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一話 異世界転移かな?

 しばらく現実を受け止められずにぼーっとしてたが、このままではいけないと思い直した。

 まずは、現状の把握に努めよう。

 俺の体は現実のものではなく、フロイドワールド・オンラインで作成したトランジェのままだということ。

 ステータス画面上では、装備品の名称や所持品の数、所持金に変動はない。

 問題はちゃんと引き出せるかだが――


「選択したとおり、水のボトルとライトドラゴンの串焼き、あと一万マルメ金貨が出てきたか」


 金貨はステータス画面に戻してから、試しに水を飲み、串焼きを食べてみる。

 味は同じだが、ゲームでは膨れなかったはずの腹が膨れる! そして満足感もある!

 いやいや、待て待て。結論を出すのはまだ早い。

 飲みきったボトルに串を入れ、そのまま待ってみる。

 本来なら、使い終わったアイテムのゴミは少し経てば、手に持った状態でも消えていた。これが消えなければ……。

 もうちょっと、もうちょっとと待って、おおよそ十分ぐらい経っても消えない。

 これはもう、ゲームキャラ転移で決定かなと、恐る恐る手のボトルをステータス画面に押し付けて収納させる。

 続けて、足元にあるピンク色の花を一掴み引っこ抜き、同じように収納させる。

 所持品をスクロールしていくと、『串入りボトル』と『ピンク花』なんてゲームにはなかった名前のアイテムが……。


「あー……とりあえず、ゲームのときの魔法が使えるか試そう」


 俺は愛用の杖を画面操作で呼び出し、持ち手部分を右に握り、石突の方を左手で握る。

 軽く捻りながら引っぱると、杖の機構が外れて持ち手の部分から仕込まれていた直剣が現れる。


「自傷行為は苦手なんだけどなぁ――いててッ。痛みの軽減はなくなっているのかよ」


 刃に人差し指を滑らせて斬れた指を、思わず口に入れたくなるのを堪えつつ、小回復スモールヒールの呪文を唱える。


「自由の神よ。軽い傷を治したまえ」


 足元に光円が広がり、そこから出てきた少量のキラキラとした粉が、怪我に付着する。

 直ぐに怪我が治り、指についた血を拭えば、もうどこに怪我があったか分からなくなった。

 続いての検証のため、もう一度指を刃に滑らせて自傷してから、同じ魔法を唱える。


「自由の神よ。軽い傷を治したまえ」


 また発生したキラキラ粉は、怪我に入ろうとして弾かれた。

 続けて、ステータス画面から呼び出した、小回復役を飲んでみる。しかし、回復はしない。

 どうやらゲームと同じで、魔法や回復薬による連続回復は出来ないままのようだ。

 小回復魔法の待機時間の経過後すぐに、もう一度同じ呪文を唱えると成功し、指の傷はなくなったことからも、そうだと分かる。

 待機時間はそのままなのは、嬉しい事実だ。変に長くなっていたら、今後何かあったときに、回復事故を起こしかねなかったしな。

 あとは、神官戦士職用の攻撃魔法や補助魔法も試してみたいが、変に物音を立てて魔物を呼び寄せてしまうと困る。

 まあ、魔物がいる異世界に転移したのならだけどな。


「大まかな検証は終わった。ここにずっといてもしょうがない。街道か野道を探すっきゃない」


 言葉を口に出して目的を確認してから、ステータス画面で装備品を呼び出して身につける。

 先ほどの杖に始まり、頭にトルコ帽に似た低い円柱状の帽子を、黒い法衣の上に軽鎧をつけ、法衣に隠せる肘から手首までの籠手と足首から膝までの脛当て。

 トランジェは、フロイドワールド・オンラインは世界観を楽しむために作ったキャラだったので、メインストーリーの攻略に関わらないスタンスを取っていた。

 なので、装備品は店売り品を強化したものが多く、これらはゲーム内の質で言えば中の中か中の下ぐらいだ。

 見知らぬ土地でこのランクは心もとないが、こんな状況は想定してなかったので、仕方がない。

 お色直しも終えたので、森の中に分け入って道を探し始めた。

 だがしかし、行く手を遮るものがあった。


「ぐっ。また法衣に枝が引っかかった。ゲームの頃ならこんなことなかったのに……」


 もう何度目かの張り出した枝を折って服から外してから、口から不満を漏らしつつ先へ進む。

 

「ああもう、鉈が欲しい。獣道でいいから、早く道を見つけたい……」


 水のボトルは複数持っているが、節約しながら水を飲みつつ先へ先へ。

 ここまで歩いてきて、魔物と出会っていないのは運がいいのか、それとも八つ当たり出来る相手がいないから運が悪いのか。

 そんな事をつらつらと考えていると、何かが聞こえた気がした。

 立ち止まり、耳を澄ませる。

 ――――金属が合わさる高く乾いた音。それからかすかな人の叫び声。

 方向を素早く確認して、走り出す。

 すると、すぐに獣道を見つけることができ、服に枝を引っ掛けずに走り続けることが出来るようになった。


 段々と音が大きく聞こえてきて、それが戦闘の音だと分かると、走る速度を緩めて隠れながら近づいていく。

 こっそりと木の陰に身を隠して観察すると、大きな二頭立ての幌馬車二台の周りに、多数の男女が入り乱れていた。

 状況から、誰かが盗賊で誰かが護衛だと思う。

 しかし、どちらも革鎧に剣や槍といった、似たり寄ったりな格好だ。区別がつかない。なので待機だ。

 それと、ゲーム上でプレイヤーと戦闘したことはあるが、現実で人と殺し合いをしたことはない。仮にここが異世界だとしたら、あの戦闘に加わるのはまだ勘弁して欲しい。

 人殺しをする覚悟なんて、今さっきで出来るわけないだろうが。

 馬車が通れる街道があるのは分かったので、この場を迂回して道に復帰する選択肢もとれる。

 いや、落ち着け。直接戦闘しなくても、俺には魔法という手段がある。

 盗賊と護衛は同じぐらいの強さのようで、戦いは長引きそうだ。

 なら、ステータス画面から魔法の一覧を見てよさそうなものを見繕う時間はあるはず。

 そうやって探していくが、そこでふと考え違いをしていることに気がついた。


「……そうだよ。別に俺が倒さなくたって、盗賊を動きを鈍くすれば、護衛がやっつけてくれるんだ」


 考えを口に出して再確認して、俺は魔法の呪文を小声で唱える。


「我が親愛なる自由の神よ。たむろする不心得者どもに、悪徳の重石を抱かせたまえ」


 選択したのは、カルマ値が悪に傾けば傾くほど能力妨害デバフがつく、『悪しき者に鉄槌を』系の広範囲魔法。

 それを、あの戦っている人たち全員と幌馬車を巻き込むように、発動させる。


「な、なんだ! 魔法使いが隠れていたのか!?」

「くそっ。馬車に隠し球が居やがったのか!?」


 護衛と盗賊たちの足元が光り、その中のカルマが悪の人たちに魔法が降りかかる。


「ぐあぇ――」

「ぐおおおおぉぉ……」


 まるで頭上から大きな手で押さえつけられたように、ほぼ全員・・・・が地面に倒れこんだ。

 そう。護衛と盗賊、果ては御者台の上にいた商人らしきひとたちまでもが、あの魔法にかかってしまったのだ。

 この結果に、隠れて見ている俺は、呆然としてしまう。

 同じような顔を、ただ一人だけ魔法がかからなかった若い護衛が浮かべていた。

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