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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
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百八十四話 考えなしな提案ほど、末恐ろしいものはないものです

 国軍兵士のことごとくを殺し尽くした後で、俺は村人たちの前へと姿を現すことにした。


「初めまして。私こそが、貴方たちに救いの手を差し伸べた、自由の神の神官であるトランジェと申します」


 うさんくさい微笑みを浮かべて放った言葉に、兵士と戦って傷を負った村人たちが顔を上げる。

 彼ら彼女らの顔に浮かんでいるのは、疲労と困惑ばかりだ。

 どうしてこんな事態になったのだろうと疑問している内心が、その顔から透けて見えている。

 俺はさらにうさんくさい笑みを強めて、言葉をかけていく。


「どうやら貴方たちの中には、こんな事態になったのは余計な手紙を寄越した私の所為だと、そう思っていそうな人がいますね」


 指摘すると、身を強張らせる人がちらほら見えた。

 ま、そういう風に思いたくもなるよな。自分の決断で、同じ村の人が死んだり傷ついたりしたんだから。

 けど、そんな安易な逃げ道は許してあげないんだな、これが。


「その考えは、貴方たちの勘違いと断言せざるを得ません」

「ど、どうしてだ。アンタが知らせなきゃ、オレたちは国軍に従って――」

「従って村長一家を差し出して断罪してもらい、自分たちは聖大神教に改宗し『戻って』、平穏に暮らせたのにと言いたいのですか?」


 遮りながら言葉を繋ぐように言うと、反論しかけた村人が口を噤む。

 きっと、俺が言ったことまで言うつもりはなかったが、ほぼその通りのことを思っていたからだろう。

 見回すと、同じ気持ちを抱いていそうな人が目に入る。

 だから俺は、ことさら残念そうな態度を装って、彼らに言葉を投げかけることにした。


「責任転嫁も甚だしいですね。聖大神教に村ぐるみで離脱した判断は、貴方たちが行ったことですよ。なのに国軍にちょこっと突かれただけで、新たに崇めた神を捨てて元の神にを祭りなおそうだなんて、身勝手にもほどがありませんか? しかも自分たちの平穏のためなら、同じ村で暮らした村長一家を生贄に差し出そうなんて、恥知らずと言わずになんと表現すればいいのでしょう」


 少し強く糾弾すると、我慢できなかったように中年の男性が反論してきた。


「村長たちを生贄にだなんてする気はなかった!」


 喋る彼に、俺はにっこりと笑いかける。


「その気がなかったのはわかっていますとも。だからこそ貴方たちは私たちに助けを求め、武器を手に国軍に反抗したのですから」


 理解しているよと口だけで告げつつ、さらに言葉を重ねる。


「そんな毅然とした判断ができる貴方たちが、事態が終わったいまさらに悔いているなんて筋の通らない話だと、私は指摘しているのです。そして悔いるのではく、国軍を倒した反乱者となった後にどうするかを考えるのが、貴方たちの進むべき道なのです」


 俺が力強く主張すると、村人たちが愕然とした顔で内緒話を始めた。


「は、反乱者だって、どういうことだ?」

「いや、でもわかる話だぞ。兵士を殺してしまったんだ。国からしたら、俺たちは裏切りものだ」

「私たちが殺したのって、せいぜい数人程度じゃない。多くはあの人たちが」

「救援を求めた段階で、我々の判断で彼らが行ったことってことになるだろ。いまあの神官さんが、そう話していたじゃないか」


 漏れ聞こえる話を聞くに、考えなしに国軍に反抗をしたらしい。

 決断も遅い上に、こちらが出した提案を考える頭もないなんて、この村人たちいいところなしじゃないか。

 ま、こういう人たちだからこそ、新興宗教にのめり込んだって納得はできるかな。

 そんな能無しの彼らを放置すると、変な風に判断が固まるかもしれないので、ここで介入するとしよう。

 俺は手を打ち鳴らして、村人の注意を引き寄せた。


「終わったことを話しても前には進みません。それに貴方たちには道は一つしかありません。死ぬのが嫌なら、国軍と戦い勝利し続けるという道しかね」


 うさんくさい笑みと共に言うと、村人の一人が俺に縋り付いてきた。


「そ、そんな! こんな戦いを、死ぬまで続けろっていうんですか!!」

「そうなる決断をしたのは貴方たちです」

「知らなかったんですよ! こんなことになるだなんて!」

「知らないことは罪であるとの言葉が指すように、無知は免罪符になりえません。むしろ、害悪だと断じます」


 がっくりと肩を落とす彼に、村人たちが同情の目を向ける。

 視線の集まり方を見るに、彼は村長一家の誰かという感じっぽいな。

 俺は頭の中で素早く考えを巡らすと、うさんくさい笑みを強めて、彼らに背中をあえて向けることにした。


「では、私どもは国軍を倒し終えましたので、この辺で失礼いたします」


 立ち去ろうと一歩踏み出すと、再びさっきの彼が縋り付いてきた。


「み、見捨てる気ですか! こんな、こんな状況を作って置いて!」

「失礼なことを言わないでください。私たちがいつ、貴方たちに、国軍と戦えと命じましたか。再三言っていますが、この状況は貴方たちの行いの所為です。その行動の罪を、私たちに押し付けないでください」


 あえて見捨てるようなことを言いつつ、彼を足蹴にして地面に転がす。

 そして、気分を害したような態度を装い、俺は踵を返して立ち去るかのように見せかけた。

 すると立ち上がった男が、俺を呼び止めてきた。


「待ってください。まだ話は終わってません」

「……いいえ、終わりました。私たちは、貴方たちの救援要請を解決しました。ならこの村に留まる理由はありません」

「いえ、あります。今から俺が貴方に、これからも俺たちと共に、国軍と戦ってくれるよう要請するからです!」


 意外な言葉に、村人たちがどよめく。

 一方で俺は、なかなか面白い決断をしたなって面白がっていた。


「なるほど、要請を出してくるからには、受けるか拒否するかの話は必要になりますね。ですが、貴方にはそれを発議する権限があるのですか?」


 問いかけると、男は胸を張って毅然な態度をとってくる。


「俺は村長の息子のビッソンだ。怪我で伏せる村長から、回復するまでの間、村を頼むと言われている!」

「ほほぅ。そういうことなら、権限はお持ちなようだ」


 俺は立ち去る振りを辞めて、改めてビッソンと名乗った彼に向き合う。


「国軍と戦ってくれと言っていましたが、期間はいつまでですか?」

「もちろん、俺たちが平和に暮らせるようになるまでだ」

「ぷふっ、話になりませんね。ですがあえて聞きましょう。その期間、私たちを拘束するに足る報酬を、貴方は渡せるのですか?」

「報酬を渡せっていいたいのか!? 今回は無料で手を差し伸べてくれたのにか!」

「何を憤っているんですか? 今回と、これからのことは、まったく事情が違うじゃありませんか」


 俺が半笑いしながら言うと、ビッソンは理解できていない顔をしてきた。

 ならと、説明してあげることにした。


「いいですか。今回は、国軍からの不当な圧力を貴方たちが受けていたので、私たちは善意から助けようとしたのです。しかしこれからは、国軍が貴方たちを倒そうとするのは正当な行為です。貴方たちは反乱者なのですからね」


 ビッソンに理解する時間を少し置いてから、俺は言葉を続ける。


「だからこそ、正当な権利の下で動く国軍から、私たちが貴方たちを助ける根拠が欲しいのですよ。でなければ、私たちも助けようがありませんので」

「……事態に足を突っ込んだからには、最後まで責任を持とうという気はないのか?」

「いいえ、まったく」


 一刀で斬り捨てた後で、俺は宣教師風の態度で語っていく。


「私たちは自由の神の信徒。教義は、自分の心に従って行動せよです。なので、なにをやるかやらないかを、自由に決める権利があります。貴方たちが押し付けてくる責任など、欠片ほども気になりませんね。まあ、違う神を崇める貴方たちに、理解してもらおうとは思いません」


 言外に、違う神を崇めているから共通認識はないと、けん制しておく。

 ビッソンが気づいたかは不明だけど、こっちの良心に訴えかけるような真似は止めたようだった。


「なら、何が欲しいか言ってくれ。今は無理だとしても必ず払う」

「本当に虫のいいことを言いますね。欲しいもの払うという口で、いつか必ずとつけて、こちらが納得すると本気で思っているんですか?」

「国軍を相手に戦争をする報酬に見合うものなんて、この村にはない。村人全員を貴方の奴隷にしたとしても、割りが合わない」

「あえて言っておきますが、奴隷なんて必要ないです。私には、他に得難い奴隷がいるのでね」


 あえてエヴァレットの腰を抱きながら言うと、ビッソンは自分の下唇を噛んだ。


「どうしても、手助けしてはくれないのですか……」


 自分でどうにかしろよ、って言いたい気持ちもある。

 けど彼らの立場にしてみれば、俺たちの助けがないと国軍と戦えないという判断は当然ともいえた。

 あまり追い詰めすぎるのも良くないかなと、少し助け舟をだすことにした。


「私は国軍と戦うに足る報酬を提示しろと言ったのです。だから貴方は、夢物語のような報酬でもいいので提示しなさい」

「そんな、さっき空約束は駄目だと」

「はい、全くの空約束は困ります。ですが、国軍を討ち果たした後に得ているであろうものを、将来差し出すという約束なら、受けなくもないという話ですよ」


 さあ、なにを差し出すと、うさんくさい笑みで凄む。

 ビッソンは悪魔に魅入られた村人のように固まり、動きずらそうに口を開いていく。


「あ、貴方たちに、払う報酬は――」

「はい、報酬は?」

「く、国だ。国をやる」


 意外な言葉に、俺は目を丸くした


「国をくれるとは、どういう意味ですか?」

「村の独立を宣言して、独立国になる。貴方たちの助けで国軍を倒して、領地を拡大する。大きな国になったら、その国教を自由の神に定める。どうだ、十分な報酬だろう」


 壮大な絵空事に、俺は思わず大笑いしてしまった。


「ぷふぅ、あは、あはははははっ。自由の神を国教にですか、それは素晴らしい報酬ですね」


 ひとしきり笑った後で、その提案が『面白かった』ので、受けてあげる気になった。

 フロイドワールド・オンラインの中ですら、国教にしようだなんて思ったこと、俺は一度もなかったしね。


「ぷふふっ。分かりました、その条件で手を貸してあげましょう。ですがいいのですか?」


 俺がうさんくさい笑みを浮かべ直して問うと、ビッソンは気圧されたように一歩後ろに引いた。


「な、なにがだ?」

「この提案を持ち掛けるということは、貴方が新たな国の王になると決断したということですよ。その覚悟がおありで?」


 指摘を受けて、ビッソンは考えもしなかったという顔になる。

 おいおい大丈夫かと心配しそうになると、彼の顔がギュッと真面目な感じに固まった。


「もちろんだ。生きるか死ぬかの瀬戸際なら、国の王になるぐらいの野心を抱いたっていいだろ」

「なるほどなるほど、確かにその通りです。ではその決断が鈍らないうちに、各地に向かって檄文を撒くとしましょう」


 ウキウキと俺が言うが、ビッソンはよくわかっていないようだ。


「手紙を出すって、どんな内容でだ?」

「国軍は各地で宗教弾圧をしているようですからね。この村が反旗を翻し、国軍の一部隊に打ち勝ったと知らせるのです。そうすれば、各地で反乱がおこったり、この村を反抗拠点にしようとする輩が大勢集まったりするでしょう」

「え、まさか、そんな」

「貴方の決断のお陰で、国を割る大戦争になるかもしれませんね。よろしく旗頭を頼みますよ、ビッソン新王さま」


 冗談で王と呼ぶと、ビッソンは顔を真っ青にして慄き始めた。

 けど、彼はもうすでに決断してしまっている。

 自由の神を新たな国の国教に据えると、そう俺に約束してしまった。

 これほどの提案は、今後二度とないはずだ。

 そんな面白そうなことを、俺がやらないはずがないし、達成しようとしないはずもないよね。

 未来はどうなるかは分からないけど、せいぜい楽しんで世界を引っ掻き回すとしましょうか。

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