な結果を見て、もやもやした気分になる。
しかし、ペンテクルスは自慢げにする。
「さあ、貴様も神官だと言うなら、これと同じことをやってみせろ!」
「……同じこと? つまりバークリステさんを斬りつけて血を流させ、その後で治療しろと?」
何言っているんだこいつはと思って軽く睨んだが、ペンテクルスは勝ち誇ったような笑みを返してきた。
「ふふん、こっちは知っているぞ。貴様がこの村の住民に、調合した薬を卸していることはな。だから条件をつけさせてもらう。貴様が自分を神官だと証明するためには、治癒魔法のみでバークリステの傷を癒してみせろ」
何か勘違いしているようだから、もう一度言ってやろう。
「ふふふっ、面白いことを言いますね。何の罪のない人の血で、この手を汚せと。それでも貴方は、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官なのですか?」
「ふふん。そういう挑発には乗らないぞ。なに、斬りつけるのが嫌だというのはら、ワガハイがやってやるから心配するな」
なんだか変に勘違いされたまま、またバークリステを斬ろうとしてきた。
俺は慌てて彼女を抱き寄せて、ペンテクルスの凶刃から避けさせる。
「分かりました。傷を治してみせればいいんですね! やりますから先ずその剣を仕舞ってください!」
「おーおー、焦りおって。しかしこの剣で傷をつけずに、どうやって怪我の治療をするのだ?」
「決まっているでしょう。バークリステさんの傷痕を綺麗さっぱりと消してご覧に入れます。それとも何ですか? 貴方のしょぼい回復魔法で残ってしまった傷を治してしまうと、沽券にかかわるから止めてくれとでも言いたいのですか?」
腹立ち紛れに、挑発するような言葉を使ってしまう。
だけど、すぐに反省した。
いけない、いけない。感情的になると、取り返しのつかない失敗をしてしまう。ペンテクルスが良い例じゃないか。
そう心の中で呟きながら、ペンテクルスを観察すると、挑発混じりの言葉だったのに怒っていない。
むしろ、笑っていた。
「そうかそうか。ではやってみせるといい。ワガハイはその様子を、椅子に座って観察させてもらおう」
ペンテクルスにしては変に聞き分けがいいことに、俺は異常を感じて警戒した。
なんだ、ヤツの自信たっぷりな様子は。
まるで俺がバークリステを治せない、そう確信しているようじゃないか。
さっき、この村で薬をうんぬん、って話していたから、俺が回復魔法を使えないと勘違いしているのか?
いやでも、勘違いしていると捉えるのはまずい気がする。
俺はこの村で、二度も回復魔法を使っている。
一度目はオーヴェイさんの古傷。二度目は子供の擦りむいた手にだ。
ペンテクルスだけならともかく、バークリステが情報を収集していたなら、このことは掴んでいておかしくないはずだ。
なら俺が回復魔法が使えると知っていて、あえてバークリステの傷を治せと言った意味は、なんなんだ?
「おい。何を考えているかは知らんが、早く治療してみせろ。バークリステに刻まれた傷を、全部消してくれるんだろ?」
「分かってます。けどまずは、なにを置いても確認からです!」
「おーおー、そうかそうか。なら早くすることだ。こちらも暇ではないのだからな」
まずは罠に陥りそうな可能性を、一つ一つ潰していこう。
一番最初に考えたのは、ペンテクルスの使った魔法は、効果に反して回復待機時間がかなり長い種類な場合だ。
急かされてうっかりと回復魔法を使用したら、待機時間に弾かれて、偽りの神官だと烙印を押してくることが考えられた。
その可能性を考えて、俺はバークリステの傷痕に指を這わせ、数を確認する真似をする。
「……かなり傷痕が多いですね。一度では消しきれないかもしれませんので、何度かかけてみたいと思うのですが?」
これで拒否してくれれば、疑いは濃厚。
許可してきたら、待機時間は関係ないか、関係あっても回復魔法の光が弾かれるエフェクトがでるかで判別できるため、疑いは薄くなる。
ペンテクルスの答えはと言うと――
「構わないぞ。ただし、何日もかけないと治せないのでは困る。せめて明日の朝までには治してみせるがいい」
――ちッ、許可してきやがった。しかも、明日の朝までというかなり長い期間まで提示してきた。
となると、待機時間は関係ないだろう。
傷痕が残るぐらいの、しょぼい回復魔法で、半日以上も待機時間があるはずがない。
いや、これは俺の考え違いだったんだろう。
思わずフロイドワールド・オンラインの常識で考えたけど、元の世界でも回復待機時間なんてものがあったのは、フロイドワールド・オンラインだけだったのだ。それほど珍しいシステムだ。
なので普通に考えたら、この世界の回復魔法に待機時間はない、とするほうが自然だったはずだ。
ならどういうことかと、もう一度根元から考えてみる。
ペンテクルスに自信があることから、この試しは切り札的な、それこそ被疑者に対して必殺なもののはずだ。
そのことは、バークリステの体に刻まれた、この傷の多さからもわかる。
この傷がある回数だけ、ペンテクルスは被疑者を偽神官だと断罪できたことになるはずだからだ。
ということは、バークリステには回復魔法が効かない疑いがある。
いやでも、さっきは魔法で傷は治ったんだから、違うか。
もしかしたら、ペンテクルス以外の魔法を受け付けない体質とかか?
ありえる話かもしれないけど、そんな変な体質があるとは思えない。
そんな風に色々と考えながら傷を撫でていると、バークリステから声がかけられた
「あの、確認はまだ済みませんか?」
「ん? ええ、まだちょっとかかりそうです。それが何か?」
あれ、黙っているんじゃなかったっけ?
そう思いながら尋ねると、淡々とこう言ってきた。
「あまり体を指で弄り回されると、少し困ります。肌は傷ついていますが、れっきとした乙女ですので」
……ああ、そういうことか。
普段と変わらない平淡な顔と声だったから、急かしてきたのかと勘違いしたよ、もう。
「あ、ああー。それは気がつかなくて申し訳ない。そうですよね、女性の柔肌を男が突付きまわるなんて、破廉恥でした」
「いえ、存分に確かめて構いません。けれど、傷痕は少し敏感でくすぐったいので、触れるときは優しくお願いします」
「いえいえ、十分に傷は確かめられました。ですが、もう少し時間がかかりそうです。なので衆人の目のある場所で、裸のままは辛いでしょうから、服を着て待っていてはくれませんか?」
「いいえ。服を着た後で、その服には回復魔法を阻害する穢れがあったと、言われてはたまりませんので」
そういう逃れ方もあったのかと、感心してしまう。
すると、ペンテクルスから苦情が飛んできた
「おい、バークリステ。お前はこの審問では口を噤む約束だ。喋るんじゃない」
「はい。失礼いたしました」
「そしてトランジェ。貴様も、質問するより先に、回復魔法を試したらどうだ。できるのだったらな」
「分かってます。ですが、回復魔法は傷痕や病気の症状にあわせて使うものが少なくありません。それを間違えてしまっては、治るものも治りませんでしょう」
「ふんっ。そんな事は教えられなくても分かっている。ワガハイとて、神官なのだからな」
そうかよと思いながら、ペンテクルスの落ち着きっぷりに、嫌な予感しかしない。
なにせ、アイツは欠片も自分が負けるだなんて思っていない。
それも勝てる確かな根拠を持っている、としかあれほどの自信を持つ説明がつかない。
こうなると、バークリステには本当に回復魔法が通じない、そんなぐらい確実な理由しかありえない。
なにせ先ほど一度回復してみせたのだから、回復魔法が効かないなんて思いもしないからだ。
……待てよ。
待て待て、これじゃないか?
バークリステは回復魔法が効かないことこそが、ペンテクルスが自信を持つ理由なんじゃないか。
いや、より正しく表現するならこうか。
『バークリステは回復魔法が効かない。ただし二十四時間に一度だけ、大怪我を自力で回復することが出来る』
こういう能力を、バークリステは持っているんじゃないか。
そう考えれば、バークリステが斬られて俺が治そうとしたとき、ペンテクルスが押し退けたことに理由がつく。そして証明する期限がおよそ半日なことにも。
俺が回復魔法をかけるのと同時に彼女自身の力が発動して、あの大怪我が回復してしまったら、この策は意味がない。
けど、ペンテクルスが押し退けて自分が回復魔法をかけた――いや、回復魔法をかけて治ったように見せかけたらどうだ。
こちらに『バークリステには回復魔法が通じる』と誤認させられる、格好の材料になる。
もしもこの考えが当たっていたら、俺は詰んだことになる。
回復魔法が効かない相手に、回復魔法で回復させろなんて、ありえないからだ。
どうする。どう挽回するんだこの状況を。
思い悩んでいる俺に、ペンテクルスがまた声をかけてきた。
「おい。時間がかかるようなら、貴様の審問は仮置いて、あのダークエルフの審問に入りたいんだが」
先にそれをされると、俺が立てた計画が狂うので、止めないといけない。
「待ってください。ちょうど試したい秘蔵の回復魔法を、いま思い出しました」
「ほほう。その秘蔵の魔法とやらを、やってみるといい。思う存分とな」
口から出任せだったけど、とりあえずは止められた。
しかし回復魔法が効かない相手に、無意味と思いつつ回復魔法を書けることになるなんて。
ええい、なんでも試してみるしかない。
「私が信奉する神よ。この女性の体に残されし傷を――」
欠損回復系の魔法を使おうとして、ふとバークリステの瞳が気になった。
彼女の瞳が青かったのだ。
そのことに、俺は天啓に近いものを感じた。
もしこれが自由の神の授けてくれたものだったら、いままで以上に信奉することもやぶさかじゃない。
「――ちょっと失礼しますね」
俺はバークリステの顎を掴むと、軽く持ち上げる。
何をするのかとこちらを見てくるが、それだと判別がしにくい。
「少しの間、真っ直ぐに前だけを見ていてください」
変な要求にも、バークリステは素直に従う。
そして俺は心置きなく、角度に変化をつけて彼女の目を覗きこむことで、その瞳の奥にある色を見た。
赤い。赤だ。
最初にバークリステを見たときに、瞳が紫に見えたのは、不死者を表す赤い目が青い虹彩の奥に隠れていたためだったのだ。
この角度をつけて見る方法は、フロイドワールド・オンラインで不死者を見つけるときに定番のものだ。
バークリステほど見難い瞳となると、人の特徴を多く残し太陽の下でも活動可能な種族――半不死人か半吸血鬼のどっちか。
怪我の修復と、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官の従者となっていることから考えると、先祖還りの半吸血鬼の線が濃厚だろう。
そう考えると、肌も白金の髪も、半吸血鬼らしい特徴に思えるな。
こうしてバークリステの正体を確信したとき、俺は一つ前の審問でペンテクルスに自分で言ったことを思い出した。
『貴方は、本当に人間なのですか? 毛の薄い猿の獣人ではないのですか?』
これは単なる詭弁だったのだけど、バークリステに直撃する質問だったのだ。
彼女こそが、人間社会に紛れてしまった、自分を人間だと思い込んでいる半吸血鬼に他ならないのだから。
こんなところでも、フロイドワールド・オンラインの片鱗が見えて、この世界は地続きなのかそうではないのかと、考え込みそうになる。
けどいまは、審問の途中なので、そんな事を考えている場合じゃなかった。
さてさて、半吸血鬼だと分かれば話は早い。
不死者の因子があるため『通常の回復魔法が効き難い』種族だけど、自由神の加護である自由度の拡張によって、自由神の神官に多種多様な回復魔法が使えるようになっている。
俺の職業の戦う神官である戦司教でも、それは同じだ。
けど、呪文のキーとなる言葉を覚えていないため、ステータス画面を呼び出す。
そしてフロイドワールド・オンラインでも滅多に見ることがなかった半吸血鬼に効く、回復魔法を探していく。
うーん……お、見つけた見つけた。
「おい。魔法はどうした? やめるのならひとまず次の審問にいかせてもらうぞ」
「いえ。大丈夫です、呪文をど忘れしただけで、いま思い出しましたから。さて、バークリステさん、この傷は消して欲しくないという望みはありますか。あったら魔法を変えようと思っているのですけれど」
先ほど喋るなといわれたからか、首を横に振って、傷は全部消していいと意思表示してきた。
よし、心配事はこれで全てなくなった。
そして神官であるペンテクルスと従者であるバークリステにも、この画面が見えていないことも分かった。
色々と安心しながら、俺は高らかに呪文を唱える。
「我が愛しき神よ。夜闇に紛れし子に残る傷を、月光のごとき力で癒し与えたまえ!」
言い終わると同時に魔法が発動し、バークリステの足元に『黒く光る円』が現れた。
そしてそこから、黒真珠の砕いた粉のような、黒く光る粒子が吹き上がる。
ペンテクルスとバークリステは、恐らく初めて黒い光を見るのだろう、不思議そうに首を傾げている。
けれど、回復魔法が効かないと思っているからか、二人の顔にあまり驚きはない。
内心ほくそえんで待っていると、黒い粒子はバークリステの傷痕に付着して覆っていく。
その後で付着した黒いものがはがれると、その下からは傷痕のない綺麗な肌が現れた。
この黒い粒子はどんな傷痕にも有効なようで、次々にバークリステの体は綺麗な状態に戻っていく。
程なくして、黒い粒子が派手に周囲に散ると、完璧なまでな肌艶を持つ美女が半裸で立っていた。
それを見て、バークリステは平淡顔を大きく崩して驚いていた。
だけど、この場にいる人の中で、最初に大声を上げたのはペンテクルスだった。
「馬鹿な! ありえん!」
「おや、なにがありえないのでしょう? もしかして、バークリステさんの傷痕を治すことが、でしょうか?」
「ぬぐッ……貴様、知っていて受けたのか!」
何を指しているかは知らないけど、ここは自信があった風に振舞っておこう。
「ええ、治す自信と知識があったのですから」
「ぐぐぐっ……言え、言え! どこでその回復魔法を習った! 貴様の師は誰だ!!」
「おやおや、変なことを仰いますね。貴方だってバークリステさんの傷を治したじゃありませんか。知る必要がどこにあるのです?」
暗に、教えるかよこの馬鹿め、といってやると、なんだか久しぶりな感じさえする、ペンテクルスらしい怒った赤い顔が見られた。
けど、彼の癇癪に付き合うにしては、この審問とバークリステの正体を考えることに、ちょっと頭を使いすぎた。
疲れてきたので、ボロが出る前に、審問を切り上げておきたい。
「さてさて、これで私は神官であると証明がされましたね。では、判決を」
「ぐぬっ、ま、まだだ。もう一度、もう一度見せろ!」
「嫌ですね。せっかくバークリステさんの体を綺麗にしたんです。また傷つけて治すなど、無駄以外の何者でもないじゃないですか」
「貴様が傷つけられんというのならば、ワガハイが――」
「ご自分の始末はご自分でどうぞ。貴方も『バークリステさんを治せる』回復魔法が使えるんですから」
一部分を強調して言ってやると、ペンテクルスはがっくりと肩を落とした。
俺を有罪に出来る材料が、絶対に手に入らないと理解したからだろう。
すると、ペンテクルスは弱々しい声で、俺の罪状について語り始める。
「トランジェ、貴様の疑いは全て晴れた。無罪放免とする」
「ありがとうございます。つきましては、ダークエルフだと自分を思っているあの少女も、無罪でよろしいですね?」
「……おい、その審問はまだだぞ。何を言っている!」
息を吹き返したようなので、止めを刺してやろう。
「おやおや、忘れたのですか? 彼女がダークエルフだと証明できないと、そう審問で決着したから、私は無罪になったのです。でしたら、ダークエルフと確定でないあの少女は、悪しき者と確定ができませんね。なら推定無罪ないしは、審問無効が順当でしょう?」
「ぐぅ、ま、まさか貴様。あの問答の本当の狙いは……」
「ご想像にお任せします」
うさんくさい笑み全開で言ってやれば、ペンテクルスはもう意気消沈して浮上できないようだった。
「分かった。無罪ではなく、審問無効にする」
理解してくれて助かった。
でも、まだまだいくよ!
「では最後の、アズライジの審問ですね。さあ、討論しましょうか!」
俺が演技全開で嬉しそうに言うと、ペンテクルスは嫌がるようにゆるゆると首を横に振った。
「微罪で審問に値しないため、必要ない。こちらも無効だ。これにて全ての審問は終わったことにする」
そして力ないままに席を立つと、教会へと歩いていく。
バークリステとは別の、従者らしきローブの男が寄り添おうとするが、手を触れた瞬間に跳ね除けられてしまっていた。
まあなにはともあれ、審問という山場は越えたなと肩の力を抜く。
村人たちも、顔見知りになった俺とアズライジが罪に問われないと知って、安心したように審問のないようについて会話を始める。
そんな中、自分の傷が治ったのが信じられない顔をしている、バークリステが取り残されていた。
彼女のローブを、ペンテクルスがいた机から拾って手渡す。
「ほら、いつまでも裸だと、風邪を引きますよ」
すると、ビックリしたような顔のあと自分の体を見下げ、まるでいままさに自分が人間だと思い出したかのように、真っ赤な顔になってローブを着始めた。
着終わってすぐに頭を下げると、刃の出るギミックのあるあの盾を拾い上げて、慌てて教会の中へ去っていった。
彼女のそんな姿を見て、なんとなくまだ騒動が続きそうな予感が薄っすらとしたのだった。




