百八十話 戦いの前だよ、仲間が集合!
買ったボロ馬車を使い潰すように移動した俺たち一行は、ジャッコウの里にある砦の元・指揮官がいる場所の近くまできていた。
移動疲れをとるためと、国軍の情報を得るため、街道で野営することにした。
そこにバークリステたち、復興村に置いてきた自由神信徒の仲間たちがやってきた。
懐かしく感じる顔に、俺の頬が緩んでしまう。
けど、戦いの前だからと顔を引き締め直すと、見計らっていたかのようにバークリステがやってきた。
「トランジェさまの招集を受け、全員集めてまいりました。村で収穫した作物も、かなりの量をもってきてあります」
「急な動員指示だったのに、対応してくれてありがとうございます。それで、頼んでいた件の国軍の動きはどうですか?」
バークリステは言いよどんでから、川沿いの町で話になった自由神信徒の村について、教えてくれた。
「村人たちは国軍によって、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒に改宗させられました。そのときの村長と一家は、邪教を信じた罪として、処刑させられたと聞いています」
「そうですか。聖教本に従って、邪教と認定した輩を抹殺するのは、国軍の対応としては当然でしょうね。とはいえ、無辜の命が散ったことは、悲しむべきことですね」
俺は自由神信徒に教化した、その村のことなんか覚えていない。
けど一癖も二癖もある人がいたら印象に残っているはずなので、覚えていないからこそ、そこの村人たちは取るに足らない善人だったはずだ。
そんないい人たちが殺されてしまったと聞くと、やっぱり気分が悪くなる。
そもそも、自由神は邪神ではないし、教義も邪教と呼ばれるほど逸脱したものじゃない。
ということは、元・指揮官のいる国軍は間違った判断の下で、誤りの断罪を行ったということだ。
その犯した罪を償わせるためにも、やっぱり全滅させないと駄目だよな。
うんうんと一人で納得しつつ、バークリステに次の質問をする。
「村を改宗し終えた例の国軍は、いまどの辺に向かっているかの情報はありますか?」
「もちろん、クトルットから入手しております。どうやら、わたくしたちが復興した村に向かっているようですね」
なんとなく、やっぱりという気になった。
「どうして、私たちの村に来るのか、理由はわかりますか?」
「的確な情報はありませんが、こちらにくる理由については色々な噂がありますね」
「例えば、どんなものがあるのでしょう」
「指揮官が律儀な性格で村を一つずつ調べて回っているとも、邪神教の情報を受けて向かっているとも、森の際にできたゴブリンの集落を叩きに移動しているだけとも、言われています」
噂の内容が散っていることからすると、明確な話ではないみたいだ。
ま、噂の真偽はともあれ、国軍を放置できない理由が増えたな。
復興村は、今後の展開に重要な拠点になる予定の場所。国軍に調査されると、大変に具合が悪いんだよね。
奴隷商は各地の先祖返りの子供を買う計画を立てているし、畑には怪しげな魔法で時季外れに大量に実った作物がどっさり。その上に聖大神教徒のはずな村人が、祈りを別の神にも捧げている。
これはもう、詳しく調べないままに邪教認定を下されても、おかしくないよなぁ。
自分のしでかしたことの多さに、ちょっと反省する。
けど、国軍を倒しさえすれば万事解決だと、気分を転換させることにした。
「復興村まで、いくつか村が間にあるはずですが、国軍はそこを通過するようですか?」
「いえ。途中の村々も、聖大神教徒ではなくなっているようですので、国軍は立ち止まって調べるのではないかと思います」
歯切れの悪さから、バークリステの予想だと当たりがつく。
でも頭のいい彼女が考えたことなら、信用を置いてもいいんじゃないかな。
「では、どの村であれば、私たちの内応にこたえそうかは、わかりますか?」
バークリステは少し考え込んでから、悩ましげに答えてくれる。
「正直に言いますと、全ての村に可能性があります。そもそも、それらの村が改宗に至ったのは、旧来の聖大神の神官や上層部に不満を抱いていたからです。なのに、いまさら国軍が出てきて、もう一度聖大神を崇めろと迫ってくるのです。いい気はしないのではないかと」
「その通りですね。先の村で村長一家が処刑してしまったことが、国軍の痛手になってくるでしょうね」
改宗だけで済ますなら、反発はあっても反抗までには至らなかっただろう。
けど、邪教と認定されたら殺される可能性があると知って、村人たちは大人しく沙汰を待つだろうか。
少なくとも、調べられる村の村長一家は、結果が出る前に生き残る方策を立てようとするはずだ。
そこで俺たちが反乱を持ち掛け、国軍を村の外と中から挟み撃ちにする、という感じになるかな。
「であれば、次に国軍が向かう村で、行動を起こしたほうが最善ですね。後になればなるほど、どうして先の村は助けてくれなかったのかと、不審に思われることになりますし」
そう結論付けようとして、一つ大事なことを忘れていたことに気づいた。
「そういえば、国軍の人数はわかりますか?」
数は力だ。国軍があまりに大人数だったら、戦っても勝てないからと、村人が反乱に乗ってこなくなる。
それに、流石に色々な魔法が使える俺でも、万の兵士を相手に勝てるなんて自惚れられない。トランジェはもともと、趣味キャラで強くはないんだしね。
そんな懸念を抱いていると、バークリステは思い出すような素振りをして言う。
「たしか、二百から三百人だったかと」
「……それだけなんですか?」
数を聞いて、単純に少ないと思った。
けどそれは俺の考え違いだと言いたげに、バークリステは首を横に振った。
「村の調査でこの人数は、過剰なほど多いです。よほど力のある指揮官が上にいないと、これほどの人数を保持させてはもらえないでしょう」
「そうなんですか? 遠征軍よりだいぶ少ないと思うのですが?」
「ただの一部隊で、二百人だと考えてください。そうすれば、数が多いとお分かりになるはずです」
指摘を受けて、俺は腕組みして考えてみる。
元の世界で聞く動員兵士の数が、千とか万とかを平気で超えるニュースを聞いているので、どう考えても多い気がしてこない。
けど、屈強な男が二百人いると想像すると、恐ろしい気もしなくはないな。
国軍は遠征軍より屈強な兵士ばかりらしいし、警戒度合いを上げないといけない気がしてきた。
やっぱり、なにごとも楽観はよくないよな。
「ふむっ。では一応、レッサースケルトンを瞬殺する力を持つ兵士が二百から三百と、そう仮定して作戦を立てましょうか」
「それが良いと思います。強敵だと想定して勘案することが、勝利につながる道だと考えます」
ではどういう作戦でいこうかと、こちらの手勢と特技を考慮に入れて、真向からやからめ手に至るまで、取れそうな方策を考えることにしたのだった。




