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十九話 さあさあ開演でございます

 さてさて、では審問の開始の宣言がされたので、こちらから主導権を握っていこう。


「私の二つの罪状、まずは悪しき者に組した罪について話をしたいと思いますが、よろしいでしょうか?」


 そうペンテクルスに確認を取ると、怒声が返ってきた。


「審問官はワガハイだと言っているだろうが! なぜ貴様が話を進めようとする!」

「おや、不満ですか? なら神官詐称の罪からいきましょうか?」

「ぐぬぬぅ! お、落ち着け、落ち着け、ワガハイ……いや、悪しき者に組した罪を、先に話し合う」


 ある程度は怒りを自制出来るのか。

 まあ、そうじゃなきゃ、裁判官紛いの審問官なんてできないもんな。

 けど、あくまである程度まで効くことが、強みになりきれずに弱点になる部分だとも思うけどね。

 まあいいか、今は口で打ち倒す相手だし。


「さてでは、審問官側は私が悪しき者に組したと主張しました。それは証拠があってのことでしょうか?」

「ふん、無論だ。情報は色々と収集しているぞ。まず貴様は、あのダークエルフを商人たちから助け、暴行跡を治療を施し服を与えたそうだな」


 その話が出来そうな人物は一人しか思い浮かばず、ちらりとアズライジのほうを見た。

 彼は青い顔でぺこぺこと謝っていて、隣のエヴァレットは冷ややかな目を向けている。

 きっとアズライジのことだから、良いように言い包められて、情報を引き出されたのだろう。もしかしたら、司祭のチャッチアンさんに話したことが、そのまま利用されているってこともあるかもしれない。


「ええ、その通りですよ。おや、それが罪だと?」


 もしそうなら、少し前に悪しき者と知らずに助けるのは罪じゃない、見たいなことを言っていたので、利用させてもらおう。

 けどまあ、ペンテクルスだって怒りっぽくても本職の審問官だ。そこまで甘くはないらしい。


「いいや、問題はその後だ。貴様は神官という立場にありながら、悪しき者を罰しもせず、あまつさえこの村で同居しているそうだな。これは由々しき問題だ」


 そうですね。仮に私が、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官だったら問題でしょうね。

 自由神の神官なので、関係のないことですけど。

 でもそうとはいえないので、とりあえず惚けてみることにして、より情報を引き出してみようか。


「由々しきという言葉まで使用するほど、これがそんなに大きな問題ですか?」

「当たり前だ! 貴様のこの考え知らずな行動のせいで、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官全ての品位が疑わるのだぞ!」

「品位が疑われる? 私は間違ったことはしていないつもりですけれど、どうしてでしょう?」


 そう、自由神の神官としてはな。

 すると俺が問題を分かっていないと思われたのか、ペンテクルスは勝ち誇ったような顔で語りだす。


「なら無知蒙昧な貴様に、道理を教え込んでやる。まず、悪しき者を罰しなかったこと。仮にその者を望まずに助けた後だとしても、神官なら即座に存在を罰しなければならない。これを怠ると、神官自らが聖教本の教えに背くことになってしまう」

「主張は理解しました。それで同居の方については?」

「そちらはより簡単だ。先ほどの商人たちが良い例だろう」


 ふむふむ。つまり神官としての職務怠慢と、悪しき者と関わることで利益を得た罪ってことか。

 ふーん、予想通りでつまらないけど、俺としちゃ楽だからいいか。


「分かりました。では反論させていただきましょう。まずは、あの少女を助け、その後も保護している件についてです。理由は三つあります」


 というか、先に罪状について言わせたことも、その内容を詳しく語らせたことも、罠だと気がついていないのか、コイツは。

 弁論っていうのは、後で発言するほうが簡単なんだぞ。言われたことを否定するだけで、最悪でも引き分けられるんだから。

 

「一番目の理由は、彼女が商人とその護衛の犯罪を立証する、生きた証拠だったからです。審問において、商人側が「そんな少女はいなかった!」と主張することを防げました。もっとも、死の恐怖で全て自供してしまって、この意味はありませんでしたが」


 そこで勝ち誇った顔をして、ペンテクルスに改めて言葉をかける。


「これのみでも、彼女を生かしておく理由に十分となると思いますが、審問官さまはどうお考えでしょう?」

「嫌味を言いおって……だが、主張は正当であっても、証拠は別に用意できる。たとえば、あのダークエルフを殺した後でその死体を保管するなどだ」

「はい、ありがとうございます。それが第二の理由です」


 まるで理由になっていない俺の言葉に、ペンテクルスは不思議そうにする。

 頭のいいバークリステは何か独自に理解したのか、俺の背後で息を飲んだ音がした。

 けど、彼女の出番はこの審問中にはないので、無視しよう。


「おや、不思議そうですね。では理由を正確に言いましょう。あの少女は、本当にダークエルフなのでしょうか?」


 そう告げると、ペンテクルスは言っていることが分からないという顔をする。


「当たり前だろう。黒い肌、尖った長耳、そして銀髪。どれもダークエルフの特徴ではないか」

「本当にそうでしょうか? ダークエルフは、紫色の肌で、白い髪という記述が、聖教本にあったはずですが?」


 これは本当のこと。

 村人にやる説法のために聖教本を前に読んだとき、ダークエルフの容姿に関して表記に揺れがあったのだ。

 これは多分、この世界では白い肌をしていないエルフを、ダークとまとめて呼称しているためだと思う。

 その部分を持ち出してみたのだけれど、ペンテクルスはどう返すだろうか。

 彼を観察していると、視線が俺から少し外れてやや後ろを見る。そして急に悩んだ素振りを始めた。

 振り返ると、バークリステが頷き終わった瞬間が見えた。

 恐らく、俺の言ったことが本当だと、頷いて教えたのだろう。

 バークリステは平淡な顔で何でもないと澄ますので、俺は目線で『メッ!』と言っておく。

 まあ、言葉を喋ったわけじゃないから一度は見逃そう。

 賢い彼女のことだから、二度はやらないし、やれないだろうしね。

 そんな静かな攻防をやっていたら、ペンテクルスは考えをまとめ終えたようだ。


「では貴様は、紫色の肌ではなかったため、ダークエルフだとは知らなかったと。知っていれば、同居などという真似はしなかったと言いたいのか?」


 まあ、普通ならそう考えるだろうな。

 でもそれだと、無知による罪の免除を願い出る形になる。

 そうしてもいいのだろうけど、エヴァレットとの今後の付き合いを考えると、ちょっとその選択肢は取れないかな。


「いいえ、私は彼女のことを、ダークエルフだと知っていました。私は違うと思ってましたが、彼女自身も種族をそう教えてきましたので」


 なのであっさりと前言を撤回してみせる。

 すると、面白いようにペンテクルスは混乱と怒りを混ぜた顔をしてくれた。


「貴様! 知っていたのなら、なんなのだ今の問答は!」

「決まっているじゃないですか。分からないんですか?」


 ここでは何が決まっているかは言わずに、小馬鹿にしてやることが重要。

 こうすると、自分は頭が良いと思っているプライドが高いヤツほど、教えろとは言わなくなる。

 その代わりに、自分が考え付いた理由を披露してくれることが多い。

 ペンテクルスもまた、その人種だったようだ。


「ダークエルフには、二種類の見た目がいると言いたかったのか!?」

「いえ、違います。聖教本を見る限り、二種類以上あるかもしれませんよ?」

「ならば……そうだ、種族を明かされたのが、つい最近だったからか!?」

「それも違います。助けたすぐ後に、まずアズライジから、そして彼女の方も追認しました」

「ならあの体を狙ったのか! 悪しき者とはいえ、見目はいいからな!」

「違います。貴方は欲求不満の馬鹿ですか?」

「ぐああああ! あれも違うこれも違うと! 貴様はバークリステか!!」


 こういう話し方で接していたのかと尋ねたくて振り返ってみたが、バークリステは平淡な澄まし顔のままだった。

 本当のことが知れずに残念に思いながらも、なるほどねと勝手に納得する。

 バークリステはペンテクルスが人を頼る悪癖があるので、会話の端々にこういう問答を入れて、自分で考えさせる癖をつけようと頑張ったのだろう。

 本当に、いい家庭教師になれそうな人だ。ただし、生徒からは嫌われるタイプのだけど。

 しかし、いまのペンテクルスを見る限りでは、教育は失敗だろうな


「では、お教えしましょう。なぜ私が、彼女がダークエルフと知りながら、同居をしていたのか」

「もったいぶるな、さっさと言え!」


 少し間を空けようとするだけで、答えを欲してくるぐらいなのだから。


「言葉を遮らないでください、調子が外れますから。さて、理由についていうと、彼女がダークエルフか否か、証明が出来ないからです」

「…………はああああああああ!?」


 ペンテクルスは俺の言った理由が、理解不能なようで大声を上げる。

 そして次には、こっちを小馬鹿にした態度をとる。


「語るに落ちたとはこのことだぞ! 貴様はいまさっき、あれがダークエルフだと語ったばかりではないか!」


 まさしくその通りなのだけど、実はちょっとした抜け道を用意しているのだ。


「おや、私が彼女をダークエルフだと、いつ認めましたか?」

「はぁ? 貴様は言っていただろう、ダークエルフだと知っていたと」

「ええ言いました。しかしこう付け加えてもいます。アズライジとあの少女が、そう言ったからと」


 言葉を付け加えたのに、よく分かっていなさそうなので、詳しく解説してあげよう。


「つまりアズライジと彼女自身はダークエルフだと思っている。私はそうは思っていなかった。そう申し上げているわけです」

「なっ!? そんなのは詭弁だ!」

「ほうほう、『詭弁』ですか。難しい言葉なので、傍聴している方に分かるように言い換えましょう。間違っている論理であるため、これからそれを証明してやる、という意味です。えっ、証明できなかったらですか? そうなると間違っているように聞こえても、この場では真なる論理であると扱われてしまいますね」


 村人たちが、なるほどそういう意味かと頷く姿が見える。

 しかし、ごめんなさい。

 これ、解説という名前を借りた、逃げ場の封鎖です。

 まあ、詭弁だと証明ができなければ、詭弁は詭弁なりえず真の弁論となる、っていうのも本当だけどね。

 なので、ペンテクルスには頑張ってもらおう。


「さあ、どうぞ。私の詭弁を崩してください」

「今のは、破綻しているだろうが!」

「ですから、どう破綻しているのか、教えてください」

「ぐぬぬぅ、分かっている。少し待て!」


 待ちましょうとも。

 なにせ詭弁は、弾数が無限の銃みたいなものだ。幾らでも簡単に放てる。なにせ、嘘とこじつけで出来ているのだから。

 もっとも、正しい対処の仕方を知っている人なら簡単に防げることが、大きな欠点なんだけど。


「まず、やつらはダークエルフと言っているのだ。なら、貴様はそう思って当然であろう」

「いえいえ。なぜ二人が嘘をついていないと言いきれるのですか。もしくは勘違いと言うことも考えられます。私が考えを固める決め手に欠けます」

「本人がそう言っているのにか!?」

「なにせダークエルフだと、証明された人物を生まれてこのかた見たことがないので。ふむ、不満そうなので、では少し別の問答を差し挟みましょう」


 俺は一歩ペンテクルスに近づく。

 止めるようにバークリステに肩を捕まれたけど、放って彼に問いかける。


「貴方は人間ですか?」

「あ、ああ、人間だとも」

「この世界には、獣人がいますね? 私は見たことがありませんが、猿の獣人もいますよね?」

「ああ、確かにいる。それがなんなのだ」

「では貴方は、本当に人間なのですか? 毛の薄い猿の獣人ではないのですか?」

「そんなこと、あるわけがないだろう! ワガハイは傍流とて貴族の出だ! 血統で人間だと保障されている!」

「そんなのは証明になりません。私はこう言っているのです。貴方が人間だと思っているのは、本当は猿の獣人かもしれない。もしくは人間と毛の薄い猿の獣人は大変に似ていて、区別がつかないでいるかもしれない。貴方は、私のこの意見を否定する根拠を、提示できますか?」

「そ、それは……」


 ペンテクルスは考え込んで口を噤む。

 けど、証明なんて出来るわけがない。

 ペンテクルスは気がついていないようだが、これも詭弁の一種である。

 彼は『自分は人間である』と言ったのに対して、俺は『人間の中に猿の獣人がいる』と言い換えているのだ。

 そして、俺が言った方の証明は、とてもとても難しい。

 例えば『カラスは黒い』という証明は簡単に出来る。黒いカラスを一匹捕まえて見せれば済む。

 けど、『カラスは黒しかいない』という証明はなかなかできない。なにせ、世界にいる全てのカラスを捕まえて黒以外のカラスはいないと、そう証明するしか方法がないのだから。

 これを俺がいま言ったことに当てはめると、この世界の全人間を調べに調べて猿の獣人が混ざっていないと証明しろ、と言ったわけだ。

 そして仮にこれを実行したとして、一人でも自分が人間だと勘違いしていた猿の獣人がいた場合、なんと俺の詭弁がなぜか証明されてしまうという、面白い事態になるから驚きだ。

 そして、ペンテクルスも神学校五席なので頭は悪くないらしく、詭弁だとは分からなくても、この証明がとても難しいとは気がついたようだ。


「そ、そんなことは、無理だ。少なくとも、いますぐにはだ」

「そうでしょう。同じように私も証明できなかったのです。あの少女がダークエルフだと。仮に本人がそう思っていたとしてもです」

「だからと言って――」

「だからこそ私は、自らをダークエルフと語る少女と同居したのですよ。証言まで死なせるわけにもいかないですし、そしてある目的のために半ば監視の意味も含めてね」

「それは――」

「聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスが、ダークエルフは悪しき者と定めているのです。ならば、あの少女は自ずと悪しき行いをするはずです。それを見届ければ、彼女がダークエルフだという決め手の一つにできるのです」


 ペンテクルスが何かを言おうとする度に、言葉を被せて潰していく。

 すると、何を言いたいのか混乱したようで、ペンテクルスはちゃんとした言葉が言えなくなっていた。


「さてさて、ここまでの話で、私の行いに何か落ち度がありましたか? 少なくとも、落ち度があったと、そう証明はされていないようですけれど?」

「ぐぐぐっ……」


 ペンテクルスの目がバークリステに向かうが、俺は少し立ち位置をずらして邪魔をしてやる。

 そしてさらに追い込んでいく。


「さあ、悪しき者に組した罪に、私を問えるのですか?」

「ぐぐぐぅ…………」


 認めがたいけれど、話の流れでは無罪が確定している。

 そんなペンテクルスの考えが透けて見えるように、苦悩していた。

 そのとき、なぜか彼はまたバークリステに視線を向ける。

 また身振りで助言したのかと振り向く。

 けど、彼女は俺の肩に手を乗せているものの、特に変わった動きは見れなかった。

 不思議に思っていると、さらに不思議なことにペンテクルスが悩むのを止めていた。


「うむ、そうだな。悪しき者に組した罪に、貴様は問えそうにない。この罪については、無罪としよう」

「……そうですか」


 どこか釈然としないけど、無罪は無罪。喜ぶべきだろう。

 ただし、ペンテクルスの顔が、何かを企んでいるように、にやけていなければだ。


「では続いて、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官を詐称した罪についてだ。これがもし本当だった場合、その者は死刑が決められている。どれほどの財貨を積んだとしても、逃れられない」


 この審問が決定すれば俺を殺せるから、悪しき者に組した罪を無罪にしたってことか?

 でもそれだけなら、あっさり無罪を言い渡す根拠に乏しいか。

 となると、ペンテクルスは俺が神官ではないと証明する方法を知っている、ってことになる。

 だけど、出会った挨拶のとき、俺の名前を知らないとは言っていたけど、神官ではないと確信しているようでもなかったし。

 何かしらの隠し玉があると、そう思っていた方がいいかな。


「分かりました。では、どう証明しましょう。同じように論議でもしますか?」

「いや。ここまで長々と話し合いし過ぎた。他に二人の審問も残っているのだ、貴様一人にそんなに時間はかけていられない」

「ならどうするのです? 神官であると、短時間で証明する方法があるのですか?」

「ふん、そんなことは簡単だ。バークリステ!」


 ペンテクルスの呼びかけに、バークリステは彼の近くへと歩み寄る。

 そのことに、俺は待ったをかける。


「バークリステさんはこの審問に口を出さないと、そう決まっています。それを反故するおつもりなのですか?」

「ふふん、そんなことは分かっている。心配するな、口は出させんさ。ただ、体を貸し出してもらう」


 何か手伝わせるのだろうかと思っていると、突然バークリステがローブを脱ごうとし始めた。

 …………はぁ?


「ちょっと、なに脱ごうとしているんですか。審問官も審問官です! 公衆の面前で婦女子を辱めることによることと、神官の証明になんの因果関係があるのですか!?」

「ふふん。ようやく、忌々しいにやけ面が崩れたな。だが心配するな、これも証明の一環だ」


 本物の神官かつ審問官のはずなのに、なんだそのうさんくさい理由。

 けど、そう言われてしまうと、止める理由もなくなってしまう。

 忸怩たる思いでいると、バークリステがローブを脱ぎ捨ててた姿を披露する。

 あ、ブラジャーみたいなのと、パンツはしているのね。

 ああよかったー、ってよくないわ! なにブラジャーまで取ろうとしているのー!?

 って、ダメだダメだ。きっとこれは俺の思考を乱すためのヤツの作戦だ。冷静になってちゃんとバークリステの姿を確認しないとまずいことになりかねないかもしれなくもない。そうだそうともこれはイヤらしい考えではなく俺が無罪を勝ち取るための行動だから女性の裸を見ても悪いことじゃないんだからしかたがないんだからね!

 軽く呼吸して混乱を追いやってからまじまじと、は見れないので、ちょっと控えめにバークリステのパンツ一枚の姿を見る。

 見て、確認して、エロいことを期待して、少し後悔した。

 なにせ、彼女の体のいたるところに、傷痕があったのだ。

 刃物傷や動物の噛み痕、火傷の痕もいたるところに。

 その姿を見て、純真なこの村の人たちが息を呑む音が聞こえた。

 それぐらいに、なまじバークリステが完璧に整った見た目の女性ということもあって、醜悪なまでに衝撃的な傷跡だった。 


「……その傷を周囲の人たちにまで見せることが、私の神官の証明と何の関係があるのですか?」


 そんな傷痕を披露させた怒りを少し込めて言うと、ペンテクルスは鼻で笑った。


「何を言う。この傷こそが、バークリステの職務の証ではないか。ワガハイという神学校五席の秀才を守る、ただそれだけのために従者としている、この者のな。そしてこいつの存在意義は、もう一つある」


 その言葉を聞くと、バークリステは色素の薄い白金の長髪をまとめると、胸元を隠すように前へとまわした。

 どういうことかと首を傾げると、ペンテクルスが剣を抜いたのが見えた。

 まさか――!?


「えいやあ!」

「――ぐっ」


 嫌な予想通りに、ペンテクルスが斬りやがった。

 背中を斬られて、バークリステの苦しげで押し殺した声が上がる。

 それと共に、地面に少なくない血が滴り落ちるのを目にし、傍聴していた村人たちからも悲鳴が上がったのだった。

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