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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
189/225

百九十話 次の戦いの前に、小休止を挟みましょう。

 国軍との戦いは、こちら側の勝利で幕を閉じた。

 とはいえ、まったく被害がなかったわけじゃない。

 多くの人が怪我をしているし、死んでしまった人だっている。

 特に、ビッソンが命じた最後の突撃が悪手だった。深追いした人が兵士の反撃にあい、かなりの死者をだしていた。

 あれは、不要の犠牲だったな。

 けど、新王として立つビッソンの命令なので、止めるわけにはいかなかったしなぁ……。

 ま、長槍パイク戦術を国軍が持っていなくて、俺が当初思っていたよりも被害は少ないと、納得するしかないか。

 さて、自分の命令で多数の死者をだしたビッソンが、今何をしているのかというとだ。

 生き残った人たちと宴会をしている。


「今宵は大勝を得た、めでたい日だ! 大いに飲み食いし、大いに騒ぐがいい! それが、死んだ者たちへの手向けにもなる!」

「「「大勝に乾杯! ビッソン新王、万歳!」」」


 戦いで疲労困憊しているはずなのに、人々は酒の入った杯を掲げ、並べられた料理に舌鼓を打っている。

 その姿に言いたいことはあるけど、今日ばかりは放って置こう。

 まだまだ、国軍との戦いが続く可能性もあるんだから、息抜きは必要だしね。

 人々の喧騒を遠くに聞きながら、俺は目の前の怪我人に目を向けなおす。


「すぐに治しますから。回復したら、あの宴会に言っていいですからね」

「おお、そりゃありがた――たたたっ」


 嬉しがった怪我人は、血の気のない顔で、赤く染まった包帯のある腹を押さえる。

 彼の自己申告だと、剣が腹から背中まで貫通したらしい。よく生きているなって、生命の神秘に祈りを捧げたい気分になる。

 もっとも、祈りの代わりに、回復魔法を使うのだけどね。


「自由の神よ。この者の戦いで追った負傷を、速やかに癒したまえ」


 彼の下に光る円が現れ、そこから飛び出てきた光る粒子が怪我を治していく。

 十秒も経たずに、彼の怪我は回復した。


「おお! 痛くなくなった! ありがとうな、自由の神の神官さま」


 男は赤く染まった包帯を解き、天幕の外へ。そして宴会へと向かっていった。

 彼を見送ってから、俺は別の重傷者に向かう。

 もちろん、俺以外にバークリステや子供たちも、怪我人の治療に当たっている。

 けど、この怪我人を詰めた天幕の中には、俺たち以外の神官はいない。

 先の戦いで、魔法を連発した上に、最後の突撃に参加したので、多くの人が披露でダウンしているからだ。

 中には、宴会に自分とこの神の信者を引き連れて、宴会に参加している生臭な人もいるけどね。

 でもそんな彼らのお陰で、俺たち自由神の信徒の評判が、怪我人たちの中で上がった。

 人間、だれしも怪我や病気のときに、親身になってくれた人に好意を抱くもの。特に、外で楽しげに宴会をしているのを聞いていれば、なおさらだろうね。

 怪我人の中には、いま崇めている神の信仰を捨てて、自由神に乗り換えると約束してくれる人までいた。

 俺の予想通りの反応に、思わずほくそ笑みそうになる。

 こうして自由神の教えの根を広げていけば、新しい国で国教となったとき、人々からの反発を防げるからね。今のうちに、人々の好感度を稼げるだけ稼いでおこうっと。




 怪我人の治療が終わり、宴会も解散となった朝。

 幼い子供な見た目でありながら偵察が巧みなウィッジダを呼び出し、手紙を一つ託した。


「逃げ散った国軍を追いかけて、この手紙を偉い人に渡してください。捕まりそうになったら、逃げていいですから」

「分かりました。でも手紙って、どんなことを書いたんですか?」

「掻い摘んで言いますと、国軍の弱さをなじりつつ、反乱者たちがさらに進軍を開始するという文面ですね。あと、次こそは勝ってくれないと、内通した甲斐がないともね」

「うわぁ。それは国軍の人たちが怒り出しそうですね」

「はい。なのでウィッジダは、怒られる前に逃げてくださいね」

「分かりました。何も知らない子供を装って、手紙を渡したらさっさと逃げることにします」


 ウィッジダは頭を一つ下げると、風のような速さで天幕から走り出て行った。

 その姿を見送った後で、俺は次の手紙の作成に入る。

 奴隷商経由で、広い地域にこちらが完勝したと触れ回る文章をしたためていく。

 出来上がりに満足して、適当な伝令役の人を呼び寄せる。


「奴隷商に渡しにいってください。頼みましたよ」

「はい……。うぷっ――わかりました……」


 昨夜は痛飲したのか、頭を痛そうにしながら、その人は陣地から去っていった。

 一通りの仕込みは終わったので、俺はビッソンに会いにいく。

 彼の天幕の前には、マッビシューとアーラィが歩哨に立っていた。

 二人は護衛でもあるけど、ビッソンに女を宛がおうとする人を追い払う役目を担ってもらっている。

 ビッソンは付け焼刃的に知識を植え付けた王からね。ハニートラップを食らいやすいだろうし、それで変な人の傀儡になられたら困るしね。

 天幕の中に入ると、スカリシアが世話を焼いていた。


「ううぅ、頭が痛いよ……」

「調子に乗って、来る酒全てを飲むからです。ほら、お水ですよ」

「水だけじゃなくて、薬も欲しい」

「二日酔いに効く薬なんてありません。深酒した罰だと思って、受け入れなさい」


 恋人や情婦というよりも、母が子をあしらっているような感じに、思わず苦笑いする。

 俺が天幕に入ってきていることは、スカリシアならその耳で分かっているはずなので、あえて見せていると感づいたからだ。

 一方でビッソンは遅まきながらに気づき、俺に情けない場面を見られたことを恥じて、顔を赤くしている。


「な、なんですか。何か用があるんですか。ないのなら――」

「あるから、ここに来た決まっているじゃないですか。それも早急な話ですよ」


 俺がうさんくさい笑顔で食い気味に言うと、ビッソンは面白くなさそうな顔をする。


「国軍は倒したんだ。早急に必要な話なんて、ないだろ?」

「いいえ、あれで戦いが終わりだと思ったら、大間違いです。先に戦った国軍は、あくまでも一部隊。まだまだ国軍の兵士は残っているんですよ」

「……まさか、まだ戦いは続くのか?」

「はい。此方が望む望まないに関わらず、国軍はやってくるでしょうね。なにせ、ビッソン新王は二度も退けてしまいましたからね。次は本腰を入れてくるんじゃないでしょうか?」

「そんな?! 昨日の戦いが終われば、すべて済んで。新たな国ができるんじゃなかったのか!?」

「おや。誰がそんなことを言いましたか? そして貴方にそんなことを言わせた覚えもないのですが?」


 俺が指摘すると、ビッソンは気持ちが悪そうな顔になった。

 二日酔いの人にするには、少し重たい話だったかな。

 ま、言わなきゃいけないことだし、早めに伝えておいた方が、ビッソンの健康のためにもいいだろうしね。


「ということでビッソン新王には、まだまだ反乱者を率いて戦ってもらわないといけません」

「そんなぁ……」

「なに、大丈夫ですよ。昨日は上手くやれたんです。次も上手くできない道理がないじゃないですか」


 うさんくさい笑顔で言うと、ビッソンは青白い顔で俯く。

 そして、引きつった表情になった顔を上げた。


「戦わないと、国軍に殺されるんだよな」

「はい。各地で反乱が起きてますから、それを押さえるためにも、我々は惨たらしく殺されるでしょうね。聖教本にある、邪教の徒のようにです」

「それじゃあ、戦わないといけないじゃないか。ああもう、くそっ。こうなったら、本当に新しい国の王様になってやる!!」

「では私たちは、今まで通りにそのお手伝いをしますね。新しい国の国教にしてくれるという約束を、お忘れないように」

「分かっているさ。貴方たちがいないと、もう成り立たないこともな。国教にするって約束で手伝ってくれるなら、安い条件だよ!」


 怒ったような口調の後で、ビッソンはぐっと水を飲み干す。

 それぐらい元気があれば、少し無理は嬉々そうだな。


「では早速、全員に移動を始める通達を出します。今日中には無理そうなので、明日の早朝からということにしましょう。今日一日の献立は、二日酔いに効く物を中心に、消火に優しいものにしておきますね」

「……任せる。俺は寝かせてもらう」


 ビッソンは不貞腐れたように横になると、うんうん唸りながら寝始めた。

 任せると言われたからには、明日万全な状態で移動を開始できるように取り仕切るとしますか。

 俺は天幕を離れると、酒にやられて情けない姿を晒している反乱者たちに、荷造りの準備をするようにと伝え回っることにしたのだった。

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[一言] 「すぐに治しますから。回復したら、あの宴会に言っていいですからね」 言って>行って 先の戦いで、魔法を連発した上に、最後の突撃に参加したので、多くの人が披露でダウンしているからだ。 披露…
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