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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
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百八十七話 大戦の機運が、いよいよ高まってまいりました

 探し出した密偵をひとまとめにして、ある家の一室に詰め込んだ。

 けど俺は、彼らを洗脳したり暗示をかけたりするつもりはない。

 むしろ、彼らが欲しているであろう情報を、こちらから進んで提供してあげる気だ。

 俺がうさんくさい笑みで渡した冊子を手に、密偵の人たちは困ったような顔を浮かべている。


「おや、どうかしましたか。貴方たちの仕事を、簡略化してあげたのですけれど?」

「……この情報が真実だとは、とても思えない」

「ははっ、中を見るなと言っているわけじゃないんですよ。中に目を通してみたらどうですか? なんなら、そちら同士で情報交換してもいいですよ」


 俺が余裕な態度で言うと、密偵の人たちは本当に冊子の中を読み始めた。

 書かれている内容が、彼らの調べと『おおまかに』合っているからだろう。驚きの視線が、こちらにやってくる。


「本当に、これを頂いていいのか?」

「はい。それがあれば、この村に居る必要はないでしょう?」


 早く村から出て行って欲しいと匂わせると、密偵の一人が質問をしてきた。


「隠しておきたい特別な情報は、この冊子には書かれていないんだろう?」

「さあ、どうでしょう。もしあったとしても、貴方たちが滞在中に見つけられる可能性は、とても低いと思いますよ?」


 うさんくさい笑みのままで言うと、ぐっと息を詰まらせた声が返ってきた。

 密偵たちは納得しずらそうな顔をしたままなので、ちょっと脅しも入れてみるかな。


「まあ、冊子の内容が信用できず、村に留まって調べるのもいいでしょう。ですが、今日みたいに優しくはしてあげませんよ」


 見かけたら次は殺すと誤解させるように言うと、密偵たちは覚悟が決まった顔になった。


「分かった。オレは、今日中に出ていくと約束する。行っていいか?」

「はい、どうぞ。ああ、村を去るまで手の者に監視させますから、そのおつもりで」


 やるつもりのない嘘をついてから、密偵の一人を部屋から出してあげる。

 その彼が皮切りになり、次々と他の人たちも近日中に村を去ることを約束して、この家から出て行った。

 密偵が全員いなくなった後で、エヴァレットが部屋に入ってきた。


「トランジェさま。逃がしてしまって、いいのですか?」

「いいんですよ。捕まえて思いましたけど、あの密偵の中には国軍側じゃなくて、反乱者側だと思われる人が居ましたから」

「そうなのですか? よくお気づきになりましたね」

「国軍側らしき人は、お互いに身振りや視線で情報交換してました。一方反乱者側らしき人は、単独で動いている様子でしたからね」


 感心するエヴァレットには悪いけど、この勘が当たっているかは、実はどうでもいいんだよね。

 俺たちの『少し誤った情報』が拡散する方が、重要なんだから。

 あの冊子には、戦える人数、保持している食料、移動可能な距離を、概算という名目でどれも少な目に書いた。

 武器の量も、購入の伝手がないという理由で、少ないと予想してある。

 要するに、冊子を読んだ人が、こちらを侮るように仕向けたわけだ。

 ここでミソなのが、明らかに現実とは違う情報を入れていないという点。

 密偵だって人だ。得た情報には、勘違いや数え間違いがたくさんある。そのため、数人で情報を収集して、間違いを極力減らす努力をしている。ということを、俺は裏事情に詳しいバークリステから聞いた。

 なので事実と大きく外れていない限り、こちらが提示した情報に彼らは一定の信用を抱くわけだ。

 そして情報を渡したのには、さらなる目的がある。


「それと、私が情報を渡した意味を、密偵の雇い主が勝手に想像することも期待してます」

「こちらの内情を邪推すると?」

「そうです。例えば、私が寝返る気でいるとか、戦いに負けた際に命乞いの材料にすると考えている、とかですね。そのつもりは、まったくないですけど」

「……本当に、そんなことを思ってくれるのですか?」

「人間というものは、自分を基準に考えがちですからね。冊子に書かれた情報をもとに、私の立場になって考えると、負けたときの保険をかけても無理はないと思うことでしょうね」


 なにせ村に集まっているのは、祭る神が違う人たち。

 つまり、烏合の衆だ。

 しかも、勝手に王を自称した『イカレ』な主導者の下に、そんな人たちが集まっている。

 こんな貧弱な戦力で、国軍と遠征軍を相手にしないといけない。

 まともな用兵家なら、この時点で匙を投げるね。

 だからこそ、繰り返しになるけど、俺が保身に走っていると受け取ってくれる可能性が高いわけだ。

 そういった勘違いを誘発させる狙い以外に、実はもう一つの目的がある。


「あとは、遠征軍にあの冊子が届くのを期待してですね。私がこの陣営にいると知らせれば、マニワエドは無理に遠征軍を動かそうとはしないでしょうからね」

「なるほど。彼はわたしたちに、多大な恩を感じていましたね」


 だからこの一手で、遠征軍はこちらにやってこなくなるはずだ。

 航迅の神の加護で移動速度が速いマニワエドたちがくると、側面突撃とか逃げ道の封鎖とかを常に警戒しないといけなくなってしまう。

 そんな厄介な相手が来ないとなれば、こちらが取れる手の幅が増えることにつながるしね。

 さてさて。

 密偵の情報が届き、国軍が動き始めるまで、戦いの準備を進めていくとしようか。

 特に、集まった人たちをビッソンに心酔させて、特攻も辞さない心構えにするそんな仕込みをしていくとしようっと。





 密偵を追放してから十日ほど。

 とても便利な奴隷商経由の情報がやってきた。

 開封すると、国軍が動き出したらしい。

 けれど、各地の戦火が収まっていないため、こちらに来るのはほんの数部隊だけのようだ。

 ご丁寧なことに、移動ルートの予想まで書いてある。

 それを見て、俺は密かに使者に手紙を託し、その部隊に送ることにした。

 お互いが戦う前に、レッデッサー大将とその配下を引き渡す用意がある。そんな文面に、トランジェと名を入れてある。

 これを受け取った国軍の指揮官は、俺が裏切ろうとしていると、さらに誤解を深めることだろう。

 もしかしたら、絶好の内応の相手だと勘違いしてくれるかもしれないな。

 そして、重職ともいえる俺が裏切ろうとするほど、反乱者の内情は危ういのかもしれないと考えてくれるだろうな。

 そうして侮ってくれるほど、こちらは戦いやすくなるんだよね。

 俺が企みを進めている一方で、村の雰囲気は一つにまとまりつつあった。

 狙い通りに扇動が進み、ビッソンについていけば理想郷が待っているという共通認識が、集った人たちの間に蔓延している。

 この日も、ビッソンは元気に演説をしている。


「国軍が動き出したと情報があったが、たった数部隊だけだそうだ! この事実を見るだけで、アイツらは我々を烏合の衆だと、舐めきっていることがわかる! その傲慢さ、許せるか、諸君!!」

「「そうだ! 許せない!!」」

「ならどうする。戦いが怖いと震えて過ごすのか? 迫る脅威に背を向けて逃げるのか? それとも武器を手に訓練を重ね、戦う気概を高めるのか?」

「「逃げ隠れなんてしない! 戦う! 戦って勝つんだ!」」

「その通りだ、我が同胞たち! 国軍と戦って勝ち、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス以外を認めない世の中に、我々が安心して暮らせ理想郷を打ち立てるのだ!!」


 演説の勘を掴んだんだろうな。ビッソンの口ぶりと態度は堂々としていて、身振りも適格に人の感情を操るべく動いている。

 その身動き一つで、人々は熱に浮かされたように声を上げ、周囲にいる人たちと同調していく。

 人々が一つの生物になっていくかのようなこの光景を見れば、祭る神と育った場所が違う烏合の衆だとは、誰も言えなくなるに違いない。

 もうそろそろ、戦いに向かわせても士気は十分に保てそうだな。

 そう考えた数日後、国軍に出した使者が戻ってきた。レッデッサー大将の身柄を受け取るとの約束と、俺に内応を持ち掛ける手紙を持ってだ。

 俺は口をニヤリと曲げると地図を広げて、国軍の移動ルートを確認する。

 そして、反乱者側の移動速度を考えて、交戦位置を決めた。

 場所は、ややこう配がある丘。周囲は平原で見晴らしがよく、側面や背後に回る動きがあればわかるような場所だ。

 先に俺たち側が坂の上に布陣して、国軍側が坂の下に集まる形にするつもりでいる。

 さてさて、では戻って来たばかりの使者には悪いけど、内応するふりとして、この交戦予定の場所を伝えに行ってもらおうかな。

 ついでに、レッデッサー大将をどう引き渡すか詳しい内容の手紙も、持って行ってもらうとしようっと。

 あとビッソンに、戦いへと鼓舞する演説の指導もしないといけないな。

 さあ、忙しくなってきた。ビッソンを新王にするべく、頑張って暗躍しないとね。

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